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世論

 王族がオークの群を殲滅する大活躍。王族の強さと、国民を守っているという事実、その宣伝になるはずだった戦闘は、終わってみればまるで正反対の結果になっておりました。

 王族の手柄を横取りしないために攻撃を加減していた兵士は戦線を維持できなくなって包囲網が崩壊し、あふれたオークの群が街へ向かう危機に。慌てて封じ込めを図った貴族も、戦力が足りずに封じきれず、冒険者たちの活躍によって街が守られた。

 これを受けまして、世論は王族批判に傾いておりました。

 なぜ兵士に攻撃を加減させるのか。王族が活躍したいから。王族が支配することへの正当性を主張したいから。兵士には押しとどめるのが精一杯で、王族こそが討伐を可能とする、という演出をやりたかったから。……言えるわけがありません。しかし人々は見てしまいました。防戦一方だった兵士たちが、実際にはオークを討伐できるところを。理解してしまいました。兵士が実力を隠して手加減している事実を。察してしまいました。単に王族が「俺TUEEE」をやりたいだけだという事を。

 なぜ包囲網が崩れても王族が街を守ろうとしないのか。目の前の敵を倒すことに熱中するあまり、周囲が見えていなかったから。敵陣深くに突っ込んでいたために、気づいた者が教えようとしても近づけなかったから。……言えるわけがありません。しかし人々は、それを「じゃあ仕方ないね」とは思いません。自分たちの命がかかっておりますから、評価は辛口になります。

 今度のような危険があるのは平民にも予想できるというのに、なぜわざわざ街の近くまで魔物を引っ張ってきて戦うのか。王族が「俺TUEEE」を見せびらかしたいから。見せてこそ宣伝になると考えたから。住民の安全への配慮? そんなの作戦通りにやれば大丈夫。……言えるわけがありません。実際、作戦通りに行かなかったのですから。

 しかし王族は、この世論からの批判を、責任転嫁で逃れようと考えました。


「包囲網を崩壊させるとは何事か!」

「しかも魔物を殺していたね。我らの手柄を横取りするとは、いい度胸じゃないか。」

「単純に弱い。やれやれだな。」


 街を守るために英断を下した貴族は、こうして処罰される事になりました。

 命令を遂行できなかった罪、街の安全を守れなかった罪、王族の手柄を横取りした罪、という訳の分からない罪状でもって処刑。もはや暴君でございますが、世論の高まりは王族をそこまで追い詰めておりました。だいぶ短絡的な王族と言わざるを得ませんが、戦闘バカの一族でございますので、もともと頭を使うのが苦手。血気盛んで勇猛果敢というのを売りにしておりますので、辛抱強く我慢するという事もできません。

 しかし当然この処刑は、一部でさらに不満を高める結果となりました。主に近衛部隊の兵士たちでございます。処刑された貴族の配下の兵士たちは、主君たる貴族を失って、この後は王族の配下として吸収合併される形になる予定でした。


「もう我慢ならない!」

「そうだ! あんな王家に仕えられるか!」

「俺はもう兵士を辞める!」

「俺もだ!」


 近衛部隊を中心に、かなりの兵士がいっぺんに逃げ出してしまいました。

 逃げ出した兵士たちは、多くがそれぞれの出身地へ戻ります。実家へ戻りますと家族が驚きまして、


「おや? 帰ってきたのかい? 今度はいつまで居られるんだね?」

「ずっとだよ。俺はもう兵士を辞めた。」

「……何があったんだい?」

「実は……。」


 と、ある者は実家で家族に、ある者は酒場で飲みながら、ある者は心機一転して新しい土地へ移った先で、それぞれに愚痴をこぼし、真実を伝えます。

 こうして国民の間に「本当に王族は守ってくれるんだろうか?」という不安が高まってまいりました。







 一方ヘルマンたちは、今日も今日とて討伐依頼に精を出します。

 探知スキルで遠距離から敵を発見できるイレーネと、歩行スキルで素早く動けるヘルマン、オーガ特有の怪力を振るうシルム。3人は順調に討伐を続け、人里離れた場所へシルムのために拠点を作り始めました。

 場所は、田舎村を囲む山の中腹。ヘルマンが歩き回って調べましたところ、この山の中腹にちょっとした広さの平坦な場所があり、山の上の方から清らかな水がたっぷり流れてくる沢がございました。人が生きていきますのには、どうしてもこの水というのが重要でございまして、世界三大文明も水の豊富な場所から発生しております。

 まずはこの場所へ寝床を作ろうという事で、オーガの巨体が納まる大きなテントを作ります。実際に作ってみますと、テントというよりは小屋といったサイズになりますが。片手で掴めるような細い木を伐採いたしまして、これを太い木の間へツルや何かで固定してまいります。そうやって柵のようなものを作りましたら、今度はその柵の上へ細い木を寝かせて固定していきますと、なんとなく小屋の骨組みらしきものができてまいりました。あとはこの柵としか言いようのない骨組みに葉っぱのついた木の枝なんかを引っかけたり縛り付けたり致しまして、粗末なものではございますが小屋が出来上がりました。

 ここへ街から買ってきた布団を敷きまして、3人で寝泊まりできるように致しますが。人間用の布団ではオーガの3mの巨体には小さすぎましたようで、手やら足やらがはみ出してしまいます。


「明日にでももう1枚買ってきましょう。」

「そうですね。

 ……ところでオーガが風邪を引くというのは聞いた事がありませんが、どうなのでしょう?」

「なった事ないけど、病気は怖いです。」


 あけて翌日、ヘルマンとイレーネが冒険者ギルドで仕事を片付けている間に、シルムは周囲の魔物を討伐しておりました。倒した魔物を拠点へ集めて、木の枝に吊すなどして、血抜きをしてまいります。オーガとしては生肉を丸かじりでも問題のない食性でございますけれども、意識は人間でございますので、せめて焼くぐらいの調理はしてから食べたいという気持ちがございます。

 午後になりましてヘルマンとイレーネが戻ってまいりますと、その手に布団が1枚。早速これを小屋の中に敷いてみますと、昨日のうちから分かっていた事ではございますが、もはや小屋はいっぱいいっぱい。これでは生活の場としてスペースが足りないということで、午後からは小屋の拡張をすることになりました。

 ついでとばかりに燻製釜を作りまして、血抜きした魔物を保存が利くようにいたします。たき火をおこして肉を焼いておりますと、だいぶ文化的な様相を呈してきたような気がいたしました。


「冬に向けて、燻製のやり方を練習しておきましょう。」

「そうですね。ぶっつけ本番では、失敗したときに食糧難になってしまいます。」

「分かりました。肉を集めておきます。」

「薪拾いと、保存場所の拡充も必要ですね。」

「せっかくですから、燻製のついでに何か匂いでも付けてみると面白いかもしれません。」

「香草なんてありませんし、薪の種類を変えればいいですか?」


 そんなこんなで多少の失敗もしながら、拠点作りが順調に進んでまいります。

 そうしますと、シルムが周囲の魔物を狩りますので、拠点周辺の魔物はそこが危険地帯だと理解するようになりまして、近寄らなくなってまいります。シルムは肉を求めて行動範囲を広げ、いつしかその影響が近くの村にまで及ぶようになりました。







 拠点作りから2ヶ月ほどがたちました頃に、だんだんと村周辺で魔物を見かけなくなってまいりました。

 今までですと、たびたび魔物に襲われて、家に立て籠もってやり過ごす。魔物が立ち去った後になって、荒らされた畑にうなだれるというような事でございました。たびたび救援要請も出してはおりますが、領主も王族も小さな村1つの訴えなど取り合うものではございません。

 王族にしてみますと、助けたところで村の人口は少なく、宣伝効果が小さすぎる。領主にしてみますと、たびたび王族の出撃に付き合わされて兵力に余裕がない。つまるところ、どちらも「もっと大勢がいる所を優先する」というわけでございます。

 一応、領主主導で定期的に掃討作戦がおこなわれるのがせめてもの救いで、このおかげで大規模な群に襲われるような事はございませんでしたが。なにしろ余裕がないところで定期掃討をしておりますので、その頻度はせいぜい年に1度か2度。村が安心して暮らせるような場所にはなりませんでした。村人の不満はもうだいぶ前から、たまりにたまっております。

 こういう状況でございますので、村人たちは魔物が減ったことにすぐ気がつきました。


「どうなってるんだ?」

「何かの前触れか?」

「悪いことが起きなきゃいいが……。」


 と、村人たちが不安がっておりますところに、村で1人だけの野鍛冶がやってまいります。

 野鍛冶――つまり正式にどこかの鍛冶師に弟子入して鍛冶師になったのではなく、我流でやっていて鍛冶師のまねごとができるようになった者がおりまして、これが包丁やらクワやらを修理する仕事を村人から請け負っておりましたけれども、


「そういえば、冒険者がクワを買いに来た事があったが。」


 と、その冒険者の人相風体を語ります。


「あれ? それって、見た事あるぞ?」


 と別の村人が申しますので、そういえば俺も、そういえば私も、と次々に声が上がります。

 つまりこれは、ヘルマンとイレーネが冒険者ギルドへ出かけたり、生活物資を調達したりしているところを目撃されていたわけでございます。


「いつもニコニコしてて感じのいい連中だよな。」

「でも、こんな田舎村に冒険者が何しに来るんだ?」

「だいたいクワなんか買って、どうするつもりだ?」


 村人たちは揃って首をかしげますが、まさか住んでいるとは思いませんので、さっぱり答えが出ません。しかし、ほかに思い当たることもございませんので、確証がないながらも、なんとなしに「彼らが原因で魔物が減っているのではないか」という根拠のない楽観的な考えが浮かんで参ります。

 そうして「次に会ったら聞いてみよう」という話で落ち着き、後日、彼らの推測は当たっていた事が判明いたします。

 こうして世論とヘルマンの間につながりができますと、だんだんとヘルマンに頼ろうという動きが出てまいりますが、今日はここまで。続きはまた明日のお楽しみ。


==ヘルマンの歩数==

実績:2ヶ月が過ぎた。毎日1万歩ほど歩いた。

合計:90万歩

歩行速度:36000km/h

走行速度:18万km/h

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