第24話 目覚めと異変
―――ここはどこ?
真っ暗で何も見えない
身体も動かせない
『―――菊理!』
誰かが私を呼ぶ声が聞こえる
その声は………嗣臣さん…………?
――――――――――――――
「菊理!」
ハッとし目を開けるとそこには嗣臣の顔が目の前にあった
常に真顔で表情を崩さない彼が、珍しく不安を隠せない表情で菊理を見つめている
「嗣臣……さん?」
「大丈夫か?あの時倒れて意識を失っていた。何があった」
嗣臣が冷静にあの時の事を尋ねるが、菊理は小さく首を横に振った
「………分かりません。蓉子さんとお腹の赤ちゃんの治療をして、皆で屋敷に避難しようと思ったら、突然身体が動かせなくなったんです」
「動かせない……?霊力の消耗が激しかったのか……?今はどうだ?」
嗣臣み尋ねられ、菊理は手足を動かしてみる
すると指を曲げたり伸ばしたり、肘を曲げたりはできるが、それ以外は力が入らず出来なかった
「えっと……手と肘は動くみたいです……でも身体は動かせません」
「霊力を消耗し疲労で動けなくなる事はあるが……麻痺したように動かせなくなるのは聞いたことがない………」
そう言って顎に手を当て、考え込んだ
想定外の事に嗣臣も困惑しているようだ
すると菊理は遠慮がちに口を開いた
「………あの、すみません。喉が渇いたんですが……」
「ああ、少し待っていろ。起こしてやる」
嗣臣は考えるのを止め、ゆっくり菊理の上半身を支え起こすと、筒に入った水を菊理飲ませた
「……はぁ。ありが――――」
お礼を言おうとした瞬間、嗣臣にぐっと身体を引き寄せられた
「えっ?えぇっ!?ど、どうしました?」
「…………このまま意識が戻らないのではと、心配していた」
そう低く呟き、さらに腕に力が込められた
その言葉と態度に、菊理の胸がじんわりと熱くなった
「本当に……よかった」
「嗣臣さん……」
それに答えるように彼の両肩に手を置いた、その時だった
「―――おい、菊理のやつ起きたか?」
タイミング良く道之が部屋の襖を開けたのだ
3人の時が止まる
「……………なんか、悪かったな」
状況を察した道之はバツの悪そうな顔をし、頭を掻いた
「…………入るなら戸を叩け道之」
「いや、ていうかここ俺んちなんだわ!イチャイチャしてんのがおかしいのよ!」
道之がごもっともな反論していると、大神の足元を何かが勢い良くすり抜けてきた
「菊理しゃまぁ―!!」
「きゅー!!」
天鬼と福が一目散に菊理目がけて駆け寄ってくる
「天鬼ちゃん。福ちゃん」
菊理が力無くも小さく笑みを浮かべると、天鬼は彼女の身体に勢い良く抱きついた
「よかったでしゅうぅぅぅ!!このまま戻らなかったら、天鬼は……天鬼は、腹を切って詫びる所存でちたぞ!!」
「きゅー!!」
天鬼はおいおいと泣きながらそう言い、福は嬉しそうに菊理の顔を舐める
皆が生還を喜んでくれた事に、菊理は胸がいっぱいになるのだった
―――――――――――――――
その夜
大神邸の客間には、行灯の柔らかな灯りだけが揺れていた。外はすでに深い闇に包まれ、屋敷全体も静まり返っている
そこで畳の上に向かい合うように座る嗣臣と道之が話し込んでいた
菊理の事もあり、嗣臣達は急遽大神邸に泊まることになったのだ
「―――そうか、医者も原因が分からねぇのか」
道之の言葉に嗣臣が頷く
「ああ、どこにも異常が見られないのに菊理は身体を動かせないようだ。このまま寝たきりになるのか、それとも一次的な物なのか――未知数らしい」
そう答える嗣臣の表情は、いつも以上に固く、
どこか不安と焦燥が滲み出ている
すると道之が口を開いた
「………嗣臣。こんな時に話すのもアレかもしれねぇが、お前に伝えたい事がある。」
そう言って道之は懐から小さな小瓶を取り出した
嗣臣が手に取るとなかには小さな蜘蛛が入っていた
「これは?」
「屋敷の外に転がってた不審者に付いていた蜘蛛だ。どうもそいつが俺の結界を破ったらしい」
「それとこの蜘蛛とどういった関係がある」
嗣臣が眉をひそめて尋ねると、道之は腕を組んだまま答えた
「どうもそいつ途中から記憶が無ぇらしいんだ。おそらくこの蜘蛛が操っていたと見ている」
「何故そう言い切れる」
嗣臣が鋭く指摘すると、道之は大きく息をついた後、言葉を続けた
「あの夜会襲撃事件の後分かったんだがな……いたんだよ。全く同じ蜘蛛を付けられ操られていた奴が。そいつが洋館の結界を壊したんだ」
「―――――まさか」
嗣臣の脳裏にある記憶が蘇る
その蜘蛛を操る穢神を
そしてその穢神はかつて、前妻を食った穢鬼だった事を
「そのまさかかもしれねぇ。あいつが………寿美を殺したあいつが、まだ生きているかもしれねぇ」
重い沈黙がしばらく続く後、嗣臣は立ち上がり外を見つめた
夜空には大きな満月が闇夜を静かに照らしている
その様子を見つめながら嗣臣は口を開いた
「………近いうちに月彦の所へ行ってくる。菊理の身体が動かない原因が分かるかもしれないし、その蜘蛛の事も調べてもらう」
「……あいつんとこ行くのかよ」
嗣臣が『月彦』の名を出すと道之は眉をひそめた
その様子に嗣臣はわずかにため息をつく
「そういう顔をするな。あれは月彦が悪い訳ではない。月彦の一族の業がそうさせているのだ」
「分かってるよ……アイツ個人は別に嫌いじゃねぇが、アイツの心の危うさを心配してんだよ」
そう言って道之は頭を掻いた
どうにも気がかりな事があるようだ
「とにかく早急に調べてもらわねば……嫌な予感がする」
嗣臣は振り返ると、机の上の瓶を見つめた
月夜に照らされた瓶が、不吉な予感を暗示しているようだった




