第40話 隼人隊の要望
それから数時間後―――――
菊理は嗣臣に連れられ会合が行われる古い神社のような場所に来ていた
苔むした石段、風に揺れる古い御神木、そして長い年月を感じさせる拝殿――――
古びていながらも、どこか厳かな雰囲気を感じさせた
そして周りには嗣臣の伝達により集まった黄泉守人達が集まっている
皆、黒の軍服に身を包み何処か緊張感を滲ませていた
菊理は拝殿からそのピリついた空気を感じ、少し怖気付いていると、聞き慣れた低い声が聞こえた
「よぉ菊理」
「道之さん!」
菊理が声を上げると、道之が手を上げ菊理の横に付いた
「大変だったな。お前も巻き込まれるはめになるとは」
「はは………。どうして私なんかがって感じですけど」
苦笑を浮かべ答えていると、準備を整えた嗣臣が姿を現し、拝殿に立ち他の黄泉守人達を見下ろすと、口を開いた
「皆、急な招集に駆けつけ集まってくれた事、誠に感謝する。此度は緊急を要する事態が起きた―――元御三家・賽河家当主、賽河月彦が現世と常世を統合するという企てを先程賽河側の使いから耳にしたのだ」
嗣臣が明かされた事実に、その場がざわめいた
驚きと困惑の声があちこちで上がる中、嗣臣は更に続けた
「そして、その企ての為に、我が妻菊理の力を利用しようとしている。妻には物と物を繋げる能力がある。恐らくそれで現世と常世を繋げられるやもと思ったのであろう」
その言葉に、皆の視線が一斉に嗣臣の隣にいる菊理に注がれた
好奇と吟味する様な視線が刺さり、菊理は思わず目を逸らした
「この世界の均衡が崩れるなど、絶対にあってはならぬ。賽河月彦の企みを阻止し、奴を処分せよ!」
その宣言に、黄泉守人達は一斉に声を上げた
目には闘気が満ち、それぞれの思いが1つになる
その時だった
パチ……パチ……と、ゆっくり拍手をしながら拝殿に歩み寄る2つの影が現れた
「――――いやはや、とてもご立派な御高説で。流石御三家の1人………あ、もう御三家とは言わねぇか」
そう皮肉たっぷりに吐き捨てながら嗣臣を見つめ、青い髪を揺らしながら口の端を歪めていた。外見的には20代前半くらいの男で、左頬には大きな傷が走り、見る者に威圧感を与える。
その隣には、まだ10代くらいの外見の若い男がいた。白髪を半分刈り上げ、鋭い目つきに目の下の傷が一層の冷たさを際立たせている
「……………隼人隊か」
嗣臣が低く呟いた
菊理は初めて耳にするその単語が気になり、コソリと隣にいる道之に尋ねる
「………あの、道之さん。隼人隊ってなんです?」
「あ?お前元人間じゃなかったっけ?隼人族って聞いたことねぇか?」
「いえ全然」
「あー……もう廃れちまったか。隼人族ってのはな、大昔の南九州に住んでいた民族だよ。独自の文化を持ってて、朝廷に仕えてた時なんかは呪術を使って護ってたなんて話もある。そのうち民族内で枝分かれして、霊力の強い一部の隼人族はこの狭間に渡り、黄泉人となりここでは隼人隊と名乗って、黄泉守人とは一線を引きながらも現世と常世の守りをしてんだよ」
「へぇー………」
菊理は感心したように頷くと、再び嗣臣達に視線を向けた
すると嗣臣がしばしの沈黙の後、口を開いた
「…………何か用か?隼人隊・隊長、大隅海殿」
そう静かに、青色の髪の男―――海に尋ねる
「いや?だけど少し物申したくてね。最近、黄泉守人の皆様たるんでねぇっすか?やすやすと何回も結界を穢鬼に壊され、しかも身内にまで敵を出してしまうとは。その処理をせざる得ない俺等の身にもなってくださいよ」
「全てに目を配ると言っても限度はある。それに身内の裏切りは想定外だった」
嗣臣は淡々とした回答をする
しかしその態度が癪に障ったのか、海はわざとらしくため息をついた
「ほらぁ!その甘さがいけなかったんじゃねぇのって言ってんですよ!身内ってもあの賽河家でしょう?元々冥府魔道に魂売ってる一族なんざ、碌なもんでねぇに決まってんじゃないっすか」
「ちょ、ちょっとそんな言い方――」
嗣臣の友人だった月彦を貶してくる海に、菊理が思わず物申す
すると海がギロリと鋭く菊理を睨見つけた
「あ?んだよ?しゃしゃんなや。お前なんざ比良坂の嫁じゃなければ何の価値もねぇクソアマのくせに」
「ううっ………」
元々ヤンキー系が苦手な菊理は凄まれ黙ってしまう
すると嗣臣が菊理を庇うように一歩前に出た
その後ろ姿から怒りが滲み出ているのが分かる
「我が妻を貶す事は許さぬ……発言を取り消せ」
「取り消さねぇよ?事実じゃねぇか。それに賽河はこの女を狙ってる。疫病神も良いとこだ――――」
その時だった
海の発言を遮るように、嗣臣の拳が彼の右頬に触れそうになる
しかし間一髪の所で、海はそれを避けた
「口を慎め。どうやら灸を据えねば分からぬようだ」
「――――ヒャア!やんのかテメェ!元御三家なんざ捻り潰してやんよ!」
怒りをあらわにする嗣臣に、面白くなったと言わんばかりに、海は構え戦闘態勢になる
そして2人の拳がぶつかりそうになった瞬間
「――――そこまで!全く、ムキになんな嗣臣」
ギリギリの所で道之が割って入り、嗣臣を止めたのだ
「…………すまない」
嗣臣は構えを止めると、先程の怒りと闘気を引いた
一方、海もまた戦闘を止められバタバタと抵抗していた
「離せ幸!あの澄ました顔ボッコボコにすんだよ!」
そう言って羽交い締めにしている白髪の男―――幸に叫ぶ
「………兄者。今日の目的は比良坂家当主との決闘ではない」
幸は冷静に、海を諭す
どうやら海と幸は兄弟らしい
すると幸が海を羽交い締めにしたまま、嗣臣を見て頭を下げた
「………兄のご無礼をお許し下さい。本日はお願いがあり、ここへ参上仕ったのです」
「願い?どんな願いだ?」
嗣臣が警戒しつつ、尋ねる
すると幸はチラリと菊理に視線を向け、静かにこう告げた
「比良坂様の奥方様―――菊理様を、我ら隼人隊で預かりたいので御座います」




