第34話最愛だった者との対峙
「蜘蛛の穢神の退治に行く!?正気でしゅか菊理しゃま!」
天鬼は菊理の願いに耳を疑った
しかし彼女の目には強い意思が宿っていた
「うん。あの穢神の中の寿美さんを助けたいの。私にしか出来ないと思う。だから――」
「むぅ。主からは菊理しゃまを屋敷から出すなと言われていましゅし………」
天鬼は腕を組み、悩み始めた
いかに大好きな菊理の頼みと言えど、主である嗣臣の命に背く訳にはいかなかったのだ
「きゅう」
その様子を見て福も困った表情を見せる
すると菊理は手を合わせ天鬼に頼み込んだ
「それでもお願い!このままだと嗣臣さんも危ないの!嗣臣さんも寿美さんも助けたい!天鬼ちゃんお願い!」
「むむむむむむ………」
菊理の必死な願いに、天鬼は頭を抱え唸りながら悩んだ
しかしその後、観念したように顔を上げた
「主の命に背くことになりましゅが………分かりまちた。連れて行きましゅ」
「ありがとう天鬼ちゃん!」
菊理は天鬼の小さな手を取り喜びをあらわにする
そして次に福に目線を向けた
「福ちゃんも手伝ってね」
「きゅう!」
福に話しかけると元気な鳴き声で答えた
「でも無理はしないと約束してくだしゃいね?」
「分かった」
菊理は素直に頷き、その言葉をしっかりと受け止める
そうして菊理達は嗣臣の元へと向かったのだった
―――――――――――
その頃
嗣臣は冥府の入り口となる穴の前にいた
底の見えない闇が口を開けるその場所は、まるで世界そのものが歪んでいるかのような不気味さを放っている
「…………いるのだろう寿美。出てこい。俺はここにいる」
入り口に向かい静かにそう言うと、冥府の入り口からずるり、と穢神が這い出てきた
「――まぁ。貴方から会いに来てくれるなんて、嬉しいわぁ嗣臣様」
穢神は寿美の顔でニタリと笑みを浮かべながら嗣臣を見つめる
彼は一歩も退かず、ただ真っ直ぐにそれを見据える
「お前は俺が祓う……それがお前を救う事になるのなら」
「うふふ……私が殺されるのと、私が貴方を殺すの、どちらが早く出来るかしらぁ?」
穢神が言い終わると同時に、嗣臣は姿を消した
そして次の瞬間、空気を裂く音と共に、嗣臣は間合いを詰め、先制の一撃を放つ。
「あっははははは!早くこっちへいらっしゃいな嗣臣様!」
穢神は、それを待ち望んでいたかのように笑いながら後退し、軽やかにその攻撃をかわす
それはまるで鬼ごっこを楽しむ幼子の様だった
すると鋭い音と共に無数の糸が吐き出される
「――――っ!」
嗣臣は咄嗟にそれを避けるが、わずかに衣を裂かれる
「ふふっ……次はこっちよ!」
翻弄するように、穢神は位置を変えながら攻撃を繰り返す
その時、嗣臣が隙を見つけた
(――――今だ)
嗣臣の目が鋭くなる
手をかざすと、足元に広がる影が蠢き、まるで生き物のように伸び上がる
次の瞬間、その影は刃となって穢神へと襲いかかった
「ギャッ!!」
穢神に当たり、そのまま地面に叩きつけられ、動きを止めた
嗣臣は静かに歩み寄り、倒れたそれを見下ろす
「終わりだ」
手をかざし、倒れる穢神にとどめを刺さそうとしたその時
「嗣臣様ぁ………」
穢神の声色が寿美の声になり、嗣臣は動きを止める
それを見た穢神はニィッと歪んだ笑顔を見せる
「―――なーんて、嘘だよバァカ!」
次の瞬間、隙を見せた嗣臣に穢神の鋭利な爪が閃いた
「ガッ………!」
反応に遅れた嗣臣は避けきれず、鋭い一撃が肉を裂き、血が飛び散った
「あっははははは!甘い!甘いなぁ嗣臣様は!お前じゃ寿美を殺せない!一生、愛した女の救済なんて出来ねーんだよぉ!!」
穢神は笑いながら罵倒し、嗣臣の身体を踏みつける
ひとしきりそれが終わると、今度は彼の顔を手で持ち上げた
その顔は愛おしさに溢れている
「………ぐっ」
「……可哀想な嗣臣様。大丈夫。私が殺して差し上げます。これで貴方は一生、私の物」
優しくささやきながら、腕をゆっくり振り上げられた
「死ね」
穢神の腕が振り下ろされようとした時
「―――嗣臣さん!」
必死に名前を呼び、駆け寄ってくる影が嗣臣の視界に映る
そこにいるのは、嗣臣が愛する菊理だった




