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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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1-2. アルバンは錬金術師になった

 バイエの錬金術師のギルドで、説明を聞く。


 ちなみにボドワンの町の錬金術師のギルドで求められるのは、この傷薬のレシピブックを作れる程度の錬金術師だ。もっと上は特に求めていないのは知っている。



「念のため確認しますが、お師匠様と同じように金の派閥でよろしいですか」

「そうなります」

「万能薬に鞍替えしません?」

「定期的に納品するので、そこは見逃していただけると」

「ポーションを定期納品していただけるなら、研究は認めましょう」

「よかった」



 錬金術師は、二つの派閥に分かれている。水薬の作成を中心とする、万能薬の研究者と、錬金術の本懐、黄金を求める賢者の石の研究者だ。ちなみに一番多いのは冒険者向けの薬作成者で、研究者は一握りだ。うちの師匠は、その一握りの中のさらに一つまみに該当する。親指と人差し指だけでいい。


 ちなみに万能薬も賢者の石も、すでに作成は出来ている。って師匠に聞いた。万能薬に関しては世界樹の葉を使ったものと、世界樹の枝を使ったものと、世界樹の種を使ったものが論文として提出されている。再現性を確認できていないので通っていない。まず世界樹の葉っぱと枝と種を入手するのが高難易度だし、何ならこれらを口に含んで奥歯ですりつぶすだけで多分万能薬になる。


 後はユニコーンのたてがみと尻尾を使った論文も提出されている。この論文、物語として面白いのでお勧めされた。ユニコーンの乙女を嫁に貰った研究者が、妻と双子の娘を通してユニコーンに角が欲しいと伝えて



「じゃあ旦那の心臓をよこせ」



 と返されて終わったかと思いきや、妻と娘を通してやり取りが続くのである。ちなみにユニコーンの角は生え変わるそうだけれど、なんでお前にやらなければならないのかと怒られたそうだ。それはそう。なんかもう、そうやって突っ込みながら読むのに楽しい論文だった。いやあれ論文でいいのかな。物語の類じゃない?


 ユニコーンの乙女に対する謎について踏み込んでいてこれは別種の論文なのではと思わせながらも、何とかたてがみと尻尾の毛を譲ってもらうことに成功し、これを使って万能薬を作成している。


 これもまた、再現性がないので、却下になってしまっている。そりゃそうだ。まずユニコーンと関係性を作るのが難しい。


 賢者の石だって似たようなものだという。ある特定の鉱物系モンスターからドロップする石を用いたものが一般的だけれど、そもそもドロップしない。再現性はあるんだけれど、入手難易度が高いうえに、大体こっちに回ってくる前に鍛冶師に回ってしまうので、論文として認められなかった。


 そもそも論としてそんな高価な賢者の石は認められないわけだ。もっと簡単に、お安く、金を鋳造したいわけである。彼等は。


 まあ、最初の賢者の石は高価でも、その後は安易に金が作れればいいんじゃないか? という一派ももちろんいる。研究頑張ってもらいたい。



「あ、この最初の傷薬の納品って、今できたりします?」

「持って来られてるんですね?」

「はい」



 斜めがけの鞄から、小瓶を十本ばかり出して渡す。


 受付の職員さんはそれを灯りにかざして、振って、品質の確認だ。


 そもそも初級の傷薬は、カゾーランという名前の薬草を水で洗って乾かして、刻んで潰して粉にして、水に完全に溶かせば出来上がるのだ。何なら転がった状態で口に含んで、奥歯ですりつぶしたって傷薬が完成するレベル。ちゃんと師匠がいる僕みたいな錬金術師なら、出来ない方がおかしいまである。



「はい。確認しました。一本24ブラーで、計十本。240ブラーでの買取になります」

「やった、帰りの交通費……!」



 食事代と帰りの交通費になってくれるだろうから、とてもありがたい。持ってきてよかった。



「念のため確認しますが、お師匠様が作った方じゃないですね?」

「まさかあの人が初級作れるわけないじゃないですか」

「ああそうか、そっちの問題があったか」



 師匠、つまり弟子を取れるくらい錬金術の神秘に詳しくなると、初級の傷薬、カゾーラン草と裏の井戸水を使った薬ですら上級の傷薬と同じくらいの効果を叩きだすのだ。神秘凄い。



「本日お時間ありますか?」

「はい。帰りの乗合馬車は明日の昼前の出発だそうなので、あ、宿安いところ教えていただけると助かります」



 そう。


 宿についてはギルドで聞くものなのだと、ボドワンの冒険者たちが言っていた。それが錬金術師のギルドにも適応されるかどうかは分からないけれど。聞くだけは無料の範囲のはずだ。ちなみにボドワンの錬金術師のギルドに所属している人たちは皆、お家はある。宿になんて泊まらないので、その質問はしても多分返事はないか、隣の冒険者のギルドの人を呼ばれると思う。


 バイエの街に着いたのが昼前で、あれからさほど時間は経っていないと思うので、まだ昼前後だろう。だから宿さえ案内して貰えれば、まあ夜まで暇である。



「宿なら、ギルドの二階と三階が解放されていますので、そちらをご利用ください。無料になります」

「そうなんですか?!」

「錬金術師は数が少ないのと、基本的に戦う能力を持っていないので、ギルドで保護することになっています」



 何それ怖い。


 なんか怖いこと言われたんですけど。何と戦えというの。隣のギルドの荒くれどもなの。



「というのは表向きの理由でして」

「表向き?」

「はい。三階が宿泊施設で、二階が工房になっています。バイエに居住されていない方は、工房を開放していますので、そちらをご利用いただいています」



 なるほど。と、頷いておく。


 受付でもらったレシピブックは薄く、知っている自分にとっては必要なことは載っている印象だけれど、師匠もいないで知らないと本当にこれでいいのかって思うよね。特に初級傷薬の水薬。カゾーラン草と水だけだからね。火で熱したりすらしない。


 初級扱いのレシピブックに後載っているのは、中級傷薬の水薬と初級と中級傷薬の塗薬だ。計四つ。まあ、これが作れれば生活には困らないかな。需要あるのこの四つだし。



「全部作れますけど、どれ作りますか?」



 中級傷薬の水薬は納品が百。初級傷薬の塗り薬は納品が十五。中級傷薬の塗り薬は納品が五十だ。



「じゃあポーションを、作れるだけ。初級が24ブラー、中級が28ブラーでの買取になりますし、納品実績にもなります」



 ご案内しますね、と、受付の人が立って階段に向かう。


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