第43話 天敵
同じ頃
隼人達の屋敷では、黄泉守人の襲撃に応戦していた
怒号と金属音が絶え間なく響き渡り、屋敷の庭はすでに戦場と化し、瓦礫と血が散乱していた
「黄泉守人達を追い返せ!屋敷に入れるな!」
隼人隊隊員の叫びが響きわたる
しかしその時、嵐の様な力が戦列を薙ぎ払った
「ぐああぁぁぁぁ!」
「………菊理様を危険に晒す者、許すまじ。天鬼が天誅を下す」
天鬼が殺意の滲み出しながらゆっくり歩み出す
圧倒的な威圧感が周囲に満ち、隼人隊も一瞬怯む
「怯むな!やれー!」
しかしすぐに正気に戻り、隼人隊は果敢にも立ち向かっていく
だが、それも虚しく一蹴される
「むうぅぅぅぅぅん!」
まるで枯れ葉が風で舞っていくように、隊員たちが飛ばされていく
道が開けると、待っていたように嗣臣が前へ出た
「皆、一気に攻めろ!」
「応ッ!」
嗣臣の号令と共に、黄泉守人達が一気に屋敷へとなだれ込んでくる
このまま黄泉守人が優勢のまま進んでいくかと思われたその時、鋭い一撃が天鬼を掠めた
「ぬっ!?」
僅かに天鬼の体毛が切られる
天鬼が前を向くとそこには人影が立っていた
「おおっと!こっから先は行かせねぇよ?」
刀を肩に担ぎ、不敵に笑う海の姿だった
そして間髪入れずもう一振りした時、嗣臣が影を使いそれを防いだ
「主!」
「行け!天鬼!菊理を見つけ出せ!」
「承知!」
そう言って一瞬で地を蹴り、駆け抜けて行った
小さくなっていく天鬼の背中を嗣臣が見つめてると、海が口を開いた
「………ふん。妖獣を逃がしたか。まぁ妖獣如き俺らの敵じゃねぇ」
「えらく強気だな。その割には、お前達の方が圧されてるぞ?」
「ハッ!こっから立て直すんだよ!戦闘民族舐めんなよ当主様よぉ!」
そう叫んだ瞬間、嗣臣に飛び込み一気に距離を詰める
「ふっ………」
嗣臣は紙一重の所で交わし、体制を立て直すと、手をかざし影で無数の矢を作り、それを海に向かって一気に振り注いだ
無数の黒い矢が海に降り注ぐ
―――しかし
「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
海は素早い剣捌きで全ての矢を切り刻み消した
そして嗣臣を見て、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた
「今度はこっちが仕掛けてやんよ!」
そう言って再び嗣臣に向かって飛び込む
「猫柳!」
嗣臣は影から猫柳を出した
しなやかな身体が中を舞い、紫の毛をなびかせながら鋭い一撃を海に与える―――筈だった
「ウゥー……ウゥゥゥー………」
海が突然、犬のような唸り声を上げだした
その低い唸りに空気が震える
すると、猫柳の動きが止まったか、と思うと一瞬で踵を返し嗣臣の元に戻る
「猫柳!?どうした」
嗣臣が声をかけるも、猫柳は怯えたように毛を逆立て丸まっている
「吠声を聴くのは初めてか当主様?」
「吠声?」
「隼人の吠声は邪を祓う効果があんだよ。実際先祖達はそれで昼夜朝廷を護ってきた。まあ先祖達のとは若干用途を変えたから別物だが………妖獣は魔の者、効果はてきめんって訳だ」
そう言って、海はその低い唸りを響かせ続ける
(………成る程。流石人間ながら霊力を使っていた一族だ。厄介だな)
冷静に分析しつつ、再び猫柳に目線を落とした
猫柳は未だ怯え、戦意喪失状態だ
その時、嗣臣はある事に気づいた
――――同じ魔の者の天鬼にも、この術は効いてしまう―――と言うことに
「……!なら天鬼は―――」
「あー、あのデカブツな。そのうち弟がフルボッコにすんじゃねぇかな」
海が気だるそうに耳穴を掻きながらそう言う
そして次の瞬間、切り替わったように嗣臣を鋭く見据える
「だか、今は俺との闘いだろ?集中しろよ当主様よぉ!」
素早く飛びかかる海を、嗣臣は影を操り阻止する
両者一歩も引かない中、闘いは続く
―――――――――――――――
その頃天鬼は屋敷内を駆け回っていた
その合間にいくつもの障害を力でねじ伏せ、躊躇うことなく前へと進んで来ていた
(菊理様……どうかご無事で)
そう祈るように辺りを見渡す
すると、ある離れの一角から明かりが漏れているのを見つけた
人の気配があるようで、不自然に静かなその一角を、天鬼は見逃さなかった
「――――そこか」
天鬼は駆ける速度を速め、地を蹴り跳び上がる
「ふんっ!」
宙を舞い塀を軽々飛び越える
勢い良く着地すると、そこに菊理がいた
突然現れた天鬼を見て、目を丸くしている
「天鬼ちゃん!」
「菊理様!」
天鬼達が安堵していると、その空気を壊すように、幸がゆっくり立ち上がった
「来たか。妖獣一体………俺の敵ではないな」
「戯れ言を抜かすか!」
天鬼は躊躇することなく、幸に一撃を食らわせようとした――――
しかし
バチッ―――!
「ぐうっ………!」
天鬼の拳が『何か』に当たった瞬間、痛みが走り、思わず身を引いた
当たった拳は火傷を負ったかのようにヒリヒリと痛む
天鬼の視線の先には幸が持つ大きな盾が1枚あった
赤と黒の渦巻文様が特徴的だか、一見何の変哲も無さそうなその盾に、天鬼は拒まれたかのように跳ね返された
「戯れ言………?本気だぞこちらは」
(なんだあの盾は………!ただの木製の盾なのに何故……!)
得体のしれないその謎の盾に、天鬼は警戒心をあらわにする
そして幸がじりじりと近付きながら口を開いた
「不思議か?この邪を祓う隼人の盾が」
「隼人の盾だと?」
「我らが何千年、呪術と共に歩んで来たと思っている。邪を祓うなど朝飯前だ。特にお前のような魔の者はな」
そう言い終わると、幸は体勢を低くし、構えの姿勢になる
その目は完全に戦闘態勢に入っている
(そんな……天鬼ちゃんが苦戦するなんて………)
天鬼の初めての苦戦に、菊理は固唾を飲んで見守る他無かった




