目が覚めると病院だった。
俺は、目を覚ますと病院にいた。
「え!?」
思わず驚きが口から出てくる。
俺の声に反応して、中年の男がこちらに満面の笑みを浮かべてくる。
「おう、起きたか?」
「あ、すいません。どなたか存じませんが、私はなぜ病院にいるのでしょう?」
「せやな、まず状況整理しよか。お前はどこまで覚えてんねん?」
「え?どこまで?」
「今は何年や?」
「え……2004年?」
「2026年や。」
「は?」
「お前は寝るたびに記憶をなくす障害者なんや。」
俺は思う。
こいつはどんな嘘をついてるんだ?
でも、ふと周りを見渡すと、よく分からない機械がチラホラと置いてある。
「え、手の込んだドッキリですか?」
男は無言で鏡を手渡してくる。
「見てみい。」
知らない中年が写っている。
それが自分であることを理解するのにしばらくかかった。
「俺なんですか……」
「せやで。」
「どういうことなんですか?」
「まあ、俺の口から聞くより、これ見た方がええやろな。」
男は、1冊の大学ノートを渡してくる。
タイトルが書かれている。
『プー助』『コント、海に来たのに山な人』
「こ、これは……」
俺は沈黙した。
俺しか知らないはずだ、なぜ?
「納得したか?」
「いや、確かにプー助は俺がひそかに野良犬につけた名前だし、中学のときに考えて発表すらしてないコントですよ?」
「そやろ?お前が、お前を信用させるために書いたんや。」
「そんなバカな?あなたが私から聞き出したのを、私が忘れているだけでしょ?」
「おいおい、論理が破綻しとるで。どちらにしても、お前は記憶を失っておることの証明になっとるやん。」
「……確かに。」
俺は、なぜかスッと納得した。
「まあ、詳しく読んでみい。」
俺は大学ノートをパラパラとめくる。
俺らしい淡々とした文書だった。
「なんか、障害者への気遣いに欠けた書き方ですね。」
中年の男、もとい俺の相方は吹き出す。
「なんでやねん。お前の文書やで?なんで第三者目線や!」
「そんなこと言いましてもね、書いた記憶はございません。」
「政治家かいな。」
「なら、政治家のみなさまもきっとそうなのでございましょう。記憶にございません。」
「そんな訳あるかい!」
「そんな訳ございます。」
「それがまかり通る世の中なら、お天道様が西から登るで?」
「あらぁ〜嫌だわぁ〜俺のアパート西日が差すねん。」
「だから?」
「朝日が眩しくておちおち寝てられへんやん。」
「問題そこ!?」
「それ以外に何があんねん?」
「色々ツッコミたいわ!」
「ならツッコんだらええやん。カモーン♡」
「花子姉さんやん。」
「花子姉さん?」
「ナチュラルかい!」
相方が大笑いする。
「はい、OKです。」
ドアが開いて、撮影隊が入ってくる。
「え?やっぱりドッキリですか?」
「ちゃうわ!ちょっと、ディレクターさん、今の撮れました?」
ディレクターがOKサインを指で作る。
「お前が障害者なのは本当や。」
「なら、この方々は?」
「『パッションフロンティア』の番組スタッフさんや。」
「え?あの?」
「あれ以外に何があんねん。」
「だって、あの番組、僕も大ファンですよ?」
「おう、良かったな。出られるで。」
「なんで、僕なんかが?」
「記憶障害の漫才師なんて、他におるんか?」
「おるかどうかの記憶がございません。」
相方は大笑いした。
番組スタッフも思わず笑っている。
俺だけは、何が面白いのか分からず真顔だった。
俺の真顔を見て、相方が息も吸えないほど笑っていた。




