小話 賽河月彦の語り
僕、賽河月彦は比良坂家、大神家に並ぶ御三家・賽河家の当主だ
といっても、僕以外に家族親族はいない
親も親族も皆、もう既に亡くなっているからだ
理由は賽河家の人々に眠る穢鬼のせいだ
力の均衡が穢鬼に劣ると、穢鬼に身体を乗っ取られ、死ぬまで化け物として生きるからだ
そうなったらもう殺す以外の選択肢しかない訳で、化け物として暴走する前に殺すのだ
だから僕は家庭を持たなかった
これ以上、不幸の種を蒔いたくなかったから
賽河家は僕の代で終わらせるんだ
元々僕は争い事は好きじゃない
―――静かな場所で、ひっそりと生きていたい
そういう性分だ
けどこの呪われた宿命を背負い、ひっそりと生きるだなんて不可能だった
だから武を奮う事で貢献するのではなく、知識と研究で貢献する事を選んだ
きっかけを作ってくれたのは、嗣臣だった
『猛毒でも、使い方によっては人を救う薬になる。お前はそんな人材になれば良い』
子供の頃、運命を嘆いて泣きじゃくる僕に、嗣臣がかけてくれた言葉だった
その言葉を胸に、僕は研究に励んだ
1人でも多く被害を出さないように、現世と常世の均衡が崩れないように―――
それが例え、誰にも感謝されなくても、人一倍努力した
それでここまでこれたけど―――――
だんだんそれにも疲れて来てしまった
どんなに努力しても報われることは無く、隣にいてくれた友ともいつしか疎遠になり、僕の中にいる穢鬼の力は今にも僕の力を超えていきそうで――――――
僕はただ1人、孤独と死の恐怖に怯えている
発狂して完全に狂ってしまえれば、どんなに楽だろうか
どんなに抗った所で、結局僕は孤独なのだ
誰が悪い訳でもない。これは僕自身の問題
それに気がついてしまった時、全てがどうでも良くなってしまった
だから僕は闇に身を落とす
最期くらい好き勝手しても、罰は当たらないよね?
全部全部掻き回して壊して、終わらせるんだ
黄泉人達も、現し世の住人達も、そして僕自身も




