王国軍の戦い
さて初日に申し上げました通り、国王ジークフリートや王子ライナルト、エックハルトらは、先頭に立って戦うことで国民を守り、それによって一定の支持を得ております。
賢明な読者の皆様はすでにお気づきの事と思いますが、決して「絶大な支持」ではございません。命を守ってくれるのに、先頭に立って戦うのに、人気者ではないのです。一定の実益はあるのだから感謝しないとね、というのが庶民の正直な感覚でございました。
働くのがつまらないと思っている人がおりましたら、あなたが会社や社長に対して思うのと同じ感覚と申し上げれば、だいたい伝わるかと存じます。社員のことなんて見てくれないし、指示はめちゃくちゃで現場が混乱する厄介な相手。そんなのが国王や王子でございますから、中間管理職に当たる貴族たちはみんな頭が綺麗~にハゲ上がっております。
「はぁ――……。」
とある貴族が命令書を受け取りまして、深ぁ~いため息をつきます。
そのツルツルピカピカの頭頂部に、窓から差し込む光が反射しまして、そばに控えておりました副官が、ちょっとまぶしそうにいたします。
そうして、嫌な予感を覚えながら、
「……いかがなさいましたか?」
尋ねますと、貴族はまた大きなため息を1つつきまして、
「……また例の命令だ。」
それを聞きますと、今度は副官が深~いため息をつきます。
「……またですか。」
「……まただ。」
「いやですね……。」
「いやだな……。」
「…………。」
「…………。」
「「はぁ――……。」」
なんにも考えたくなくなって、沈黙すること数秒。そのままぼーっとしているわけにもいきませんので、副官が尋ねます。
「それで、今度はどこでしょう?」
「南の森のオークだとさ!」
貴族が吐き捨てるように言いますと、副官はまた1つ小さくため息をつきまして、準備のために部屋を出ていきました。
命令書には、南の森のオークに対処するための出撃命令が記されておりました。ただし、この命令の内容は「討伐せよ」というのではなく「街の近くまで誘導せよ」というものでございました。そうやって民衆に見える位置まで引っ張ってきた魔物を、国王や王子らが薙ぎ払って一気に討伐するというのが、いつものやり方でございました。
集めて倒すというのは魔物狩りでは効率的な方法でございまして、MMORPGなんかではよく見かける戦術でございます。たいていは敵の注意を引きつけるスキルをもったキャラクターが防御を固めて魔物を集めてくる。これを「釣り」と申しまして、釣った先に待ち構えていた仲間が、足止めや強化・弱体化をかけた上で、範囲攻撃で一気に殲滅というのが常套手段でございます。
貴族たちがこれを嫌がっておりますのは、第1にオーク程度なら貴族たちにも殲滅できること、第2に国王や王子たちのスキルは範囲攻撃ができないので討伐に時間がかかること、第3にその間に街に被害が出ないように食い止めておかなくてはならず怪我人がかなり出ること。そういった理由で、ただの人気取りのために無駄な事をさせられて、無駄に怪我人が増えて、その治療や見舞金に無駄な金を使わなくてはならないという鬱憤がございます。
「我が弓の威力を見よ! はあっ!」
「我が剣の冴えを見よ! うおおおっ!」
「我が槍の味を知れ! どりゃあああっ!」
国王ゲルハルトが弓矢を放ち、長兄ライナルトが剣を手に突撃。次兄エックハルトがそれに続きます。それぞれ弓術・剣術・槍術のスキルを持っておりますので、その腕前は大変なものでございますが、いずれも1回の攻撃で1体を倒すのが限度とあって、殲滅には1時間、あるいは2時間といった時間がかかります。
その間、貴族たち率いる兵士は、オークがよそへ向かわないように押しとどめておかなくてはなりません。ただし、王族の手柄を横取りする事は許されないために、うっかり殺してしまわないように気をつけながら、という地味に過酷な戦闘になります。相手は殺すつもりで襲ってきますから、かなりの怪我人が出ることになります。時によっては死人まで出る始末ですが、国王らはこのやり方を変えるつもりがないようでございました。
「ぎゃあっ!」
と、また1つ悲鳴が上がったかと思うと、その近くで急激に包囲網が崩れ、オークが街へ向かっていきます。悲鳴を上げたのは、回復スキルを持つ兵士でございました。回復役が倒れますと負傷者の戦線復帰ができなくなりますので、一気に戦線が崩壊していきます。
敵陣に深く突っ込んでひたすら攻撃を繰り返すことに夢中になっております国王や王子らは、包囲網の崩壊に気がつきません。気づいた兵が知らせようと思いましても、国王らが深く突っ込みすぎているために近づく事さえままならない有様。
「カバーしろ!」
と貴族が命じますと、この貴族の身を守るために控えておりました近衛部隊が、包囲網から漏れたオークを再び封じ込めるために走り出します。しかし人数が十分ではございませんので、殺さずに封じ込め直すのは不可能。かといって殺せばあとで叱責を受けるのは不可避となります。
「やれ! 構わん! 責任は私が取る!」
貴族が禿げ頭に湯気が立つ勢いで叫びますと、近衛部隊がオークの討伐を始めました。
しかし人数が足りない上に対応が遅れたために、一部のオークは近衛部隊の攻撃を逃れて街へ。
王族の戦闘を観戦せよという、これまた人気取りのための命令によって仕方なく観戦に出ておりました一般人が、このオークの群の一部が近づいてくることに気がつきまして、
「おい……あれ、ヤバいんじゃないか……?」
「ああ……なんか、こっち来てるっぽいよな?」
「……いや、あれ、絶対こっち来てるって!」
「やべぇ! 冒険者ギルドに知らせよう!」
すぐさま冒険者ギルドで緊急依頼が発動されました。緊急依頼はこういう危機的状況でのみ発動される制度でございますので、その場におりました冒険者は、強制参加となります。
ここにヘルマンとイレーネもおりました。シルムは魔物でございますので、このときは街の外に潜伏して待機しております。
「先に行きます。」
とヘルマンが飛び出します。
冒険者になってから、かれこれ1ヶ月にもなろうという時でございますから、ヘルマンの歩数はすでに30万歩を超えております。歩行速度にして1万2千km/h、走れば6万km/hという、人間やめるにもほどがあるだろうと突っ込みたくなるような移動速度になっておりますから、先着したとたんにオークを殴り飛ばしたり投げ飛ばしたり。なんなら近くを駆け抜けるだけで衝撃波で吹き飛ばすことになりますので、むしろ街に被害が出ないように速度を抑える必要がございました。
「ヘルマン様に続け!」
遅れて到着した冒険者たちが、イレーネの号令で戦闘を開始いたします。
心優しいヘルマンと、軍人気質で実直なイレーネは、冒険者たちの間でも信用されるようになっておりましたので、イレーネの号令に「なんでお前が仕切るのか」と突っ込むような輩はおりませんでした。
オークの群はそれから間もなく殲滅され、街への被害も出ませんでした。しかし冒険者たちの活躍によって、王族との対比が明確になった事で、貴族・兵士・一般人らの王族に対する不満はいよいよ高まっておりました。
さあ、いよいよ逆転劇に向かって世論まで傾いてきた……というところでございますが、今日はここまで。また明日のお楽しみ。
==ヘルマンの歩数==
実績:1ヶ月ぐらいが過ぎた。毎日歩いた。
合計:30万歩
歩行速度:12000km/h
走行速度:60000km/h




