小話 比良坂寿美の語り
こちらは寿美視点の話になります
嗣臣様と初めてお会いしたのは、まだ子供の頃の事―――
両親が黄泉守人の会合に出席し、私は道之兄さんと外で遊んでいた時の事でした
誰かの叫び声が聞こえ、道之兄さんと駆けつけてみると、そこには男の子が数人、身体を押さえながら倒れており、それを見下ろすように見つめる当時まだ少年だった嗣臣様がいらっしゃったのです
嗣臣様の横には泣きじゃくる賽河家の月彦様もいらっしゃり、状況を見るにどうやら月彦様をイジメていた子達を、嗣臣様が懲らしめた様でした
『次、月彦を異端だの呪われた一族だの申してみよ。今度は四肢を折って動けなくしてやる』
嗣臣様はそう叱り飛ばしていました
異端だと皆から恐れられている賽河家の子に、気にする事なく手を差し伸べられるその優しさに、私は心打たれその日以来、ずっと嗣臣様の事をお慕いしておりました
恥ずかしくて中々話しかけられなかったのですが、兄さんが気を利かせて仲を取り持ってくれました
そんなある日、私も大人になり結婚を意識する年齢になった頃―――――
なんと嗣臣様との縁談が舞い込んで来たのです
横の繋がりをより強固な物にする為の縁談だったのかもしれませんが、私にとっては願ってもない話でした
『俺は夫婦というものがどのようなものなのか、まだ正直よく分からない。だか、寿美が俺の元に来てくれると言うのなら、俺はそれに応えよう。―――これを受け取ってくれるか?』
そう言って桃の花の簪を差し出し、結婚の申し込みをしてきてくれた事を、今でも鮮明に覚えています
本当に夢のようで、涙が溢れるほど嬉しかった………
あの時から私は、嗣臣様の為に妻として、女として、身を尽くしてきました
嗣臣様の為なら、この身も命も差し出せる――――
この身を滅ぼすほど、嗣臣様を愛しているのです




