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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第17話 救う為の力

それから数十分後――

4人は常世の入り口に来ていた


曇り空の下、木々で生い茂るこの森に、ある一角だけ突如ぽっかりと穴が空いている場所があった


どうやらここが冥府への入り口らしい


「なんかおどろおどろしいですね……」


どこか異様な雰囲気に、菊理がキョロキョロと辺りを見渡す


「そりゃすぐそこが冥府だからな。陰の流れが漂ってんだ」


そう言って道之は穴を指差す

そこからは冷気が漂い、ジッと見つめていると何故だか吸い込まれそうな錯覚に陥る


「ここで穢鬼を退治するんですか?」


「いや、ここでは現世に向おうとしている亡者を祓ってほしい」


「亡者……ですか?」


菊理が首を傾げながら尋ねると、道之が頷く


「ああ、まだそっちのほうがお前には簡単だと思ってな。まずはそこからだ」


「あの、襲ってきたらどうすれば……」


『黄泉人にとって亡者はさほど脅威ではなくなる――――』

確か出会って間もない頃に嗣臣がそう言っていたが、その亡者に襲われ人でいられなくなった菊理は不安そうな表情をしている


「ここにいる亡者はそこまで脅威はねぇぞ?ちょっと霊力で脅せば怯むし。心配ならこの塩持ってけ。霊力の込めた塩かければ一時的に萎びる」


そう言って懐から袋を取り出し菊理に渡す

菊理は怪訝そうな表情で袋の中身を確認した

―――至って普通の塩のようだ


(ナメクジかな)


内心ツッコみ苦笑いを浮かべながら、菊理は塩を眺めていた



―――――――――――――



「じゃあ今から亡者祓い開始だ。頑張れよ―――始め!」


そう言って道之がパン!と手を叩いて開始の合図をすると、菊理は振り返り天鬼と福を見た


「よし!チームモフモフ頑張るぞ!」


勢いよく声を上げるのと同時に、拳を天高く上げると、1人と1頭は目を見合わせ頷いた


「うむ!」


「きゅー!」


天鬼と福も元気よく答えるのを見て、菊理はニコリと笑みを浮かべると、意を決して森の中へ入っていった


辺りを捜索し、しばらくすると福の耳がピクリと動いた


「きゅ!」


「あそこにいるの福ちゃん?」


福の視線の先を見てみると、そこにはフラフラと歩く亡者の姿があった


「………いた!」


菊理が小さく呟くと、天鬼が一歩前に出た


「菊理しゃま。ここは天鬼にお任せくだしゃい」


そう言って颯爽と小さな身体で駆け出すと、思い切り跳び上がりその勢いのまま亡者を蹴り飛ばす


「ふん!」


「あ"アあ"アあ"ぁぁぁぁ」


亡者はうめき声を上げながらその場に倒れ込み、動かなくなる


「さぁ菊理しゃまトドメを!」


「う、うん!」


菊理が糸を出そうとしたその時だった


「お……ス……た……」


「え?」


亡者が何かを呟いていたのを耳にし、菊理は動きを止めた

そしてもう一度、耳を澄まして聴いてみる事にした


「おな……カ……す……た……」


「お腹減ってるの?」


亡者の些細すぎる願いに、菊理は思わず拍子抜けしてしまう


「現世で強い執着が残っていると、こうやって亡者になって現世に帰ろうとしましゅからね」


天鬼に説明され、菊理は成る程と頷く


(何が望みなんだろう……)


菊理は気になり糸を亡者に繋げ心の声を聞くことにした


すると亡者の声が糸を通して聴こえてきた


『……腹が減った……もう何日も食べていない……仕事もない、金もない。けど支援も受けられなかった……何でもいい。何か食べるものを――――』


それは現世にいた頃に誰にも届かなかったであろう悲痛な訴えだった


(……そっか、貧困で食べられなかったのか。ホームレスだったのかな?)


亡者とはいえ、未だ苦しんでいるこの状況を見て胸が痛んだ


すると菊理は何か思いついたようにすくっと立ち上がり、踵を返して走り出した


「あ、菊理しゃま!」


「きゅ?」


「天鬼ちゃん、福ちゃん、そこでちょっと待ってて!すぐ戻るから!」


そう言い残し、菊理は道之の元まで一気に走って戻った


「道之さん!」


「あ?どうした?」


「何か食べるものを持ってませんか?」


「は?なんでだ?」


突然の事に道之は訳が分からず聞き返した


「すぐ必要なんです!」


「食べるものっていっても―――あ」


困惑しながらも懐を探ると、ある物が見つかった


「食いかけのパンならあるが」


「ありがとうございます!」


道之からパンを受け取ると、踵を返し素早くその場を後にした


「……?なにしようとしてんだあいつは?」


状況が読めず、道之は呆然とするしかなかった




―――――――――――


数分後

亡者の元へと戻った菊理は急いでパンを差し出した


「あの、これ、パンです。どうぞ」


差し出されたパンを亡者は受け取り、ゆっくり口に入れる


「……ああ……うマい……うマい」


か細い声でそう言いながらゆっくりゆっくり食べ続けた


その様子を見ながら、菊理はそっと亡者の肩に触れた


「辛かったんですね食べられなくて。でももう食べ物の心配しなくていいんですよ。頑張りましたね」


そう言って優しく微笑むと、亡者の濁った目が大きく見開かれた


「あ……アあ………」


次の瞬間、亡者の身体は光に包まれ、花びらが散るようにサァっと消えていった


「…………消えた」


「満足したんでしゅかね?」


「きゅう」


2人と1頭が話し合っていると、後ろから声が聞こえた


「ほぉー初めてだな。こういった事例は」


先程の菊理を不思議に思った道之が様子を見に来ていたのだ


「え?」


「亡者を祓う時は俺も嗣臣も、霊力で物理的に祓うんだが……お前みたいに亡者を救済して祓うやつは初めて見た」


少し考えるように手を当てると、更に言葉を続けた


「その霊力も戦う為というより、治癒のような癒しで救うためのものなのかもしれねぇな。もっと磨けば相手の精神世界にまで干渉できるかもしれねぇぞ……となると、修行内容も変えたほうがいいかもしれねぇ」


「私にそんな力が……」


道之の言葉に目を丸くし、菊理は自分の手を信じられなそうに見つめるのだった



――――――――――


4人が比良坂邸に戻ってくる頃には既に夕方になっていた


空は茜色に染まり、夕日に照らされた木々の影は長くなっている


屋敷の門をくぐると、玄関で嗣臣が腕を組み佇んでいた



「菊理!」


菊理を見た嗣臣は足早に彼女に駆け寄った


「嗣臣さん!外で待ってたんですか?」


「ああ、今日は実戦だったみたいだが大丈夫だったか?怪我はないか?」


心なしか心配そうに尋ねる嗣臣に、菊理は笑顔を見せて答える


「大丈夫です。無傷で帰ってきましたよ」


「そうか」


元気な様子を見て嗣臣は安堵の表情を浮かべた


3人が屋敷に入るのを見届けると、道之は嗣臣を声をかけた


「嗣臣。この前は悪かったな。勝手にお節介焼いちまって」


「別に気にしていない」


嗣臣は淡々と答える

表情は真顔のままだが、怒っていない事は確かだった


「あの嫁は良い女だ。大事にしろよ絶対にな」


「……当たり前だ」


少し笑みを浮かべだ嗣臣に、道之は満足そうに頷いた


「ああ、それと」


そして何か思いだすと、急に真剣な表情になった


「やっぱりここんとこずっと感じてたが―――妙に常世が騒がしい気がする…………気をつけろよ」


そう忠告を残すと、道之は家路へと帰って行った


彼がいなくなり、屋敷の外は風の音だけが静かに響いている


「………やはり、そうか」


嗣臣は小さく呟き、空を見上げた


ここ最近任務にあたる中で彼は違和感を感じていたのだ

――――やけに亡者や穢鬼の出没が多いと


それに加え、この1ヶ月の間で菊理が2回も襲われかけていることにも引っかかりを感じていた



何かが音も立てず、少しずつ近づいている―――――


そんな気配を感じていた

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