第33話 覚悟と決意
あの蜘蛛の穢神が去った後―――
使用人達が慌ただしく屋敷の修復を行う中、菊理と嗣臣は屋敷の一室にいた
「応急処置だが結界の補強をした。これで穢神が外から侵入することは無いから安心しろ」
菊理にそう声をかけると、嗣臣はチラリと隣の道之が寝ている部屋を見る
「……道之はどうだ」
「傷は大きかったですけど、致命傷にはならなかったみたいです。あの後私が傷をすぐに塞ぎましたから」
少しの間を置き、菊理は言いづらそうに言葉を続けた
「………嗣臣さんはいつから知っていたんですか?寿美さんが穢神に変わってしまったこと」
「………5年前だ。ある日老朽化した結界の柱が壊れて穢神に侵入された事があってな。その時現れたのがあの蜘蛛の穢神――寿美だった」
目を伏せながら、過去を思い出すように淡々と語った
「あの穢神は俺を苦しめる事だけに執着している。それに加え、生前の寿美の思いも重なり、愛憎の念を強く持っている。あれは俺が倒さなければ―――寿美の魂が救われない」
自身に課した罰であるかのように言うと、覚悟を決めたかのように顔を上げた
「奴を倒しに行く。菊理は屋敷で待っていろ」
「ま……待って!」
1人向おうとする嗣臣を、菊理は思わず引き止める
「嗣臣さんは……あの寿美さんを本当に殺せるの?」
「………殺せるかどうかじゃない。俺がやらなければならないんだ」
嗣臣は真っ直ぐ菊理を見つめ、ハッキリ告げるとゆっくりと距離を詰めた
「心配するな。必ず倒して戻る」
そう言うと嗣臣はそっと菊理の頬に手を添え、優しく菊理に口づけをする
「―――――行ってくる」
そう言って背を向けると、嗣臣はそのまま振り返ることなく部屋を後にした
残された菊理は、ただその背を見送ることしか出来ず、胸の奥に広がる不安を抱えながらその場に立ち尽くしていた
その時だった
「……行っちまったか。あいつ」
低い声が聞こえ振り返ると、道之が壁に手をつきながら立っていた
顔色は悪いが立ち上がれる気力はあったようだ
「道之さん……怪我は大丈夫ですか?」
「おう。ありがとな、菊理が助けてくれたおかげで助かった」
「いえ……そんな」
そんなやりとりの後、道之の顔が真剣な顔つきになった
「……しかし嗣臣のやつ、どうやって勝つ気だろうな。ついさっきので確信した、嗣臣にあの穢神は祓えねぇ。寿美の意識が残っているあいつに、恐らく敵わねぇ」
ハッキリと現実を述べる道之に、菊理は再び不安に襲われた
「そんな…何か手は無いんですか?」
「そうだな……寿美の魂を救ってやれればなんとか………んな事出来ねぇと思うが」
「………それってどうやれば出来るんです?」
「んー……奴の精神世界に干渉できればな。霊視能力がある奴はよく対象の思い出の品とかから視たりするみたいだけどなぁ」
道之の言葉に、菊理はハッと顔を上げた
それが上手く出来るかどうかは分からない―――しかし自分の能力を持ってすればそれも可能なのでは?
そう確信に近いものを菊理は感じていた
「……分かりました!ありがとうございます!」
菊理は勢い良く走り出した
「っておい!何する気だ?」
「私が代わりに寿美さんを救ってあげるんです!私なら、それができると思うから!」
「そんな無茶だぞ!……お、おい!」
道之の制止も聞かず、菊理は廊下を駆け抜けて行った
そして向かった先は嗣臣の書斎だ
菊理は以前の記憶を辿り、『ある物』を探していた
机の引き出しを開け、手当たり次第中を探る
すると―――
「――――あった!」
そう言って手にした物は寿美の形見の桃の花の簪だった
(これで寿美さんを救ってみせる)
強い決意を胸に菊理は簪を握る手に、そっと力を込めた




