41.勇者降臨
『天下○武道会』について、ブカとは一悶着あったが、それなりの纏まりは迎えた。ブカは、『殺しは失格だよ』という私が言った言葉がとても不服だったらしく、それまではわりと乗り気な感じだったように見えたのだが、その私の言葉を聞いてあからさまに落胆した。どんだけよ、君。
さらに、「ブカは強すぎるから審判した方がいいかもね」と冗談じゃない冗談を言った時のブカの怒り様は、顔には出さなかったが凄まじかったと思う。
だけど、この後の展開のブカの怒り様のが凄かったんだけどね。
「…魔王様、勇者が来たようです」
ブカのその言葉に、私は耳を澄ます。だが、何も聞こえない。窓から外を見てみる。庭にも森にも何も起こっている様子はないのだが。
「ブカ、そんな様子全然」
ない、と私が言う前にブカが動いた。ブカは「失礼します」と言って私の腰を抱き、ひとっ飛びでその場を離れる。その直後、私がいた辺りの天井が何かに破壊された。どかーんっ!と言う音とともに天井が落ちて来て、そして二人の人間も一緒に落ちて来る。
「ちょっとっ!あんたってばやり方無理矢理すぎだわっ!」
「しょうがねーじゃん?これが一番早いしさ」
一人は怒り、一人は笑う。笑う一人には見覚えがあった。あの杖、そしてあの顔、あの髪の毛。あれは。
「ネイルっ!」
私はその少女の名を叫んだ。
ネイルだ。あの、魔法使いで口が悪くて多分女の子な、あのネイルだ。だけど何故ネイルがここに?それに、一緒にいる女の子は…?
ブカが「お知り合いですか?」と聞いて来た。向こうでも「何、知り合いなの?」と会話している。
「うん。アルファルド君と旅してた時に何度かイベントを一緒に」
私はブカにそう説明したが、当のネイルの方は「知らね」ともう一人の女の子に言っていた。当たり前だ。私の姿をネイルは見ていないのだから。ネイルとこうやってちゃんと顔を突き合わすのは今日が初めてだ。
「ネイルっ、私だよ!レイト!!」
私は自身を指さす。
「……レイト…?」
ネイルが不審げに顔を歪める。あぁ、信じてもらえてない。
「久しぶりだねっ、あの時はごめんね!顔とかちゃんと見せてあげられなくて。でも、こっちにもちょっと事情があってさっ。でも、レイトだから。ほら、私、レイトなんだよ!」
アルファルド君と一緒にいたレイト。レイトです。本当の名前は結乃なんだけど、レイトです。レイトなんです。
私の必死のその言葉にネイルは私がレイトだと信じたようだった。もしかしたら声で分かったのかもしれない。「レイトかっ、久しぶりだな!」と言ってくれた。めちゃ笑顔。
「うんっ久しぶり!」
普通に嬉しかった。そして、何故かとても懐かしくて涙が出そうだった。アルファルド君と旅をしていた時の事を思い出したからかもしれない。そんなに昔ではないはずなのに。
「でも何でレイトがここにいるんだ?」
ネイルが首を傾げた直後、こっちに向かって走ってきた女の子がいた。その女の子の手には
剣。
ガキィンッ、と私の目の前でその剣が見えない壁にぶち当たり甲高い音を立てた。ブカがシールドを張ってくれたらしい。すぐ目の前に剣。今私普通に死にかけた。死にかけましたよ。
「魔王様」
ブカが私を呼ぶ。
「う、あ、うん。あ、ありがと…」
剣を持った女の子はシールドに阻まれたことにより見事な空中回転を見せ、距離を取ってこっちを睨んでいた。もしかしなくても、この女の子が『勇者』なのだろうか。
金髪猫目な美少女。ふわふわな髪の毛を背中に流して剣を握りこちらを見る勇ましい姿はまさに勇者っぽい。
雰囲気がアルファルド君と似ている、と感じるのは彼女がアルファルド君と同じ金髪だからだろうか。
「ちょっとネイル、何悠長に和んでんのよ。いいかげんにしてよね」
「あー…、でもあいつレイトだし」
「知らないわよ名前なんて。あの女が魔王なのよ」
ネイルが私を見る。
「そうなのか?」
いや、この髪と目とで分からなかったんだろうか。
「う、うん、まぁ。そうなんだけど…ちょっと」
話を聞いてくれ。という前に勇者であろう女の子が突っ込んで来た。私は慌てて「ストップ!!」と言ったが女の子は止まらない。
「魔王が女だったからって、私は容赦しない…っのよ!!」
またしてもガキィンッ、と剣と見えないシールドがぶつかる。が、勇者が力を込めたのか、剣が淡く光り輝き。
シールドを破壊した。
「げっ…!」
剣直撃コースにいた私は咄嗟に手をパンッと叩いて手を前に突き出す。ぶわっ、と風が巻き起こり勇者さんを思いっきり吹き飛ばす。だが、勇者さんは剣でその風をなぎ払って着地した。普通にカッコいい。拍手したい衝動にかられた。
「ネイルっ!アンタも加勢しなさいよ!!」
「あ、ああ。わり」
そう言ってネイルが魔法を発動させようとしたので、私は叫ぶ。ネイルの魔法はやばい。魔王となった私なら多分ガード出来るが喰らいたくは無い。
「ストップ!!!!ちょっと話を聞いて!!お願いだから!!」
「話なんてないわ。私はアンタを倒すのが仕事なの、さっさと倒されなさいよっ!」
勇者さんに私の願いは一刀両断された。勇者さんがまたこっちに突っ込んでくる。
「ぶ、ブカっ!」
ブカは勇者に突っ込んで行った。ちょっと口元つり上がってて楽しそうに見えたのは気のせいか。
「ブカ!殺しちゃ駄目だよ!!」
とりあえずそう言っておいた。
その間にもネイルが魔法詠唱し終わり、ネイルの杖がこっちを向いていた。直後、何百本もありそうな氷の刃が勢いつけてこっちに飛んでくる。
「ちょ、まっ」
待ってってばぁぁぁーーーーーっ!!
ネイルは待ってくれなかった。




