18.名前をつけられてみた
そうして私達が神秘の森を進んで暫く、カグヤが立ち止まったのはばか高い広葉樹が沢山生えている所でした。普通じゃ考えられないほどの高さがあるその広葉樹は、ずっとずっと上まで幹が続いており、葉が微かにココから確認できるぐらいほどの高さがあった。
「…高っか」
群生しているからか、幹の辺り、つまり私達がいる地上辺りはまだ大丈夫なのだが、上は一つ一つの広葉樹の葉っぱがわさわさとしていて例えるなら一種の森が上には出来ていた。
いや、あれは遥か上空にある葉っぱの絨毯か?
「これだけ高かったら森の外からこの辺り見たら、あの葉っぱの絨毯だけ飛び出て見えるのかな」
そう言ったら、「葉っぱの絨毯…、可愛い表現ですね」と笑いながらカグヤがそれはないです、と言った。
「何でですか?」
今まで歩いてきた森の中で、ここだけこんなに高い木があるのだ。外から見たら絶対突き出て見えると思うのだが。
「この森事態外からは見えないからな」
アルファルド君が言った。
「見えないの?」
「それがこの森なんだよ」
ため息まじりにそう言ったアルファルド君は、説明を面倒くさがったみたいだ。
「あの森の絨毯の辺りにレイトの花が咲いてるんです」
カグヤがそう言い上を指差す。
見えていないのに見えているようだ。
「あんな所、よく見つけたな」
「目が見えませんので。逆にレイトの花の気配というか、そういうものが分かるんですよ」
頭をかりかりと照れたようにカグヤがかく。
「でも、あんな所どうやって登ったんですか?」
広葉樹の幹はツルツルしていて、人間の手では流石に登れないだろう。登れたとしても私は登らないが。高すぎる。落ちたらと思うとゾッとした。
「幹に穴を開けていって登ったんですよ」
そんなバカな、と思う発言をするカグヤを横目にアルファルド君はじっと上を見上げたまま何かを考えているようだった。
ミズイロがその回りを飛び回っている。それを見て、私は思ったことを口に出す。
「ミズイロならひとっ飛びじゃない?」
ミズイロが寝耳に水、と言った感じの表情をした。そして私の顔にどかんと体当たりしてきた。
「痛っ」
「キュアーッ」
怒っているようです。
「ごめんごめん。嘘だよ。何があるか分からない所にミズイロだけ行かせるわけないじゃない」
よしよしと抱き締めて撫でてやったらミズイロは気持ちよさそうな顔をした。可愛いな、こいつめ。
だが、ミズイロの災難は終わらなかった。
「アケル、行ってこい」。そうアルファルド君が言ったから。
「キュアァァァー」
ミズイロが悲しそうな声を出し、私の胸に嫌々と埋まってくる。
だけど、アルファルド君は容赦なかった。
「アケル、お前もこんな所に長くはいたくないだろ?俺もいたくない。さっさと済ませたいんだ。だから、頼む」
そう言ってあまり見ない真面目な顔でミズイロに頼るアルファルド君。そんなアルファルド君の真剣さに、ミズイロは少ししてから「キュゥ」と小さく鳴いて返事をした。
分かった、とでも言ったのだろう。
そうしてミズイロはカグヤからレイトの花の詳細について聞き、一人上へと向かって飛び立っていった。
「大丈夫かなぁ、ミズイロ」
不安そうな表情だったミズイロ。無理もない。あんなに小さいのに一人であんな所まで行かなければならないなんて。
例えるなら『はじめてのおつかい』みたいな。
「寧ろアケルの方が安全だろ。俺達が行くよりも」
「そうなの?」
「アケルミズイロさんは人間じゃないですからね。上に何かいても攻撃などはされないと思いますよ」
カグヤがにっこりと笑う。
アケルミズイロって。
「カグヤさんが行った時は何かいたんですか?」
気になったので聞いてみた。
「いえ。何も居なかったです。だから大丈夫ですよ。アケルミズイロさんを信じて待ちましょう」
そう言われてもやはり心中心配だったが、どうすることも出来ないので大人しく待つことにした。無事に戻ってきますように、と願いながら。
そしてミズイロを待っている間の数十分、私達はくだらない話をしてそこに止まっていた。
「まさにはじめてのおつかいの親の気分」
「はじめてのおつかいって何だ?」
アルファルド君が意外にも興味を持った。
「えっとね…、小さい子供が一人で買い物に出掛けるの。親に頼まれて。有名なテレビ番組だよ」
「てれび、とは何ですか?」
カグヤが聞く。
しまった、と思ったがもう遅い。
「あー…、人が、ね。動いてるのを、こう…、見てること。かな」
誤魔化し方が酷すぎる。だが、カグヤはそれで納得したらしい。「二人は親なのですか?」と、また別の話題をふってきたから。
「俺達が親なわけないだろ」
「そういえば、ミズイロの親ってどこかにいるのかな」
あの遺跡で出会った小さな獣、ミズイロ。彼処には、多分ミズイロしかいなかったとは思うのだが。牛ボスさんなどは抜きにして。
「死んでる可能性の方が高いだろうな。アケルはあの遺跡にいたんだろ?」
「そうだけど…。なんかもうちょっと別の可能性とか考えようよ」
死んでる、だなんて。
ミズイロが可哀想だ。
それが一番高い可能性だ、とアルファルド君。思慮とか考慮とかおもんばかるとか、ないのかね、この子には。私は息をはく。
「そういえば、君は自分の名前が分からないのでしたね」
カグヤが私の方を見ながらそう言う。話題でも変えようとしたのかもしれない。
実は、森を歩き回っている時カグヤに名前を聞かれたのだ。私はとりあえず記憶喪失みたいで、と言っておいた。記憶喪失で通じるか否か分からなかったが、どうやら通じていたらしい。
「では、勇者殿が名前を考えてあげればいかがでしょう」
そのカグヤの提案に私は全力で首をぶんぶんと縦に降る。テンションが上がる。
「つけてつけて!アルファルド君の名前も私がつけてあげたんだし。私の名前はアルファルド君がつけてよ」
カグヤが少し首を傾げたが気にしない。
「冗談」
「冗談じゃないってば。名前無かったら不便だしさ。それに思い出すまでの仮の名前だしっ。自分で考えるのもあれだし…。適当でいいよ」
何を隠そう私が考えた『アルファルド』も適当この上ないし。アルファルド君は嫌そうなめんどくさそうな顔をし、少しの間の後観念したのか口を開いた。
「名無し」
それは流石に。
「違うので」
「死人」
「死んでないしっ」
「神秘」
「いや、それこの森の名前じゃん」
「物体」
「私はあのぶよぶよのようだと言いたいわけか」
「レイト」
「それ花の名前だしっ!」
考えている気配ないアルファルド君。私は悲しくなった。思い付いた、というか見て聞いたものの名前を連呼しているだけではないか。
いや、私の『アルファルド』も似たり寄ったりなんだけど。
だが、カグヤだけはその『名』をいたく気に入ったらしい。
「ナナシ、シニン、ブッタイ…。なかなか奇抜な名付けですね。さすが勇者殿です。でも、女の子なので最後の『レイト』がいいんじゃないですか?」
アケルミズイロさんの『アケル』も花の名ですし、と楽しそうに言うカグヤはミズイロの名前がアケルビの花の名から取られていることに気付いたらしい。見えないのに。凄いな、と思う。
ミズイロと同じ花の名前。
「………」
いいかも。
私は単純だった。




