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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第42話 分岐点があったのなら

「菊理―――!」


夜の静寂を切り裂くような叫びが響いた

隼人隊に連れ去られる菊理を目で捕らえながら、嗣臣は迷うことなく駆け出した

すると、道之が彼の肩を掴み止めた


「待て!嗣臣!一度戦況を考えてから挑んだ方がいい!」


「そんな悠長な事してられると思うか!」


嗣臣の怒号が夜の外に響きわたる

普段感情を表に出さない嗣臣が、怒りを抑えられずにいた


「今すぐにでも菊理を取り戻す。隼人隊を敵に――いや、隼人隊を壊滅させてでも菊理を助け出す」


そう吐き捨てるその表情には、明確な殺意が溢れていた


すると嗣臣は自身の影から天鬼を呼び出す


「天鬼!」


「はっ!」


「菊理が隼人隊に連れ去られた。隼人隊を薙ぎ払え。殺しても構わん。やれ」


「御意!」


主へ返事をすると、天鬼の身体が膨れ上がり骨が軋み、肉が膨張し瞬く間に巨大な異形へと変貌させた


そして、巨体を揺らしながら、夜道を一直線に駆け出した


嗣臣はそれを見送ると、次に影から福を出した


「福も主を見つけて保護してくれ」


「きゅ」


福は返事をすると、天鬼を追うように駆け出した


「皆も続け!隼人隊の独断行動を許すな!」


「応ッ!」


嗣臣の号令に、他の黄泉守人達も声を上げ、一斉に動き出した


「あーあ。全く突っ走りやがって」


1人、道之だけは立ち止まり、その様子を見つめる


(心なしか、寿美の時より取り乱し方が酷くなってねぇか?寿美の兄貴としては複雑なんだが)


道之はため息をつくと、ゆっくりと嗣臣達の後を付いていった


――――――――――――


菊理が連れ去られて数十分後


菊理は隼人隊の屋敷の一室、その一角にいた


しかし囚われの身でありながら、その部屋は完全に閉ざされた場所ではなく、襖は開け放たれ、逃げようと思えば出来そうな雰囲気だった


そしてそのすぐ側には、見張り役の幸もいる

幸の傍らには木製の盾のような物があり、その盾には白く塗られた板に赤・黒の渦巻きが2つ描かれ、盾の縁には鋸歯文様が描かれていた



「すみません菊理様。兄者が手荒な真似をしてしまい」


「あ、えっと………」


突然の謝罪に、菊理はなんと返していいのか分からず、戸惑っていた


(敵?に囚われたにしては、自由にさせるんだ………)


そう思いながら、拘束されてない身体を見つめる


監禁もしされてなければ、拘束もされておらず、言わば軟禁状態だった


「兄者は、この世界の危険因子を取り除きたいだけなのです………俺個人としては、賽河に恨みは無いですが、今の彼は危険だ」


「恨みは無いって………月彦さんの事、毛嫌いしてる訳じゃないんだ?」


意外な発言を聞き、菊理が思わず尋ねると、幸は静かに頷いた


「俺以外の黄泉人達も、皆そうだと思いますよ………そりゃ兄者は嫌ってるけど……ほとんどは一目置いてたと思います」


「え……私や嗣臣さん以外からは嫌われてるって聞いてたけど……そうなの?」


『嗣臣や菊理以外からは忌み嫌われている――』

月彦本人がそう語っていた事が、幸から聞いた話と違い、菊理は目を瞬かせる


「そうですよ。俺等は嫌ってたんじゃなくて、少し怖かっただけです。穢鬼を宿していますから、得体が知れないというか………でも、頭から嫌ってた訳じゃないです」


「そっか、そうだったんだ……もし月彦さんがそれを知っていたら、こんな事にもならなかったのかな」


菊理はぽつりと呟いた


あの日、薄れゆく意識の中見た嗣臣の悲痛な顔、そして寂しそうな月彦の後ろ姿―――


もし、この未来が変わるような分岐点があったなら―――――


彼女はそう思わずにはいられなかった


「……どうですかね?でも、賽河を救う手段はなかったのか、それは俺も少しだけ考える事があります。兄者に言ったら、キレられると思うけど」


「幸君は優しいんだね」


菊理が笑みを浮かべて言うと、幸は目を逸らした


「いや、別に優しい訳じゃ………」


少し照れたように呟いた、その時だった


ドオォォォン!


屋敷の奥から、何かが破壊されるような音が聞こえた


「―――!」


突然の事態に息を呑む

衝撃で、天井からパラパラと埃が落ちてきた


「今の音は……」


「予定よりも早いな、黄泉守人が来たか」


幸の目つきが鋭くなり、先程とは打って変わって戦闘態勢に入る


「嗣臣さん達が………!」


菊理は物音がした方向を見ながら嗣臣を思い浮かべる


この屋敷で、激しい抗争が始まろうとしていた

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