目が覚めたらお巡りさん
「ちょっと、ちょっと、良いですか。」
俺は肩を揺さぶられて目を覚ました。
駅前のベンチで眠ってしまったらしい。
目の前には2人のお巡りさんが立っている。
「あなた、お名前は?」
「え?名前?4-6-3のショートです。」
「は?」
「え?」
「……お笑い芸人さん?」
「あ、いちおうそうです。まだ養成所なんですけど。」
「養成所?」
お巡りさん達は、訝しげに俺の事を上から下まで眺めた。
「で、本名もよろしいですかね。」
「あ、はい。本名?」
俺は本名という言葉が理解出来なかった。
頭の中にモヤがかかったみたいに、その言葉を飲み込んでいく。
「身分証か何か見せて頂けますかね?」
俺はポケットをまさぐる。
何か、中年のおじさんの写真が載っている見た事ないカードが出てきた。
俺が戸惑っていると、お巡りさんはそれを受け取って、無線で何かを確認している。
いったいどういう事なのだろう?
「はい、確認とれましたんで、マイナンバーカードはしまってくださって結構です。」
「マイナンバーカード?」
お巡りさん達は、異様な雰囲気に何か違和感を感じだしたようだ。
「ご自宅までパトカーでお送りしますか?」
「いえいえ大丈夫です。電車で帰ります。……電車?」
俺は電車という言葉が理解出来なかった。
頭の中のモヤがその言葉を飲み込んでいく。
「あれ?もしかしてあんた、森家ピーポーのポー吉さんじゃない?」
「森家?ピーポー?いえ、私は4-6-3のショートですけど?」
「やっぱりそうだ、ポー吉さんが若手の頃に2年だけ組んでたトリオが確か4-6-3だったんだよ。」
「若手の頃にって、まだ養成所ですけど?」
「え、もしかして、あれって設定じゃなかったの?」
「設定?」
「ポー吉さんが記憶障害抱えてるってやつ。」
「記憶障害?」
「……マジか。」
お巡りさん達は何か真剣に話し始めている。
一体なんだと言うのだろうか?
俺はポケットを探った。
一枚の金属プレートが出てくる。
なんだこりゃ?
『森家ピー蔵です。お手数ですが、私の携帯に電話して頂けると助かります。
090-××××-××××
プー助、コント:海に来たのに山な人』
え?
俺は驚いてフリーズする。
知らないプレートに、知らない名前、でも俺が書いたらしい。
どういうことだ?
気がつくと、お巡りさん達もプレートを覗き込んでいた。
「この番号にかけてみてもよろしいですか?」
「あ、はい。これ、誰ですかね?」
お巡りさん達は目を合わせて何かを確信しているみたいだった。
プルル
『はい!ピー蔵です!』
「あ、こちら○○駅前交番の者なんですが」
『ポー吉はどこですか!すぐ行きます!』
「駅前の公園です。」
『すぐ行きます!』
2分もしないで、1人の中年が走ってきた。
「すんません、駅の向こうをずっと探してましたんで、堪忍してください。」
「いえいえ、お疲れ様ですね。」
「相方あっての自分なんで。」
「設定ではなかったんですね。」
「ははは、よく言われますよ。さすがに信じられへんみたいですな。今度、パッションフロンティアで特集みたいな密着してもらってますんで、ぜひ見てください。」
「拝見させていただきます。」
お巡りさん達は帰っていく。
「ほな帰ろか?」
「え?誰?」
「ま、ええからええから。電車乗られへんのやろ?」
「電車、電車、電車……分からへん。」
「しゃーない、しゃーない。」
「何が!?」
俺は発狂しそうになる。
「大丈夫やって、マクドでも食べよか?好きやろ?」
「うん、好きやで、でも知らん人とは行きたないわ。」
「そっか、でももう知り合いやん?」
「そっか、確かに。森家ピー蔵さんやったっけ?」
「そやで、マクド奢ったるわ。」
「マジで?ピー蔵さんめっちゃええ先輩やん。」
「先輩ちゃうわ同期やで。」
「え?ピー蔵さん同期なん?おじさんで養成所は大変やな。脱サラか?」
「ま、そんなとこやな。」
「悩みあったら聞くで?」
「悩みなんて無いわ。マクド食べれば全部OKや。」
「気楽やなぁ〜」
「お前もな。」
「俺はダメやで、いつまでもくよくよ悩むタイプやもん。」
「大丈夫や、明日になったら忘れとるわ。」
「いや、絶対に忘れられへん。」
「ほんまか?忘れてたら1万払えよ?」
「ええで、絶対に忘れられへんねん。」
「いや、絶対に忘れとるで。」
「忘れてなかったら1万払えよ?」
「ええで、忘れてなかったら奇跡やからなんぼでも払ったるで。」
「楽しみやわ〜」
「ほんまやな〜」
マクドでビッグマックを食べた。
いつも食べる安心の味だった。




