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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第32話 愛しい人の名を呼ぶ声

突如現れた寿美の顔をした穢神に、菊理は目を見開く

信じがたい光景に心が追いつかないでいた



「あれは………寿美さん………!?な、なんで……どうしてあんな姿に……!?」


「………寿美しゃまは『変わって』しまったのでしゅ」


「変わる……?」


菊理が呟くと、天鬼が小さく頷いた


「10年前、寿美しゃまが穢鬼に喰われ亡くなられた時、その穢鬼の主への執着心と寿美しゃまの主への愛の強さが共鳴し、穢神の一部となってしまったのでしゅ。だからあれは半分寿美しゃまでもあるのでしゅ」


「そんな……」


天鬼から伝えられた事実に、菊理は言葉を失った

恐らくその事実を知っていたであろう嗣臣の、今までの気持ちを考えると、胸が締め付けられた


「穢神になった寿美しゃまは、主を愛ちている反面、憎ちみの気持ちを持っていましゅ。だから執拗に主を狙って来ているのでしゅ」


そういい終わると天鬼の手がギュッと握りしめられ、身体が震えだした


「……どうちて……どうちて主ばかりこんな仕打ちに合わなければならないのでちょうか。主はただ、世界の均衡を崩さぬよう、守っているだけなのに、どうちて………」


まるで抑えていた感情が、限界を迎えたかのように小さな身体から溢れ出していた


「きゅう……」


「天鬼ちゃん……」


菊理と福はただ見つめる他無かった

かけるべき言葉が見つからず、ただその小さな背中を見つめていた


――――――――――――――


その頃、庭では嗣臣と道之が“寿美の顔をした穢神”と静かに対峙していた


「5年ぶりですね嗣臣様。また貴方の元に来れて、寿美は嬉しゅうございます」


「………寿美」


思わずその名を口にした嗣臣に、道之が前に出て手で制止した


「嗣臣、惑わされるな。あいつは寿美じゃねぇ。ただの寿美の顔をした化け物だ」


そう言って道之は目の前の穢神を睨みつける

しかしそんな道之を見て穢神は無邪気な笑みを浮かべる


「酷いですわぁ道之兄さん。私は正真正銘、道之兄さんの妹ですのよ?もう妹の顔も忘れたのですか?」


「……何度でも言うさ。お前は寿美じゃねぇ。寿美はな、俺の妹はなぁ……!」


拳を握りしめ、生前の寿美を思い浮かべながら、込み上げる想いを叩きつけるように叫ぶ。


「そうやって人を苦しめて喜ぶ奴じゃねぇんだよ!!」


道之は霊力を込め雷と共に、穢神に一撃を与えようとした

が、その前に穢神の蜘蛛の手が道之を鋭く切り裂いた


道之がグラリと倒れる


「ぐっ……!」


「道之!!」


地面に膝をつく道之に、嗣臣が声を張り上げる


「あっはははは!可哀想な兄さん!私はこの穢神の一部になったの。貴方がどれだけ否定しようと、私が寿美である事に変わりはないわ!」


穢神は甲高い声で笑い、蜘蛛の足を動かしながら愉快そうに2人を見つめる


その頃、屋敷の中にいる菊理は不安げに声を漏らし、思わず一歩前に出た


「どうしよう道之さんが……」


「菊理しゃま今は危険でしゅ。穢神は穢鬼よりも強く、祓うのも黄泉守人であっても命がけなのでしゅ」


「でも………」


天鬼に制止され留まるも、怪我を負った道之が気がかりだった


菊理は一度深呼吸をすると、決意を固めた


「……なら、私1人で道之さんの所へ行く」


「菊理しゃま!」


「きゅう!」


菊理の発言に驚き天鬼と福は声を上げるが、彼女は揺るがなかった


「全て自己責任なら良いでしょ?これで死んでも私は天鬼ちゃんと福ちゃんを責めたりしない」


「……むぅ。分かりまちた。天鬼も手伝いましゅ」


「きゅ!」


「ごめん。ありがとう」


菊理は小さく微笑み、前を向いた

嗣臣と穢神の攻防が続く中、天鬼が一瞬の隙を見つけた


「よし!今でしゅ!」


「きゅ!」


天鬼は声を上げたと同時に巨大化し、道之の元に駆け寄る

それに続き、福の背に乗った菊理もそれに続いた


すると穢神も、その動きが視界の端に映り気付く


(………おや、あれは?)


穢神は道之を運び安全な場所へと移動しようとしている菊理達の姿を捕らえていた


それを見た穢神は面白そうに歪んた笑みを浮かべた


「なんと涙ぐましい……!そして哀れな事よ!」


そう言って身体から糸を出し、菊理の身体に巻き付けた


「きゃあ!」


身体を縛られた菊理を、穢神はそのまま糸を引っ張り、福の背から落とした


「菊理様!」


「きゅー!!」


天鬼と福が振り返り叫ぶも、菊理は動けない

無情にも穢神の鋭い一振りが彼女に当たろうとしたその時、嗣臣の影がそれを阻止した


「菊理!」


そう名前を叫び、菊理の元へと向かう


「無茶な事をするな」


「す、すみません」


菊理は申し訳なさそうに視線を落とした

だがその様子を見た穢神は、ぴたりと動きを止めた

目を見開き、何かを理解したかのように動揺し、震え出す


「あ、ああ…ああああ…!そう……そうなのね嗣臣様………!」


「えっ?」


菊理が不審に思っていると、穢神が耳を劈くような金切り声を上げた


「酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷いぃぃぃぃ!!!新しい女を娶るなんてぇぇぇぇぇ!!!!しかも私より若い女なんてぇ!!!」


髪を振り乱し、憎悪に満ちた目で菊理を睨みつける


「許せない……許せないっ!嗣臣様は私のものよ!!」


穢神が一直線に菊理へ攻撃をしようとした、その時だった


『止めて!』


菊理の脳内に誰がの声が響いた


(……何?今の)


一瞬、時間が止まったかのように感じていた次の瞬間


「………ぐっ!うぅぅぅ!!邪魔を……するなぁ!」


穢神が突然苦しみ始め、頭を押さえてうめき声を上げている

まるで内側から何かに抗っている様だった


「何が起きている……?」


嗣臣が眉をひそめ、その様子を見つめる

その時だった


「つぐ……お……み…さま……」


「―――!?」


急に声色が変わり、か細く弱々しい女の声に変わった

その知っている声に嗣臣は目を見開く

そして脳裏に生前の寿美の姿が思い浮かんだ


「も……もうし……わけ……あ………」


「寿美!!」


嗣臣が思わず叫び手を伸ばした

が、その声は瞬時に元に戻る


「クソッ!………厄介な女だ………!」


穢神が吐き捨てるようにそう言うと、逃げるように空の割れ目から出ていった


残されたのは、静まり返った庭と、張り詰めた空気だけだった

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