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黄泉人の妻〜出会ったその日にアチラ側の住人の妻になりました〜  作者: mai


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第13話 突如宿った力

突然現れた妖獣に、2人は驚いて見つめた

静まり返った空気の中、互いの視線だけが交わされている


一方妖獣も菊理達を見つめ返しており、互いに出方を伺うような膠着状態が続いていた


「どうしてここに妖獣が……?確かにここは山の上だけど………」


菊理は庭を見渡しながら呟いた

山とはいえ、妖獣がこうして目の前に自ら姿を現すのはこちらの世界にきて初めてだった


すると天鬼が思い出したように声を上げた


「…!菊理しゃま、あれ妖獣じゃないでしゅ!神獣の福咲鹿(ふくしょうか)でしゅよ!!」


天鬼は興奮ぎみに菊理の着物の袖を引っ張る


「神獣?フクショウカ?」


「天鬼の様な魔の存在じゃなくて、神聖な力を持つ獣でしゅ。福咲鹿は神の使いとも言われてる、滅多に見れない神獣で、出会えると幸福になれると言われてるんでしゅよ」


その説明を聞いた瞬間、菊理の顔がパッと明るくなった


「へぇー!幸せを運んでくれる神獣かぁ!ご利益ありそう」


菊理は嬉しそうに見つめながら手を合わせ福咲鹿を拝んだ

しかし次の瞬間、突然福咲鹿がバタリとその場に倒れてしまった


「え!?どうしたの!?」


菊理は思わず福咲鹿に駆け寄った


「あ、菊理しゃま!安易に近じゅくと危ないでしゅ!」


天鬼も慌てて菊理に付いていく

そして福咲鹿の身体を見て、息を呑んだ


「あ……怪我してる……」


福咲鹿の左脇腹にまるで鋭い爪で引っ掻かれたような大きな切り傷があった

血が溢れ、傷口からは肉が見えている


「肉食の妖獣にやられたのかもしれないでしゅね。自然界はきびちいでしゅから」


「痛そう……天鬼ちゃんなんとか出来ないかな?」


望みをかけて天鬼を見つめるが、天鬼は眉を下げながら首を横に振った


「んー……可哀ちょうでしゅが、これも自然の摂理でしゅから………」


「そんな……」


菊理は倒れている福咲鹿を見つめた

福咲鹿は苦しそうに息をし、痛みに藻掻いている


(でもなんとかしてあげたい……助かる見込みはなくても、手当てだけでも―――)


そう思った時だった

急に菊理の右手に何かがこもるような熱さを感じた


「え……!」


驚いて右手を見ると、人差し指に白い糸のようなものが絡まるように巻き付いていた


「な、なにこれ……!糸……?」


「菊理しゃま……!霊力をあちゅかえるようになったんでしゅか!?」


天鬼の言葉に自分の指先から現れた糸を、菊理は戸惑いながらも見つめる


「これが……霊力……?」


そしてそれを見た菊理はある事を思いついた


(――!もしかしたら!)


菊理は一か八かで福咲鹿に右手をかざしながら、念じて見る

すると糸がスルスルと伸び、福咲鹿の傷口を閉じ始めた


「――!傷口を縫ってくれてる!」


まるで傷口を塞ぐかのように糸たちは縫い合わされていく

そして縫い終わると、あの酷い傷は跡形もなく消えていた


「………な、治っ…た……?」


菊理は目の前で起こったことが信じられず、目を瞬かせる


すると福咲鹿の視線に気が付いた


「もう痛くないの?」


恐る恐る聞いてみると、そうだというように福咲鹿が頷いた


「良かった……!やったよ天鬼ちゃん!」


「良かったでしゅね菊理しゃま!」


2人は声を上げ喜ぶ

しかし次の瞬間、菊理は首をかしげた


「ん?どうしたんだろう?」


傷を治した筈の福咲鹿が、何故か菊理に跪いているかのように足を折り曲げ伏せ、頭を垂れていたのだ


その様子を見た天鬼が興奮したように声を上げた


「菊理しゃま!福咲鹿が菊理しゃまに服従を誓ってましゅ!」


「え…ええ!?」


突然の展開に菊理は戸惑う


「でもどうしたら……」


「手のひらを福咲鹿の頭にかざちて」


「こ…こう?」


天鬼に言われるがまま菊理は福咲鹿の頭に手をかざした


「あ……さっきの糸が……」


再び糸がスルスルと伸び、今度は刺繍のような文様を福咲鹿の頭にきざむ


複雑な文様を刻み終わるとそれが光り輝き――


一瞬で消えてしまった


「これで……終わり?」


菊理が戸惑っていると、天鬼が嬉しそうに飛び上がった


「やったでしゅ菊理しゃま!神の使いが菊理しゃまの眷属になりまちたよ!」


「この子が私の!?……え、えええええ!?こんなアッサリ!?」


思わず大きな声をあげ、自分の手のひらと福咲鹿を交互に見る


すると福咲鹿が物言いたげに菊理を見つめている


「ん……?何か伝えたいのかな?」


菊理が福咲鹿を見つめ返すと、また白い糸が指から伸び、福咲鹿に繋がった


『ありがとう黄泉人よ。この御恩一生忘れません。一生をかけ貴女に尽くします』


突然脳内に響いた声に、菊理は目を大きく見開いた


「この糸、心の声まで聞こえる!!」


「しゅごいでしゅー菊理しゃま!!」


2人驚きが盛り上がっていると、福咲鹿のツノがポロリと取れた

それを不思議に思っていると、更にこう続けた


『御礼にこちらを授けましょう。このツノを持っていれば主様の人生は幸福で溢れるでしょう』


「ふっ……福咲鹿のツノでしゅってぇぇぇぇ!!」


突然、天鬼が驚きの声を上げた為、菊理の身体が思わずビクリと揺れた


「ど、どうしたの天鬼ちゃん!?」


「福咲鹿のツノは大変貴重なものなのでしゅ!売れば億万……いや、十億万長者も夢じゃないでしゅ!」


「じゅっ、じゅうおくまんちょうじゃ!?」


2人が青ざめ驚愕し、困惑していると、遠くで低い声が響いた


「菊理、天鬼、そこで何をしている」


振り返ると、任務を終え帰宅した嗣臣が不思議そうな顔でこちらを見ていた


「あ、嗣臣さんおかえりなさい。というか見てください!十億万長者になれるツノです!どうしましょう!!家宝?家宝にします??」


「は………?待て、落ち着――――」


「菊理しゃま福咲鹿を服従させたんでしゅよ!すごいでしゅ!そして贈り物まで貰ったでしゅ!」


状況を聞き出そうにも、2人が間髪入れず興奮気味に伝えてくる為、嗣臣は訳が分からずぽかんとする


(ツッコミどころが多いが、如何せん情報量が多すぎる………)


よく飲み込めないこの状況に、嗣臣はただ呆然と見つめるしか無かった


――――――――


その夜、暗がりに仄かな灯りが灯る中、寝室にて嗣臣が落ち着きを取り戻した菊理から、霊力が使えるようになった経緯を真剣な眼差しで聞いていた


「―――――成る程。それで霊力の糸を操れるようになったと」


そういいながら菊理の手を取り、まじまじと見つめる


「でもなんで糸なんでしょう?嗣臣さんは影すよね?」


「術は人によって違うからな。単に俺は影で菊理は糸だったというだけだ」


嗣臣の問いに、菊理は成る程と頷く


「戦闘で使えるものではなさそうだが、治癒系の能力とも若干異なるし……変わっているな」


そこまで言うと、嗣臣は黙り込み何かを考えているように難しい表情を浮かべている

菊理はそれを不思議そうに見つめる


(……難しい顔してるな。いつも何考えてるんだろう)


ふとそんな事を思った時だった

右手の人差し指にまた糸が巻かれ伸び、そして嗣臣に繋がった


「え?あ…」


菊理は少し戸惑うが、嗣臣は全くそれに気がついていない


すると糸を通して声が聴こえてきた


『……どちらかというと念力の様なものなのか?開花したばかりでまだ不明な点が多いな。しかし、神獣を手懐けたとは興味深い。いずれにしても術の強化をすべきかもしれない』


(めっちゃ真面目に分析してるぅ……)


菊理は嗣臣の真面目さに思わず感心してしまう


しかし次に聴こえてきた声に菊理は固まってしまう


『しかし、出来れば俺達のような任務はさせなくはない……菊理にはいつものように朗らかでいてほしい。その笑顔が曇ることが無いよう俺は守りたい』


「へぇ!?」


突然の嗣臣の本音に、菊理は素っ頓狂な声を上げてしまう


「どうした?」


「あ!い、いやなんでもないですぅ!!」


菊理は慌てて糸を引き千切り、手をブンブン振りながら誤魔化すのを嗣臣は不思議な顔で見つめている


「そ、そろそろ寝ましょう!なんだか疲れちゃいました」


「……そうか。それなら今日はもう寝よう」


そういって2人は布団に入り灯りを消すと、嗣臣は当然のように菊理を後ろから抱きしめ目を閉じた


菊理の身体はすっぽりと包まれ、伝わってくる温もりが心地よくて嬉しさが溢れてくる



(……ある意味恐ろしい力を手に入れたかもしれない)


菊理はまだドキドキする胸を押さえながら自分の手のひらを見つめる


(嗣臣さんが私の事、意識はしてるっていうのは分かったけど………それでもまだ、どこか距離を感じるのはなんでだろう………)


確かに距離は縮まったはず―――なのだが、菊理はまだ心の引っかかりを感じていた


最初は前妻の寿美の事が忘れられないからなのかと思っていたが、どうもそれとは違う何かを抱えているように思えるのだ


しかし結局それが何か分からないまま、菊理は静かに眠るのだった

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