第44話 思わぬ伏兵
思わぬ苦戦を敷いられた天鬼は、身構えつつも先手を打てず、動けないでいた
一方、幸も天鬼の出方を伺うように見つめ動かない
両者が睨み合っている状況を、菊理は固唾を飲んで見守る他無かった
「………では、今度はこちらから―――参る!」
先に動き出したのは幸だった
幸は盾を抱えながら地を蹴り、高く跳び上がると、それを天鬼に振り落とす
「――――っぐぅ!」
天鬼は受け止めるも、その攻撃の重みと、盾の邪を弾く反動が重く身体にのしかかる
そんな天鬼を他所に、幸は間髪入れず盾を振り回し、攻撃を止めない
幸が盾を振り回す度に、ブン……という唸る様な音が聞こえる
「――――むぅん!」
天鬼は自身が弾かれる事を承知で、攻撃を仕掛けるも、盾に触れる度火傷の様な痛みが走り顔が歪む
「………痩せ我慢も、そろそろ限界だろ?魔の者よ」
「……だからなんだと言うのだ……天鬼は………天鬼は……!」
天鬼は呼吸を乱しながら、脚を踏ん張り、構える
――――菊理を助け出すまで、倒れる訳にはいかない
主の命と、菊理を助け出したいという気持ちを胸に、天鬼は地を蹴った
「こんな所で引く訳にはいかぬのだぁぁぁぁ!!」
満身創痍の中、天鬼は幸に飛びかかる
しかし、その闘気も虚しく、幸が盾を振り回すと、鋭い一撃が天鬼の身体に入った
「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
地面に叩きつけられた天鬼は倒れ動かなくなる
そしてそれと同時に、ぽんっ、と身体が普段の幼児化に戻る
「天鬼ちゃん!!」
動かなくなった天鬼を見て菊理が叫ぶ
「………も、申し訳ございましぇん……菊理しゃま…………」
天鬼は弱々しく謝罪の言葉を吐いた
「魔の者にしては良くやった方だな………だが、終わりだ」
そう言って幸は再び盾を振りかぶろうとする
「止めて!幸君!」
菊理が懇願するも、容赦なく天鬼に盾が振り落とされようとした、その時だった
「きゅーーー!」
この状況には似つかわしくないような、甲高く愛らしい鳴き声が響き渡った
思わずその方向を見ると、そこにいたのは福だった
福は塀の上から飛び降り、倒れている天鬼の元へ駆け寄る
「ふ……福ちゃん!」
菊理は思いがけない福の登場に、戸惑いの声を上げる
一方、幸は怪訝そうに福を見つめている
(……また、魔の者か………だか、何故だ?魔の気配を一切感じない)
幸は微かな違和感を感じながら、心配そうに天鬼を舐める福を見つめる
「…………だが、どうあれ、俺は障害になる者を祓うのみ!」
そう言って幸は構えの体勢に入ると、跳び上がり、福に向かって一撃を入れようとする
「――――っ!!福ちゃん逃げて!」
菊理が叫ぶも、それよりも速く幸の攻撃が当たりそうなる―――
しかし、福は攻撃を受け止めるかのように、額のツノで応戦した
ガイィンッ!!
頑丈なと隼人の盾と、福のツノがぶつかり合う
ツノで迎え討とうとする福を見て、幸は咄嗟に攻撃を止め、盾で身を守ったのだ
(ツノで応戦しているとは言え、所詮魔の者。先程の魔の者と同じく、また限界を迎えるだけ―――)
幸がほんの少しだけ、高を括っていた時、福が少し勢いをつけ、再び盾にツノをぶつけた
すると―――
バキィッ!!
「―――――――っ!?なっ!?」
隼人の盾が音を立てて真っ二つに割れたのだ
予想外の事態に、幸は目を見開く
(何故!?何故魔の者に隼人の盾が破れる!?)
動揺を隠せない幸は、福の動きを見逃していた
福は跳び上がり1回転すると、後ろ脚で幸を思いっきり蹴り上げた
「――――ぐあぁぁっ!!!」
幸は勢い良く吹き飛ばされ、塀に身体を強く打ち付けた
(…………いや、違う!あれは魔の者なんかじゃなかったんだ!………あれは神獣…………!聖なる……者!!)
福が神獣だと気付いた幸は、打ち付けられた衝撃で意識が薄れゆく中、佇む福を見つめる
すると菊理は福に駆け寄り、身体を褒めるように撫で回した
「福ちゃん!ありがとう!よくやっつけたね偉いよ!」
「きゅー!!」
福は嬉しそうに菊理に寄り添う
その様子を見た幸は、頭の片隅にあった過程が確信に変わった
(菊理様がアレを従えているならば………やはり、菊理……様……は…………)
その答えに辿り着くと、幸の意識はそこで途切れてしまう
そんな事を他所に菊理達が喜びあっていると、地面からか細い声が飛んできた
「よ……よくやりまちた福よ……それでこそ、天鬼の子分……でしゅ」
菊理達が下に目線を移すと、天鬼が力を振り絞り、親指を立てながら福を讃えていた
満身創痍だった天鬼を思い出し、菊理は慌てて駆け寄る
「天鬼ちゃん!大丈夫?痛いよね」
「ちょっとヒリヒリちまちゅが……平気でしゅ。寝れば治りましゅ」
そう言う天鬼を菊理は抱き上げる
身体には軽い火傷の様に赤く腫れ上がっている跡が、いくつも見える
「後で手当てしないと……でもその前に、行かなきゃ。嗣臣さんの元に」
そう呟くと、天鬼を抱きかかえたまま福の背にのり、嗣臣の元へと急いだ
―――――――――――
その頃
嗣臣と海の闘いはお互い一歩も引くことなく続いていた
「オラァ!!」
海の拳が顔目がけてくると、嗣臣は手でさらりと受け流す
「坊っちゃん育ちのくせに、体術まで極めてるたぁやるな当主様!」
すると、海が姿勢を一気に低くし、回し蹴りをして嗣臣の脚を引っ掛けた
嗣臣の体勢が崩れる
「だが――終わりだぁ!」
剣を抜き、嗣臣目掛け振り下ろされる
「―――っ!」
絶対絶命かと思われた時、雷と共に海に拳が飛んできた
海は素早く身を引き、辛うじて避けた
「よぉ。大丈夫かぁ嗣臣。手助けするぞ?」
「道之………」
そこには遅れてやってきた道之がいた
「ああ、助かる。少々厄介な相手でな。」
「なんだよ2対1たぁ卑怯じゃん………だが、まとめて相手してやんよ!」
海はその逆境に燃えるかのように、不敵に笑い構える
こうして嗣臣と道之、海がぶつかろうとしていた、その時
「止めて!」
遠くから声が飛んできた
思わず3人が一斉に声のした方向へ目を向けると――――
そこには福の背に乗り、天鬼を抱きかかえている菊理の姿があった
「―――菊理!」
嗣臣が思わず名を叫んだ
そこには安堵が滲んでいる
福が動きを止めると、菊理は福から降り天鬼を福に任せ、小走りで嗣臣の元へ駆け寄る
「心配かけてごめんなさい嗣臣さん。でも私は無事です。何もされてません」
「そうか……」
短く答えた嗣臣は、おもむろに菊理を抱きしめる
「あ……」
「……………良かった」
嗣臣は人目も憚らず、嬉しさと安堵を顕にする
「良かったでしゅねぇ主」
「きゅう」
天鬼と福はうんうんと頷き温かく2人を見守る
しかし一方、それを複雑そうに見つめる人物が1人いた
(………なんか寿美の時より独占が強くなってねぇかコイツ)
口には出さないものの、道之は眉をひそめた
そして、道之の後ろで少し離れた所で彼らを見つめる人物が、もう1人いた
(………あの嫁がここにいるってことは、幸がやられたのか!?)
若干その事実を信じられないような様子で、海は菊理を見つめる
そしてもう1つ、彼が気になっている事があった
(その前に、なんだあのマヌケで頼りなさそうな妖獣は?なんで魔の気配を感じねぇ?)
初めて見る福の姿とその違和感に、海が首を傾げていると、再び遠くから声が飛んできた
「―――――兄者!」
幸が身体を押さえながら、駆けてくる
「幸。お前どうした。やられるたぁらしくもねぇ」
「いろいろ言いたいことはあるが―――菊理様を人柱にする話は無しだ。状況が変わった」
「はぁ!?」
幸の突然の心変わりに、海は声を荒げる
そして、それを聞いた菊理達も驚いたように幸を見つめた
「どういう風の吹き回しだ?案外アッサリ諦めるんだな」
道之が意外そうな表情を浮かべると、幸は静か口を開いた
「いえ、菊理様のお力をお借りするのは変わりありません。ですが、菊理様の命を犠牲にする事がなくても良いかもしれない―――そういう話です」
「どういう事だ幸!説明しやがれ!」
状況がよく飲み込めない海は苛立ちをあらわにし、幸に詰め寄る
しかし幸は動じる事なく淡々と説明し始めた
「菊理様の噂を聞いた時からもしやとは思っていたが、この神獣を見て確信した」
そう言ってちらりと福を見つめる
福はキョトンとした表情で、幸を見つめ返している
そして彼は静かに、こう告げた
「――――菊理様は『括り人』だ」




