第31話 再会
その日の午後―――
菊理は改めて天鬼と福に完治の報告をした
「菊理しゃま全快おめでとうございましゅ!」
「きゅ!」
天鬼は小さな手をぱちぱちと叩きながら祝福し、福は元気よく鳴きしっぽをピンと立てた
「ありがとう天鬼ちゃん、福ちゃん」
「どうなる事かと思いまちたが、菊理しゃまが元に戻って良かったでしゅ」
天鬼が腕を組み頷きながらそう言うと、菊理は照れた様に笑った
「えへへ…。あ、そうだ今までのお礼にこんなの作ったんだ!はい!どーぞ」
そう言って菊理は後ろに隠していた包みを取り出しそれぞれに渡した
「これは……なんでしゅか?」
「きゅ?」
「天鬼ちゃんのはバブーシュカっていうほっかむりみたいなやつだよ。福ちゃんはヘッドドレスを作ったの」
菊理が天鬼と福にそれぞれ頭に付ける
すると天鬼の頭には可愛らしい布のバブーシュカが、福の頭には小さなヘッドドレスがちょこんと乗った。
「きゃー!かわいいー!!似合ってる似合ってる!」
「きゅー!」
あまりの可愛さに福を抱きしめると、福は嬉しそうに菊理に寄り添った
一方天鬼は感動で身体をプルプルと震わせていた
「こ、こんな大層な物を菊理しゃまにいただけるなんて……この天鬼、一生大切にしましゅ!」
「そんな大袈裟な」
楽しく盛り上がっていると、襖から嗣臣の声が聞こえた
「――菊理、いいか?」
「はい、どうしました?」
「今から少し出かけて―――なんだこの被り物は?」
嗣臣が天鬼と福に付けられている被り物を見て、不思議そうに尋ねると、菊理が得意げに胸を張った
「天鬼ちゃん達に手作りの被り物をあげたんです。可愛いでしょ?」
同意の眼差しを嗣臣に向けると、彼から思いもよらない言葉が発せられた
「……………俺のは無いのか?」
「へ?」
まさかの言葉に驚く菊理
嗣臣も思わず出てしまった言葉に我に返り、慌てて視線を逸らした
「あ、いや、なんでも―――」
「嗣臣さん……もしかして欲しかったんですか?」
菊理が嗣臣の顔を覗き込むと、珍しく焦ったように視線が彷徨った
「いや、被り物は要らんのだが、その………」
嗣臣は言葉を選ぶように一度口ごもり、わずかに視線を落とす
「……………何か身に付ける物を菊理が作ってもらえると、その………嬉しい………のだが」
最後の方は少し小さくなりながらも、少し照れた様に言う嗣臣の姿に、菊理は少し可愛らしさを感じて思わず微笑ましく見てしまう
「もー主ったら、素直に仰っしゃれば良いのに」
「きゅう」
天鬼が面白そうにニヤニヤと笑みを浮かべそう言うと、福も同意するように鳴いた
「………うるさいぞ天鬼。福もそれに乗るんじゃない」
嗣臣が煩わしそうにあしらうが、その表情に照れを隠しきれていない
すると庭の方から明るく大きな声が響き渡った
「嗣臣ー。いるかー?」
道之が縁側から手を挙げ嗣臣を呼んだ
「道之。丁度いい。今お前の所に行こうと思っていたのだ」
嗣臣が道之のいる窓側へ歩み寄ると、菊理も付いていき嗣臣の背から顔を覗かせた
「道之さん。お久しぶりです!」
「おお、菊理!動けるようになってんじゃねぇか!……ちゅーことは嗣臣、アレやったな?」
道之がニヤリと笑みを浮かべると、嗣臣は思い出したように眉を動かした
「……ああ、お前に騙されてやったアレだな。月彦から聞いたぞ。あんな方法じゃなくても出来たそうだな」
「げ!言っちまったのかあいつ!でもまぁ良かったろ?治ったし」
「良くはない。どんな思いでやったと思っているのだ……許さんからな俺は」
道之はたじろぎながらも笑って誤魔化すも、嗣臣の静かな怒りは増すばかりだった
「ま、まあまあ落ち着いて―――」
菊理が嗣臣を諫めたその時だった
――ゴォン……ッ
突如低い音と共に空が暗黒に染まった
「―――――!?」
全員が突然の事に驚いていると次の瞬間
ドゴゴゴゴ……ッ!!
地が割れるような地鳴りが響き渡る
「な、何?地鳴り!?」
「菊理しゃま!」
「きゅう!」
天鬼と福が菊理を守るように寄り添う
外にいた道之は、状況を察すると同時に庭の中央に駆け出す
「菊理達は屋敷の中にいろ!」
そう言い残し、嗣臣もまた外へと駆け出した
「―――結界が!」
空を見上げた嗣臣の目に飛び込んできたのは、信じ難い光景だった
見えないはずの結界が、まるでガラスが割れたかのようにヒビが入っている
「どうなってやがる嗣臣!なんで外側から結界が破かれようとなってんだ!?」
「分からん!我ら御三家に立つ結界の柱に、何か施さん限りはあんなに容易く破かれぬ筈!一体いつ―――」
嗣臣はそこまで言いかけ、ハッとした
大神邸と賽河邸に穢鬼が侵入した事、そしてそのどちらにも蜘蛛に操られた人物が結界を壊していた事を
(――――――まさか、それが目的だったのか!)
そう気づいた瞬間、バリバリという音と共に、結界が砕け散った
「マズい!来るぞ!穢神が!」
道之が叫ぶと同時に結界の割れ目から穢神が姿を現した
(蜘蛛の穢神――!)
ゆっくりと地上に降り立ち姿を現したのは、上半身は人、腰から下は蜘蛛の身体、背には蜘蛛の足が生えており、顔は―――黒髪が似合うなんとも美しい女だった
「…………やはり現れたか」
嗣臣は因縁の相手と再会した
かつて前妻を食い殺した穢鬼
そして力を蓄え穢神に変わった――――前妻の顔をした宿敵に
「…………お久しゅう御座います。嗣臣様」
かつて愛した妻の顔で、蜘蛛の穢神は笑みを浮かべる
嗣臣を見つめるその顔はなんとも愛おしそうで、憎しみに満ちた顔をしていた
「…………寿美」
嗣臣は静かにその名を呼ぶのだった




