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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第26話 賽河家当主 賽河月彦

ピンクの象が目的地にたどり着き座り込むと、嗣臣は菊理を抱きかかえ、飛び降りた


「ここが………」


菊理は思わずぽつりと呟き、黒く四角い大きな建物を見上げる

比良坂邸や大神邸とは異なる、異質で重苦しい存在感を放つその外観に、どこか胸の奥がざわついた



「―――お待ちしておりました比良坂様」


振り返ると、そこには外見的には菊理と同年代くらいの、黒髪のボブヘアの女性が車椅子を両手に携え立っていた

着物の上には白の割烹着を着用しており、

切れ長の目が印象的な市松人形の様な女性だ


「使用人の椿で御座います。月彦様から案内を仰せ使っております。それでは奥様はこちらにお乗せください」


「ああ、助かる」


そう言って嗣臣は菊理を車椅子に乗せる


すると椿が静かに車椅子を押し始め、二人はそのまま賽河邸の中へと足を踏み入れた。



―――――――――――



賽河邸の室内はまた更に異質さが滲み出ていた


壁も床も、視界に入るもののほとんどが白で統一されている

装飾らしい装飾はほとんどなく、冷たく無機質な空気が辺りを支配していた


(……まるで病院みたい)


そんな事を思っていると、椿がある部屋で足を止め、ゆっくりドアを叩いた


「月彦様。比良坂様がお見えになりました」


「ああ、中へご案内して」


重い金属の扉を開けると、そこに1人の男性がいた


長い茶髪を束ね、和服の上に白衣を着た、外見年齢30代前半くらいの丸眼鏡の男だった


この男が噂の賽河月彦らしい


「―――久しぶり嗣臣。5年ぶりかな?それに再婚してたなんて驚いたよ」


「すまない。忙しくて中々報告が出来なかったんだ」


2人はまるで旧友であるかのように微笑み、談笑している

仲は良さそうだ


「そっか……ああ、そうだ!あの櫓気に入ってくれた?嗣臣がこちらに来るっていうから張り切って作っちゃったよ」


子供のように無邪気な笑顔を浮かべ、感想を尋ねる


(あの無駄に派手な櫓、この人のお手製だったんだ)


菊理はあの宝石をあしらった派手な櫓を思い出し、内心ツッコんだ


「ふ……相変わらず凝り性だなお前は。だから返事が遅かったんだな?」


「そう。だって嗣臣の奥さんも乗るからと思ったら女性が好みそうなやつにしなきゃと思って、材質からこだわったんだ」


そう言って楽しげに櫓制作を語る月彦は、工作活動に夢中な少年のようだった


(……嗣臣さんとは別ベクトルの変人だぁ)


菊理は何故嗣臣と月彦が仲がいいのか何となく理解した


すると月彦が菊理の顔を覗き込む


「あなたが嗣臣の奥さんだね?はじめまして。僕は賽河月彦。賽河家当主をしています」


「は、はじめまして。菊理です」


柔らかな笑みを浮かべ挨拶をする月彦に、菊理は緊張しつつ頭を下げた


(でも異端な一族て言われている割には……思ったより普通だ)


そう思いながら菊理は月彦を見つめる

異端というからには、もっとマッドサイエンティスト的な狂気に満ちた人物を想定していたが、見た所物腰の柔らかい優男といった感じだ


「それじゃあ早速、検査を始めようか。菊理さんよろしくね」


「は、はい」


いよいよ月彦による精密検査が始まった



―――――――――――――――


それから数十分後

血液検査等を終え、月彦は検査結果を見ている


「うーん。見た所、これと言って異常は見られないなぁ。」


首を傾げながら、月彦はカルテを見つめる


「では原因は分からないと」


嗣臣の言葉に、月彦は首を振った


「いや、菊理さんの身体に異常が無いっていう結果が出ただけだから、原因究明はこれからだよ」


そう言って月彦は部屋の隅に置かれていた機械を動かし、菊理の側まで持ってきた


「菊理さん。今から霊力を測る検査をさせて下さい。機械を付けますね」


少し緊張した面持ちで頷く菊理に、賽河は手際よく装置を取り付けていく


「菊理さんは透視、そして物を繋ぎ合わせる能力の2つ出来るんしたね?」


「はい」


菊理が質問に答えると、月彦は興味深そうにカルテを見つめる


「うーむ。2つの能力が扱えるとは珍しいねぇ」


「そんなに珍しい事なんでしょうか?」


「そうだね。通常1種類の能力しか付かないと言われているから。こういった症例を見るのは菊理さんが初めてだよ」


そう言い終えると、フッと表情が変わった


「何故だろうね?元人間である事が関係あるのか、それとも強い霊力を持った嗣臣の血に関係があるのか…………個人的に菊理さんの能力を調べ尽くしたいけど……そんな事したら嗣臣に怒られるから、止めておくよ」


少し冗談めかしたようにそう言ったが、あの興味深そうに見つめる目は、まるで珍しい観察対象を見つけたという感じがして、菊理は少しゾッとしつつ苦笑を浮かべた


「それではまず、透視能力を使ってみてくれるかい?」


そう言って月彦は箱を差し出した


「はい」


菊理はいつものように意識を集中させ、霊力の糸を出し、箱の中を視る



それから数分経った頃、月彦は機械の数値を確認した


「……うん。霊力は安定してる。問題ないね。では次に、治癒の能力を使ってみてくれるかい?」


そう言って、箱を菊理から受け取ると、次は肉の塊のようなものを菊理の前に差し出した

これを繋げるらしい



菊理は再び糸を出し、今度は肉の塊を繋げ始める


数分かけて繋ぎ止めると、再び月彦は機械の数値を確認した 



「………こちらも問題無し……と。では最後に、透視と繋ぎ合わせ、両方をやってみてくれるかい?」


そう言われ今度は箱に小動物の死骸を入れたものを持ってきた

箱越しに切り傷を治すらしい


「はい」


そう促され、意識を集中させ透視をした後に傷を塞ぎを始めた、その時だった


ビーッ!ビーッ!


いきなり警報音がけたたましく鳴り響いたのだ


「へ!?」


突然の事態に、菊理は動きを止めた


「嗣臣!」


月彦が叫ぶと、嗣臣は素早く手刀で、菊理の糸を切った


「菊理さん大丈夫でした!?気分は?」


月彦が慌てて菊理の様子を確認する


「えと……特に問題は無いです。何が起きたんですか?」


菊理がぽかんとしていると、月彦は真剣な表情のまま話しだした


「さっき透視と繋ぎ合わせの力を同時に使った瞬間、装置の計測の上限に一気に達したんだ。これは菊理さんが思っている以上に、身体への負担が凄まじいという事だ」


「そ、そんなに……!?」


まさかの事態に思わず声を上げる


「恐らく2週間前の透視と繋ぎ合わせの同時使用は数分だったと思われるけど、それでもこの霊力使用は相当身体に負荷がかかったと思う。それで身体の許容量を超え、反動で身体が麻痺してしまったんだろうね」


「………では菊理の身体は元に戻らないのか?」


嗣臣が神妙な表情で尋ねると、月彦は笑顔で首を振った


「いや、それは大丈夫だよ。菊理さんの今の状態は、身体を休ませ戻す為の、言わば冷凍睡眠(コールドスリープ)状態にあると見ている。時間はかかるかもしれないけど、元には戻るよ」


「そうか……」


その答えに、嗣臣の表情が少しだけ和らいだ


すると月彦は菊理を見つめ、再び口を開いた


「でも能力の同時使用はもう止めたほうがいいね。霊力の量と菊理さんの身体の許容量のバランスが合っていないようだ」


「はい。分かりました……あの、ありがとうございます。原因を突き止めてくれて」


菊理が頭を下げお礼を述べると、月彦は照れくさそうに笑った


「いやぁ、そんな大層な事はしてないよ。僕はただ、大切な友人の手助けをしたまでだ」


すると黙っていた嗣臣が口を開いた


「だがお前のおかげで過去救われた黄泉守人達が何百人といる。こんな事が出来るのは、お前だけだ月彦」


その言葉に、月彦は目を見開くと、少し複雑そうに笑みを浮かべた


「ははっ。ほとんどが報われないけどね。異端と呼ばれる僕は、嗣臣以外の黄泉守人からは忌み嫌われている」


そう自虐的に言い放つと、次の瞬間、真剣な顔つきになる


「けど異端だからこそ、できる事がある。僕はその力を、助ける為に使いたい。それだけさ」


静かに告げたその言葉には確かな意思が宿っていた


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