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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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4-2.お買い物をもう一回しよう

 冒険者のギルドの受付で話を聞くに、うちの庭にある鮮度抜群、丁寧に茎の下の方からナイフで切られているカゾーラン草の傷薬は、中級と見まごう出来なのだという。見まがうだけで、中級ほどの回復量はないらしいけど。


 よく分からない。使わないから。中級の方を。初級はね、たまに使う。怪我した時とかに。カゾーラン草の葉っぱを一枚千切って口の中に放り込めばそれでいい。もしくは千切って患部に張り付けて上から水をかけてやるんでもいい。


 ありがたい事に今の所、製品を使ったことはない。


 それはそれとして、今の所薬草の類を買う必要はなさそうだと値段表を見て思う。ここに書いてある奴なら大体うちの森で揃う。というか僕がそれらを作る日はもうちょっと先の話である。



「中級の傷薬、もうちょっと作れたりしますか?」

「出来ますけど……?」



 手間は確かに初級と比べるとかかるけれど、初級と比べるとかかる、程度である。夕飯は買ってあるし、寝る前に作って寝てる間に冷ませば多分何とかなる。帰りの馬車も昼前のはずだから、最悪朝作っても行けるはずだ。



「じゃあ、もう五十本お願いします」

「そんなに売れたんですか」

「出来れば在庫を多めに取っておきたいんですよ」



 ボドワンの町と違って、バイエは大きな街だ。大きな街ってことは多分近くにダンジョンがいくつもあるんだろう。ダンジョンが近くにある場所の街が大きくなるって、師匠が言っていたっけ。


 実際ボドワンの町に沢山あるよりは、バイエの街に沢山ある方がどうにか輸送するのも楽なんじゃないのかな、って思う。


 だってほら、ボドワンからバイエ、二日かかったし。客車じゃなくて荷馬車ならもっと早いのかもしれないけれど、ちょっとそれは分からない。


 商業ギルドの人とかなら詳しいかもしれないけれど、別に確認する必要ないよね? 商業ギルドまで行かなくて、ここの受付で聞いても分かるかもしれないのか。まあそれはもっと先、なんか日付について考えないといけない仕事がきてからでいいと思う。


 師匠には来ていたから、まあいつか、僕にも来るかもしれないし。大分遠い未来の話っぽいけど。



「あと、こちらにいる間に中級を五十本納品していただくと、それで必須納品分が終わります。ボドワンに戻ってから納品していただく分が初級と中級傷薬の塗り薬だけになりますから、納品が楽になりますよ」

「それはそうですね」



 水薬はすぐ効く半面、入れてある瓶が壊れやすいのが難点だ。今はアランさんが二階から一階に運んでくれるから全然壊れずに全部納品できている。でもボドワンに帰ったら、そうはいかない訳で。



「じゃあやっぱり今のまま作った方がいいのかな?」

「そんなあなたにおすすめなのが、こちらの……すみません、ちょっとリスト拝見しますね」

「どうぞ」



 このリスト、見やすくていいんだけれど、いかんせん文字とお値段の羅列だけだから、探し物がある時は不向きなのだ。まとめてみるのにはいいんだけれど。



「ああ、あったあった。この、魔法の鞄がおすすめですね」

「魔法素材はただでさえ高いのに何をすすめてきてるんですか」



 あれか。ローンで錬金術師を縛るおつもりか。まあ、さっき色々登録したので、現住所とか色々と握られているわけだけれど。



「ああいえいえ。冒険者の方向けとは違って、錬金術師向けはそんなに大容量じゃないですし、何なら小さい方がいいので、それほどお値段はかからないんですよ」



 そう受付の人は言って、リストの値段の部分を指で指し示す。が。



「十分桁が違いますよ」



 薬草の類は数十から数百ブラーである。それを超えるお値段の薬草はここには載っていない、ともいえる。じゃあそう言うのはどうするのかと言えば多分、冒険者の皆さんに依頼することになるんだと思う。つまり時価ってやつ。


 さて気を取り直して。魔物素材を必要とするカッティングボードのお値段が2500ブラー。魔物素材のはさみが2400ブラーである。魔物素材の鍋は桁が上がって19000ブラーもする。勿論それでも大分お安いんだろうなとは思うんだけれども!


 正直カッティングボードは買って帰ることが出来る。中級傷薬をもう五十本作れれば、はさみも買って帰ることが出来る。その上で、ちょっとお小遣いも残りそう。


 鍋を買うとすると、中級傷薬の水薬を何と四百本くらい納品しなければいけなくなる。いやまあ鍋を買うと一回につき五十本は納品できるから、八回で済むのか。割とすぐ。


 で、魔法の鞄である。


 ふんだんに使われた魔物素材。何が必要なのかは知らないけれど、その辺りの牛から取れる革じゃないことは分かる。それらの魔物の素材を集めた後に、エルフの技師の手によってなんやかんやされて出来上がりである。この、エルフの技師、というのが問題で。


 まあ隣の国であるボードレールにおわす南の賢者様とその弟子たちはそれらが得意なので、この国には多少なりとも入ってくる。


 なおうちの師匠も同じエルフなのにそう言った魔法はさっぱりである。当然、その弟子である自分も、さっぱりである。師匠は錬金術師でもあるのにね。


 してお値段36000ブラー。中級傷薬の水薬換算で七百五十本である。……いけそうだな? 十五回作れば到達するな? その間の食事代とか、全部勘定に入れてないけど。



「ちなみに冒険者の皆さんが購入しようとすると、もう一つか二つ値段上がりますね」

「なんでそんなに安いんですか」

「理由の一つに、錬金術師ギルドで販売している上級傷薬ですとか、ごくまれに納品される万能薬ですとかを、超上級の冒険者の方が購入されてですね」

「ああ、師匠が作ったような奴ですね」

「そういうような奴です。それで一命をとりとめた超凄い冒険者の方が、どうすればお礼の気持ちを伝えられるかと言われた際にお願いしています」

「なにを」

「素材の納入ですね。依頼を出して購入するとすごく値が張るんですが、彼らにしてみればこの程度の魔物、朝飯前なんですよ。比喩じゃない方の」

「怖い」



 比喩じゃない方の朝飯前、とても怖い。とてもとても怖い。


 ダンジョンの奥深くにいると思うんだけれど、なんで朝ごはん食べないで狩れるの。夕ご飯の後なの。



「あと」

「え、続くんですか」

「続くんですよ。エルフの方もまあ似たような経緯でして。それでお安くお譲りできるわけです」

「それを購入するの、プレッシャーがすごくないですか」

「そうですね」



 つまりいつの日か。


 僕もそういう、超一流の人の助けになるような薬を作らなければならない、のだ。


 まあ、多分だけれど、僕と師匠の家になっているエルダートレントの切り株の、その辺の枝とか木材とかを使えば何かいい物が出来そうな気がする。エルダートレントの素材っていうのは、そういうものだ。



「まあでも発注だけしておくといいと思いますよ。ケロールの森から壊さずに納品するの、難しいでしょう?」

「そう言われると頑張るしかなくなりますよね」

「こちらとしても、そのために傷薬を定期納品していただけると、助かりますので」

「あ、返済期限的なものってあるんですか?」

「基本はあまりないですね」

「あまり」

「流石に商品を受取るだけ受取って、傷薬などの納品がない場合には取り立てに行きますよ」

「あ、じゃあ、納品分の半分は現金でください、とかも可能なんですね」

「問題ないですね」



 ちなみに一番多いのは、ここで必要分を稼いでから自宅に帰ることらしい。


 初級はカゾーラン草が十束20ブラー。一束で五十本納品できるから。計五百本。12000ブラーになる。


 中級はボーセン草が十束25ブラー、カディオ草が十束30ブラーの計55ブラーで、こちらも五百本納入で、24000ブラー。鍋の代金は余裕だし、鞄代にも手が届きそう。


 問題は何日かかるかだけれど、まあ、それも宿代タダだそうだし。



「で、どうされます」

「よろしくお願いします」

「ありがとうございます」



 カウンター越しに、互いに頭を下げる。


 まああって困らないしね。


 鞄は明日、ギルドを出る時に手渡し。鍋はボドワンのギルドに送ってくれるそうだ。一緒に馬車に乗って帰らなくて済んで何より。まあ、ボドワンのギルドから、僕の家に運ぶまでの手配も必要になるけれど。



「鞄に入りませんよね?」

「入らないですね」



 魔法の鞄は、その程度の大きさらしい。

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