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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第35話 偽りの無い想い

突如現れた菊理に嗣臣は目を見開く


「菊理!?どうしてここに……」


嗣臣の視線の先には、巨大化した天鬼に担がれた菊理が彼の元に近づいてくる


「なぜお前がここにいる。まあいい、まずはお前を殺してやる!」


穢神は鋭い殺気を放ちながら、菊理たちへと矛先を向ける


しかしその時だった


「天鬼ちゃん私を投げて!」


「承知!」


天鬼が力いっぱい菊理を穢神目がけて投げ飛ばす


穢神に近づいた菊理は寿美の形見の簪を穢神めがけて突き立てた


「―――はぁっ!!」


「ギャァァァァァァ!!!」


左目を突かれ暴れる穢神から、振り落とされないよう菊理は簪をギュッと握りしめる

そして霊力の糸を出だした


(お願い……!届いて!貴女と話がしたいの!)


祈るように念じながら、糸を繭のように穢神の身体に巻きつけていく


「起きて!寿美さん!!」


菊理は穢神の心の奥底に届くよう、必死に声を張り上げた



――――――――――――


そして―――

気がつくと菊理は真っ暗な世界にいた


「――――ここは」


上も下も、右も左も、見渡す限りどこまでも黒い世界が続いている


「穢神の精神世界……なのかな?」


菊理は恐る恐る歩みを進めた


ただひたすらに真っ直ぐ歩いていると、『あるもの』が視界に飛び込んできた


「!!寿美さん!!!」


そこにいたのは寿美だった

まるで蜘蛛の糸に囚われたように、身体に糸を巻き付けられ、拘束されていた


菊理は思わず声をかけた


「寿美さん!聞いて!私は貴女を助けに来たの!ここから出よう!」


「…………無理です。そんな事」


しかし帰ってきたのは拒否の意思だった

想定外の言葉に、菊理は戸惑う


「どうして――」


「私はもう嗣臣様が知る寿美ではないのです。あんな醜い姿になってしまったのですから」


諦めを滲ませながら話す寿美に、菊理は首を振り否定する


「そんな事ないです!嗣臣さんはずっと寿美さんの事が気がかりで―――」


「嘘。嗣臣様は私の事など化け物としか思っていない筈。今の私は嗣臣様を苦しめ独占し、殺そうとしている愛憎の塊。そんな私に愛想がついたから貴女を妻として娶った。そうなのでしょう?」


「それは―――なんというか成り行きというか………で、でも寿美さんに愛想ついたからではないです!」


「そんな話……信じられない」


どんなに声をかけようとも、頑なに心を閉ざしたままの寿美に、菊理は困り果ててしまう


(どうしたら信じてもらえるんだろう………)


そう考えたとき、ふと手元にある寿美の桃の花の簪に気がつく


「あ……そうだ」


これで寿美の心を溶かすことが出来るかは分からなかったが――――菊理はそれに懸けることにした


「………寿美さん。確かに嗣臣さんは私と結婚したけど、それは寿美さんが穢神になったからじゃ無いんです。これを聞いてくれますか?」


菊理はそう言って、桃の花の簪に霊力の糸を繋げると、声が聴こえてきた


『――寿美。守れなくてすまなかった。俺がもっと強ければこんな事には……』


聴こえてきたのは嗣臣の心の声だった

後悔と自責に満ちた声に、寿美の瞳が揺れた


「嗣臣様………」


『寿美が穢神に変わってしまったのは全て俺の責任だ。必ずや俺が祓い寿美を救ってみせる。絶対に』


揺るぎない決意が込められた声が、闇の中に強く響き渡る


『あのような姿になろうとも、寿美は俺の愛していた妻だ――――』


「ああ…………!」


その一言が、深く、まっすぐに寿美の心へと突き刺さった


寿美の目から涙がこぼれ落ちる


その瞬間、囚われていた糸がちぎれ、寿美の身体が自由になった


まるで長年の呪縛から解き放たれたように、寿美の心は救われたようだった


――――――――――――――――


一方、嗣臣は急に動きが止まった穢神に戸惑いを隠せないでいた


「どうなっている………菊理は……大丈夫なのか?」


嗣臣は繭のように糸で包まれた穢神を見つめる


すると、ぴしり、と小さな音が響いた

次の瞬間、繭を覆っていた糸に亀裂が走り始めた


「!?なんだ!」


「主!お下がりください!!」


「きゅー!」


天鬼と福が警戒し嗣臣を守るように前に出た


「菊理!」


嗣臣は菊理の身が心配になり、思わず彼女の名を叫ぶ


すると穢神を包んでいた糸は大きく裂け、その内側から眩い光が溢れ出した


「これは……」


優しい光の中から姿を現したのは寿美だった

穢神になり変わった姿ではなく、生前の優しい彼女の姿だった


『嗣臣様』


「……………寿美」


かつて愛した女性の声に、嗣臣の表情が和らぐ


『申し訳ございませんでした嗣臣様。貴方を苦しめ、傷付けてしまって』


「そのような事を気にするな。全ては俺の責任なのだ」


嗣臣が自責の念を込めて言うと、寿美は首を横に振った


『もうご自身を責めるのはお辞めください。私の魂は救われました。貴方の妻によって』


「………菊理が?」


『あの子は優しくて良い子ですね。嗣臣様が娶られた理由がなんとなく分かります』


寿美は優しく微笑むと、少し寂しそうな表情を浮かべる


『………本音を言うと、少しだけ悔しいですが、嗣臣様の人生です。嗣臣様のしたいようにしてください』


そう言って、寿美は嗣臣の頰にそっと触れる


『私は貴方の妻としていられて幸せでした………さようなら』


「ああ………ありがとう、寿美」


寿美の手に嗣臣が自身の手を重ね、礼を述べた


すると寿美は微笑み、そのまま光に溶けるようにゆっくりと消えていった


しかしその別れに悲しみは無く、救われた優しさだけが残っていた


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