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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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2-1.ギルドの工房で水薬を作ろう

 受付の人が立ちあがって、階段へと案内してくれる。そのついでに、ギルド内部の案内もしてくれるらしい。



「あちらには、購買があります。本日はこちらからの依頼ですので、材料はご提供しますが、良かったら帰りに購買も覗いてください」

「え、材料頂けるんですか?」

「通常は材料費も錬金術師持ちでの買取価格ですけどね。今はちょっと、在庫に余裕がなくて」

「なんかありましたっけ」

「無いですよ、タイミングです」



 傷の水薬は、ばしゃっと振りかけたり飲んだりしたら、割とすぐに傷が治る優れものだ。膝をすりむいたりしたくらいなら、カゾーラン草を指で揉んで唾を付けて患部に貼ればそれでいい。冒険者の場合、ちょっとした怪我くらいなら初級でいい。中級は、もっとヤバい奴だそうだ。どんな怪我かは知らない。基本は飲まないで、患部にかけて、傷がふさがるまでじっとうずくまってることが多いと冒険者のギルドの方で聞いた。ひぇって声が思わず出たら、酔っぱらい達に笑われた。からかわれたのか、それともさっきの、戦えないから錬金術師は保護するべき、の方にかかるのか。


 怖いから、聞かない。そう言って耳をそっと塞いだら、もっと笑っていたので、からかわれた方だったのかもしれない。それなら別にそれでいい。あの腕に着いてる傷程度なら、初級で治るとかって聞いたし。でもその割に、中級売れるんだよね。


 上級、今手元にあるようなレシピブックには載っていないような奴だと、切れた腕くらいならくっつくって師匠に聞いた。すごいよね。腕が切れて取れちゃうのも凄いし、その後上級傷薬の水薬をぶっかければ治るってのも凄いし、それを冷静につなげ直しちゃうのも凄いと思う。


 その分、材料も凄い事になってるんだけれど。まず素材の入手が出来ないから、レシピブックには基本的に載らない。こいつの納品実績を持ってギルド内でのランクアップとかしたら、誰も彼もがランクが上がらなくなってしまう。


 ダンジョン産のアイテムが、ほとんどなので。


 ダンジョンの外で集められるアイテムで作るようなのだと、中級が精々かな。だから、このレシピブックは、錬金術師が求められることのほぼすべてが書いてあるといっても過言ではない。この先は、もはや進むか進まないかは趣味の世界、もしくは、お住まいの地域次第、ということになる。


 もちろん師匠みたいに百年以上錬金術師をやっているようなエルフだと、初級傷薬の水薬のレシピで上級傷薬の水薬作っちゃうんだけど。あれはあれであんまり再現性がないらしい。


 まずはエルフを用意します、ってところからスタートなので。



「丁度、いくつもの冒険者パーティがダンジョンの奥深くから戻ってきたらしくて。そうなると使ったポーションをあいつらがんがん補充するんですよねえ」

「あー、なるほど」



 階段を登った先の廊下には、六つの扉。すべてが開け放たれている。この部屋がすべて、工房になっているのだろう。



「ええと」



 受付の人が近くの部屋を覗く。顔を出す、向かいの部屋を覗く。顔を出して、歩く。何を確認しているのかは分からないけれど、三つ目の部屋、真ん中の部屋に入って、手だけ出して僕を手招きした。



「この部屋を使って下さい。作業をするときは、戸を閉めて、出来上がった分だけ下の受付に持ってきてください」

「はい」



 受付の人の横から、部屋を覗く。机に椅子、それから素材棚。水瓶は床に置かれ、煮炊きをする釜は簡易のかまどの上だ。



「魔法の鍵は使えますよね?」

「使えます」



 この部屋にある水瓶にも釜にも、魔法の鍵はついていない。自分の魔法の鍵から、水を出したりする必要がある。師匠が教えてくれたからできるけど。ありがとう師匠。魔法嫌いとか言ってごめん師匠。


 素材棚にある物は自由に使っていいとだけ言って、ひらひらと手を振って受付の人は帰っていった。だから自分も、ひらひらと手を振って見送った。こういうの、なんか、いい。何が、って、言葉には出来ないんだけど。


 部屋に入ったら斜めがけの鞄をまずは床において、首からかけてきていた魔法の鍵を引っ張り出す。ああ、その前に扉を閉めて。内側から鍵がかかるようになっているからそれをかける。木製の鍵だから、その気になれば壊せるだろうけれど、必要なのは使ってますよ、って合図だけなんだろうなと思う。


 後まあ、どうしても入られたくなかったら、魔法で鍵を追加すればいいだけだから、ここは木製でいいよね。確かにね。



「水よ。水よ。瓶にちょうどいいだけ湧き出ろ」



 木製の魔法の鍵をひねって、呪文を唱える。簡単な魔法は、簡単な呪文で使えるからありがたい。師匠みたいなちゃんとした魔法使いは、魔術書があって、そこになんか凄い長い文章を書き込んで、それを鍵を使って簡易に? 呼び出す? とか言っていた。僕は魔法使いにはまだなってないので、分からないけれど。


 ゆっくりと、水瓶の底の方から水が湧いて出る。初級傷薬の水薬にしろ中級傷薬の水薬にしろ、水は沢山使うから、これはこれで良し。余ったら飲んでもいいしね。


 水瓶に水をためている間に、素材棚を確認する。カゾーラン草を、とりあえず一束出して、刻む前に薬瓶を探しておく。素材棚の下の段に、まとめて箱詰めされて置いてあった。とりあえず一箱口を開けて、何本入ってるか確認をして。ええと、ナイフかはさみは。


 素材棚の隣に機材棚があって、そこにおいてあったカッティングシートを机に敷く。あー、これ、魔物素材を錬金術で作ったやつだ。高いんだよなー。


 はさみ、これも魔物素材のヤツで、どこで買えるんだろう。後で購買見に行ってみないと。帰る前よりは、ここに泊まるんだし、寝る前の方がいいかな。それだとしまっちゃうかな。夕方のがいいかな。


 はさみでざくざくカゾーラン草を切る。この時小さく切れば伐るほど後で粉にする時に楽になる。機材棚にあった乳鉢とすり棒で切ったカゾーラン草をすりつぶすのだ。


 綺麗に粉になったところで、溜まった水瓶から、これもまた機材棚から見つけたひしゃくで水を一杯、釜に入れる。粉になったカゾーラン草を釜に入れて、後は混ぜ棒でひたすら混ぜる。混ぜる。混ぜる。水を入れる。混ぜる。


 粉が完全に溶けたら出来上がりだ。つまり粉が完全に水に溶けるまでは、水を適宜足して混ぜ続ける必要がある。


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