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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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2-2.ギルドの工房で水薬を作ろう

 バイエの錬金術師のギルドの、二階にある工房で、僕は今初級傷薬の水薬を作っている。ポーションともいう。


 草を切ってすりつぶして粉にする過程さえ苦じゃなければ、誰だってできる簡単お手軽水薬だ。水だって井戸水だって雨水だってよだれだってなんだっていい。よだれは、結構な量を使うからおすすめしないけれど、自分の口の中で合成する分にはそれでも何とかなる、ってだけの話だし。


 後は漏斗を使って、釜一杯分にまで増えた水薬を薬瓶に移し替えたら、これで初級傷薬の水薬は完成。釜一つ分で、全部で五十本くらいできたから、多分、足りる、はず。足りなかったら、また作ればいい。



「大きい釜はいいなあ」



 家にあるのは釜というよりは手鍋だ。だからどれだけ草があってもせいぜい五本分にしかならない。草ならちょっとあっちの方へ行けばあるから、問題は鍋なんだよね。あ、そうか、買って帰るってのもありか。買えるかどうかは知らないけれど。


 それも後で見てみよう。


 お次は中級傷薬の水薬だ。初級は草全体を使うけれど、中級は部位を使う。まずはボーセンという草の茎。花とか葉っぱとか、それから根っこは全部捨てる。他の薬になるから勿体ないなって思うけど、まあ素材を取っておいてとは言われてないし、持って帰るのも大変だし捨ててしまう。ゴミ箱も、部屋に備え付けだ。それからカディオって草の根っこ。まあ、とりあえず一束ずつでいいだろう。一束ずつ結んであるってことは、そういう事なんだと思う。多分。


 それから中級傷薬の水薬は、適当な水じゃダメだ。井戸水でもいいんだけれど、ろ過したり沸騰させたりをして蒸留水にしないといけない。まあ、今日は魔法で出した水だから、その工程はいらないんだけれど。


 という訳でボーセンの茎を切って切って切って、それからすり潰してすり潰してすり潰して粉にする。さっきカゾーラン草をすりつぶした時に軽く洗って水拭きしてあるから、粉は混ざらないはずだ。


 機材棚を見たら、他にもすり鉢とすり棒はあったから、カディオの根っこは、別のすり鉢とすり棒を使ってすり潰す。



「火よ。火よ。水がお湯になるくらいの強さで、燃え盛れ」



 師匠はなんかもうちょっと格好いい呪文だったんだけど、自分はこの方がちょうどいい温度になるのでこうしている。


 水がお湯になる前に、ボーセンの茎の粉を釜に入れる。それから沸騰するまで混ぜる。水がお湯になったら今度はカディオの根っこの粉を釜に入れて、混ぜる。



「火よ。火よ。消えろ」



 火を消したら釜にふたをして、冷めるのを待つ。その間に、そうだ。さっき作った初級傷薬の水薬を売りに行こう。それから、なんか食べるものを買いたい。まだ夕方には早いかもしれないけれど、お昼よりは夕方に近いはずだ。お腹空いていたのを思い出した。なんでお腹すくんだろうね。


 初級傷薬の薬五十本を、元々入っていた箱へと詰め直す。元々薬瓶の入っていた箱だから、薬瓶立ても箱の中に入っていてありがたい。これをこのままそっと運べば、こぼれる心配も壊れる心配もない、ということなのだろう。


 丁寧に五十本の薬瓶を箱に詰めて、箱を持ち上げようとして、諦める。無理だ。僕はこれを持ち運べない。階段下りだし。


 一本だけ薬瓶を抜き取って、部屋を出る。木製の部屋の鍵は、内側からのみかけるタイプで、外側からはかけられない。だから魔法の鍵で、外からも鍵をかける。



「鍵よ鍵。いいというまで誰も入れないで」



 かちゃん、と、ドアの向こう側の木製の鍵がかかる音がした。これでよし。


 なけなしのほぼ全財産が入ったカバンと、それから一本だけの薬瓶を持って、受付へ。誰もいない。



「すみませーん」

「はーい」



 受付から見て左奥、衝立の向こう側から声がした。さっきの受付の人が、顔を出して、それからカウンターへと来てくれる。あれ、人がめちゃくちゃいないな? さっきはもうちょっといたよね?



「どうされました? ああすみません、今交代で休憩を取っていまして」

「ああそうなんですね。ええと、とりあえず初級傷薬の水薬は作ったんですけど」

「あ、助かります」



 とりあえず、持ってきた一本を渡す。



「重くて……運べなくて……とりあえず、これを見本として……」

「ああ、まだ成人したてですもんね。何本くらい作れましたか?」

「五十本ほど」

「とても助かります。アラーーン!」

「どうした?」

「思いの外近くにいたな。上の工房からポーション運ぶの手伝ってくれ」

「あいよ」



 受付の人が大きな声を出したけれど、階段の側になんか積んである箱の側から、ひょいとでっかい人がやってきた。少し黒めの肌に、虹彩が縦に割れているから、獣人族の方だろう。なんだろう。熊とかかな。



「一応鍵かけてきたので、一緒に行きますね」

「運んでも?」

「はい?」



 アランと呼ばれたでっかい人の、自分は腰ほどまでしか背がない。なるほど、歩くスピードが違うのだな、と思った矢先に抱えられてしまった。おお。視線が! 高い!


 とても背が高いのに、足音はどすどすではない。というか、足音がしない。熊じゃないのかな。いや、獣人の種族なんて熊ってのがいる、くらいしか知らないだけだけど。ボドワンの町の冒険者のギルドで話題に出ていたのを小耳にはさんだだけだ。それを話し合ていた人達も多分獣人族さんだと思うんだけど、種族は分からない。


 階段を登った先にある工房六部屋の内、僕が使っている真ん中の部屋、それから斜め向かい奥側の部屋が使用中になっていた。誰か増えてる。



「真ん中の部屋です」

「そうか」



 下ろしてくれたので、魔法の鍵でドアをノックする。本当に鍵でとんとんすると、手が当たるしドアが痛むから、そういう動きをする、ってだけだ。鍵の先を当てて、ひねる動作でもいいらしいけれど、僕はノック方式が使いやすい。



「もういいよ」



 かちゃって音がして、鍵が開いた。


 ドアを開けて工房の中に入って、机の上に置いてある初級傷薬の水薬が入った箱を指し示す。



「分かった。貰っていくな」

「はい」

「お前も行くのか? 中級作ってる途中だろう? 金はそこでまとめてだと思うが」

「お腹が……空きまして……」

「ああそれなら、購買で取り扱いがある。そっちにしておけ」

「ありがとうございます。購買なんでも売ってますね!」

「まあ、概ね職員のための購買だからな」

「ほう」



 アランさんと一緒に階段を下りたら絶対に邪魔になってしまうので、アランさんが階段を下り切るのを、階段の上で待つ。まあそれでもアランさんはでっかいから、会話に問題はない。


 箱を抱えてアランさんが受付に行くのを見送って、一応念のため、工房にまた鍵をかけておく。



「鍵よ鍵。いいというまで、誰も入れないで」



 軽く鍵をかけて、階段を駆け下りる。向かう先は、購買である。


 だってさっき! 初級傷薬の水薬が十本まとめて納品できたから! 軍資金はあるんだ!!



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