19.強制イベント終了
そうこうしているうちに、ミズイロが森の絨毯から帰ってきた。
口に不思議な花を二輪加えて。
「キュ」
行きとは裏腹に、ミズイロはやってやったぜな態度でアルファルド君の腕の中に降り立った。アルファルド君はそんなミズイロの頭を撫でる。
それは不思議な花だった。
形や大きさなどはいたって普通の花と相違ないのだが、色だけが私の世界には無い色をしていたのだ。
白ではなく透明。
透き通って向こう側まで見えそうなその花弁の真ん中に、黒っぽい種っぽいものが密集している。
「これがレイト、なんだ」
しげしげ見る私。アルファルド君も、手に持ったそれをじっと見ている。
「ありがとうございました。アケルミズイロさん」
そのカグヤの言葉に、ミズイロが嬉しそうに小さく鳴いた。私はこっちに飛んで来たミズイロを腕の中にキャッチし頭をよしよしと撫でてやる。
お疲れ様、ミズイロ。
「おい」
そう言ってアルファルド君がカグヤにレイトの花を一輪渡した。花弁がはらはらと落ちる。カグヤは礼を述べ受け取り、レイトの花から種だけをぶちっと引きちぎった。
「勿体無い!」
私は叫んだ。酷い。あんまりだ。
だが、どうもレイトの花弁はカグヤが種を引きちぎらなくてもはらはらと散っていってしまうものらしい。アルファルド君の持っていたもう一輪の方のレイトの花弁も何もしなくても、その命を終わらせようとしていたから。
「摘んだのが駄目だったのかな」
「だろうな」
「でも、この花弁もちゃんと使えるんですよ?」
カグヤはそう言い、落ちた花弁を拾い集めて何やらごそごそし始めた。アルファルド君も同様に何やらし始めたので、私は一人それを見守る。
「出来ました」
暫くして、カグヤが小さな容器に入れた飲み物っぽいものを手にしてこちらに見せてくれた。ジュース?
「ジュースですか?」
「じゅーす、って何ですか?」
それはレイトの花弁を使って作ったものらしい。飲めば体の内側を、塗れば体の外側を治してくれる万能薬。
と、言われている。らしい。
「本当なんですか?」
「噂ですよ。さすがに恐ろしくて試せないです」
じゃあ何故今作ったのですか。
専門家達がそれについてはっきりしたことを発表してくれるまでは使用すべきではない、との事らしい。
元々希少な花だからそこまで研究されていない、と言うことか。
「おい」
アルファルド君がカグヤと同じ様に手に器を持って声をかけた。
誰に?
ミズイロが飛んでいくが、お前じゃない、とやんわり言われている。ということは私か?
「アルファルド君。誰呼んでるの?」
「お前だ」
私らしい。
「せっかくさっき名前つけてくれたんだから、名前で呼んでよ」
レイト、って名前をさ。ぶちぶち言いながら私はアルファルド君の方へと歩いて行き、目の前で立ち止まる。頭にミズイロを乗せているアルファルド君がすぐ目の前にいる。
「どうしたの?」
「今何処にいる」
「すぐ目の前だけど」
「そうか」
アルファルド君はそう言って器を持っている方の腕をスッと上げる。ちょうど私の真上に器が来た。それを目で追っていたら器が傾いた。バシャッ。
「………」
中のものが私の顔にびしゃあ、とかかった。
「…何すんの?」
「治らないな」
「何が?」
「お前、体全体がおかしいだろ。だからぶっかけてみたんだが」
幽霊スキルのことか。
いや、それにしてもさ。
「ちょっと酷くないっ?!女の子に水ぶっかけるなんて!」
しかもさっきカグヤさんが恐ろしくて試せない、って言ってたやつなのにっ。
「なんかあったらどうしてくれるの?!」
「…何にもなってないみたいだけどな」
やはり私の姿は見えないままらしい。アルファルド君は出任せか、と腹立てていた。
というか。
「アルファルド君。さっきの多分、私水かかってないよ」
私は自分の頭顔体を確認する。上から水をぶっかけられたのに私はどこも少しも濡れていない。
「なんか、膜っぽいものに弾かれたみたい」
そう言ったら、アルファルド君は舌打ちした。本当にガラ悪いな、この子。
私は呆れるしかない。
「レイトさん、体全体がどこか悪いのですか?」と訊ねてくるカグヤと一緒に、用がすんだ私達は記憶術で神秘の森を後にした。
アルファルド君を強制参加させたイベントは、これにて無事に終了したのだった。




