第45話 括り人
※この話の中で『大和族』という単語が出てきますが、大和族とは、古代日本において大和朝廷を築いた主流派の事です
『――――菊理様は『括り人』だ』
幸の言葉が、夜の屋敷に静かに放たれた
初めて聞くその呼び名に、一同は困惑を隠せずにいる
沈黙が続く中、それを破る怒号が響き渡った
「はぁ!?括り人だぁ!?どういう事だそりゃあよ!!」
どうやら事情を知らない様子の海が、幸に詰め寄る
「兄者、先祖達が遺した書物を見てないのか?隼人隊を引き継ぐ時に見るように再三言っただろ?そこに書いてあったんだ。括り人と呼ばれる黄泉人が存在すると」
「読む訳ねぇだろ面倒くせぇ!!いいから分かるように説明しろ!」
兄弟間で揉めている最中、嗣臣が静かに口を開いた
「―――我らにも説明願いたい。括り人なる者など、初めて耳にした。それと菊理がどう関係あるのか、我らも知りたい」
嗣臣の申し出に、幸は少し考えた後、小さく息を吐き、頷いた
「……………分かりました。では立ち話もなんですし、中でお話しましょう」
そう告げると、幸は嗣臣達を屋敷の中へと案内した
―――――――――――――
その後、嗣臣達は隼人隊の屋敷の一室に通された
質素だが整えられているその一室に、向かい合うように嗣臣達と海と幸の兄弟が座っている
静寂に包まれた一室とは対照的に、外では他の隼人隊員と黄泉守人が、先程の争いで半壊した屋敷の修復作業を行っており、隊員達の掛け声や、瓦礫の音などが響いていた
そんな中、沈黙を破ったのは嗣臣だった
「―――では、聞かせてもらおうか。その括り人について」
幸は頷くと、すぐに本題には入らず、ある事を尋ねた
「はい……その前に、1つ確認なのですが、菊理様は元人間なのでしょうか?」
「如何にも。菊理は元人間だ。訳あって俺の血を使い、黄泉人にしたが………それがなにかあるのか?」
嗣臣の話を聞き、「やはりそうか」と呟くと、幸は語りだした
「隼人族は、千年以上前に武力に長けた者と霊力に長けた者と別れ、前者は現世に、後者は狭間に渡り黄泉人になった事は、皆様ご存知ですね?」
幸の問いに一同が頷く
「その時に黄泉人になった隼人族や、間を置いて狭間にやって来て黄泉人になった隼人の血を引く者の中に、黄泉人に『変わり損なる』者が稀に現れる事があったのです」
「変わり損なる………?それはどういう事だ?」
聞いたこともない言葉に、嗣臣は眉をひそめ問い返す
すると幸はこう続けたのだ
「黄泉人になり、強大で異質な霊力を扱えるにも関わらず、強い力を使うと拒絶反応を見せるかの様に、身体が霊力を受け付けない体質の者の事です」
その説明を聞いた途端、空気が変わる
嗣臣は目を見開き、菊理もまた驚き声を上げた
「あ………!」
「おい、それって………まんま菊理の事じゃねぇか!」
道之もまさかの展開に驚きを隠せない
(じゃあ、私の身体が動かなくなるのは、完璧な黄泉人になれなかったからってこと!?)
菊理は過去の出来事を思い出す
道之の妻・蓉子とそのお腹の子を助ける為に力を使った時、穢神に変わってしまった寿美と対話する為、精神世界へ干渉した時―――
そのどちらも、力の代償かのように身体が麻痺したように動かせなくなり、その後気を失っていた
今までの疑問が、点と点で結ばれ線になる
「そう――そしてその体質の者は、揃いも揃って『繋ぐ』『括る』という能力を持っており、その能力は現世や常世にも干渉できる―――我々はその変わり損なり、異質な力を操れる黄泉人を『括り人』と呼んでいたのです」
まさかの事実に、一同は動揺を隠せずにいた
菊理自身も、異質な存在である事に戸惑っている
(………括り人……私が?でもそれでどうすれば―――)
不安をあらわにしていると、手に温かな温もりが伝わった
「あ……」
嗣臣が安心させるかのように菊理の手を握ったのだ
そして彼は再び口を開いた
「………成る程。しかし疑問なのだが、何故その括り人なる者の存在を、今まで我らに黙っていた?その様な能力を使う者がいたのなら、こちらも存在を把握したかったのだが」
「それは―――」
「そんなん決まってんだろ!お前等の事なんざ信用出来ねえからだよ!!」
幸の発言を遮るように、海が声を荒げる
「信用出来ないとは?我らは隼人族達を冷遇した覚えはないが?」
「はっ!そんな事言って、どうせ俺等を良いように使おうとしてるのは事実だろ?弟は騙せても俺は騙されねぇから――」
「兄者!話を拗らせないで!」
幸がピシャリと海を黙らせる
海は不服そうに舌打ちをし、頬杖をついた
そんな兄とは対照的に、幸は場を直すように頭を下げる
「………すみません。隼人族がここまで疑り深く保守的なのは、千年以上前に先祖達が自らの意志とは反して、戦いに敗れ大和族に従い、朝廷を護る任務を強いられていた苦い過去があるのです。兄者が喧嘩っ早いのは元々ですが………比良坂様達に括り人の情報を開示しなかったのは、そういった事情もあったのだと思います」
幸は申し訳なさそうに話す
どうやらそこには長い年月積み重なった歴史の重みが関係しているようだった
「ふーむ。成る程な。だが、その霊力を受け入れない身体をどうするんだ?なにも対策が無かったら、意味ねぇだろ?」
ふいに道之が疑問を投げかけると、幸が答えた
「それは心配に及びません。菊理様お一人で行う事にはなりますが―――なり損なった黄泉人を補う方法があるのです」
その言葉に、一同が注目すると、幸は静かにこう続けた
「菊理様には天界へ出向いてもらい、そこで共有の括り紐を手に入れてもらいます」




