40.7つの玉を集めるわけでは決してない
勇者は召喚された。
オワタさんは終わり、私が『魔王様』と相成った。オワタさんはやはりおわた、と感慨深げに考えながらも、私は自分の人生も終わった、と思っていた。
オワタさんに魔王様の座を譲るつもりは無かったが、こうなると私の人生『魔王』一色。終わってる。
「では魔王様、ご命令を」
ブカは私が魔王様、になったので呼び方も変えたらしい。そしてちょっとご機嫌だった。当たり前か。ブカにしてみれば、これは大どんでん返し中の大どんでん返しなのだから。
ブカは、私が『魔王様』になることはないだろうと思っていたに違いない。俺、この後の運命、絶対手下の手下だ、小間使いになるんだ。とかって思っていたに違いない。
「命令って?」
「人間共の街に攻め入る命令です」
「………」
さあ、人間共を殺しに行きましょう。ということ。心置きなく行きましょう。さあ出発だ。すぐ行こう今行こうほら行こう。俺、準備万端。俺、ばっちり。さあ、早く行こう。行きましょう。
早く。
早く早く早く早く早くはやく、と。
言わないけど、もの凄い伝えてくる。
そんなにか。
「ぶ、ブカ?」
「何でしょう」
「私さ、そういうのは…、ちょっと…」
ちょっと、どころではなく大分、かなり、する気はないんだが。ブカは『無』の表情のまま口を開く。
「魔王様」
「はぁ」
「魔王様は御自分のお立場をもう少しご理解した方がよろしいかと」
お立場。
「魔王様になったからには、魔物達の王になるのです」
「魔王、の時もそうだったけど?」
何が違う。
「全魔物の王、です。王となったからには魔物達を率いていかなければならないのです。それが上に立つ者の宿命です」
「はあ」
「魔王様、魔王だった時は許されていたことも、魔王様となり『王』となったからには許されないことなのです。御自分一人がここで生きているわけではありません。魔物達は魔王様の手下であり僕であり、ここで生きているのですから」
ブカが熱く語る。ここまで熱く語るブカに多少驚きながらも、私はブカの言った『ここで一人で生きているわけではありません』の言葉に少し考えさせられていた。
魔王様、になった。
人間でいう所の総理になった、みたいなことなのだろう。
下には国民がいる。
守るべき民がいる。
「………」
「魔王様。魔王様はまだ魔王だった時に、魔物達に『人間に危害は加えるな』とご命令されましたね」
私がまだ魔王様、になる前。
私はブカに頼んで、彼の言う所の『結乃様側の魔物』にそう伝えるよう頼んでいた。命令、したわけじゃなかったんだけど。
結果『命令』になったわけだ。
「一番目の魔王の魔物達も、すでにこちらに移動してきています。魔王様、魔王様がそれら全ての王なのですよ」
「…一市民だった私にそれはちと重いんだけど」
「全ての魔物に『人に危害を加えるな』と言うおつもりですか?」
魔物は戦闘を好む。
魔物は戦闘民族。それ以外に生き方はない。
それを制限し、『するな』と言われたら、魔物達は何をすればいいのか。
それは分かる。
分かるんだけど。
私はやっぱり人間を襲わせるわけにはいかないんだ。
「…魔王様の言うことは、絶対。でしょ?」
魔王の時より効力は高い。私の言うことは絶対。私は魔物達に人間を襲わせるわけにはいかない。
『絶対』に。
ブカの眉がぴくり、と動いた。
「…では、やはり『人間に危害を加えるな』と」
「うん。ごめんだけど、伝えてきてくれる?」
ブカが怒っているのが分かる。『無』の中に『怒』があるのが分かる。本来ならこれは私が行くべきなんだろうけど、ブカが以前言ったのだ。私が行きます、と。だから今回も彼が行くのだろう。
多分、これは片腕としての仕事。片腕がすべき仕事だとブカは思っている。だからブカに任せる。
ブカには苦労ばかりかけている。今度労ってやらねばならないだろう。
そんなブカが口を開いた。
「分かりました。では、文句のある魔物、全ての一掃許可を私に下さい」
「………」
一掃?
「魔王様が魔王様となられる前にも、暴動が起きたのです。何故人間を襲ってはいけないのか、と。その時は私が言いくるめましたが…。魔物の数が増えた今、抑えられる自信が私にはありません。なので一掃の許可を」
「…魔王の言うことは絶対、じゃないの?」
「絶対、ですが不満は残ります。意志ある魔物にはそういった感情もあるのです。不満、嫌悪、不愉快。そういった不平不満が募ります。私はそれら全てを抑える自信はありません。なので一掃の許可を」
文句ある奴全て殺す。皆殺し。消し去る。全て消す。だから、その許可をくれ。
「………」
自信がない、と彼は言うが、多分それは違うのだろう。
苛々してるね。
今君はとてつもなく苛々しているね。
「一掃の許可を」
俺が殺します。文句ある奴、全員殺します。というか、殺らせて下さい。もう我慢の限界だ。やらせろ、殺らせろ、人間じゃなくてもこの際構わない。俺がこの手で出来るのなら何だって構わない。もう俺の我慢は限界だ。無理だ。無理なんだ。だから
殺らせろ。
「…出せません」
怖すぎる。
ブカに許可を出したら本気で魔物全員殺っちゃいそうで怖かった。ブカなら楽々、それこそ一掃出来る。皆殺し。全部跡形もなく消してしまいそうだ。
手下がいなくなったら困るんじゃない?と私が言ったら、ブカは「雑魚はいくら集まろうと雑魚です」と、とんでもないことを言った。
多勢に無勢、とか
三人寄れば文殊の知恵、とか
一本の矢は容易に折れるが、三本まとめたら折れない、みたいな考えはないのだろうか。
「………」
ブカなら三本でも十本でも平気で圧し折りそうだけど。バッキバキにしそうだけど。
「出せません」と言った私をブカは『無』な表情でじっと見ていた。
じっとじっと見る。
怖すぎる。
彼はやはり魔物なんだな、とそう思った。
戦いたいのだ。彼も魔物だから。人間のような姿形だが、中身は魔物。
私の秘書などしていられるか、ということだろう。
そう思いながら、困ったように彼を見ていた私は、この時、ふと、とても良いことを思いついた。思いついてしまった。私は早速彼に言ってみる。
「ね、ブカ。『天下○武道会』って知ってる?」
知るわけがないブカが、「知りません」ときっぱり言った。
魔王城の外には庭や森が広々と広がっている。




