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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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22-2.毒消しを作る準備をしよう

 テーブルの上にいそいそと新しく買ったカッティングボードを置いて、茎根を置く。



「なにをするんだい」

「毒消しを作るために、オーバンの根っこを切ります」

「薄切りと角切り、どっちにするの?」

「今回は薄切りかなあって」



 角切りの場合は半分量になるまで煮詰める必要があって、薄切りの方だと日干しした後に水につける、という工程がある。両方やってどう違うのか試してみたい、という気持ちもあるけどさ。


 そのことを師匠に伝えたら、分かっているのならやってよい、と言われた。切り方によってその後の作業が違うのは、ちゃんと意味があることなんだろう。



「そういえば師匠」

「なあに?」

「オーバンもそうですけど、採取の時期について書いてある本がありまして」

「そうだね。他の場所ならそうだ」

「あ、やっぱり森だと気にしなくていいんですか?」



 うん、と師匠は頷いた。



「ケロールの森はダンジョンだからね。ダンジョン内にはあまり、四季という概念がないんだ」



 ケロールの森はフィールドダンジョン型、というらしい。一応森の外と同じ季節感ではあるけれど、雪が降ったり夏も凄い暑くなったりはしない。言われてみればそうかもしれない。


 雪は単純に分からないけれど、暑くないのは木陰があちこちにあるからだと思っていた。森なので。



「完全にない訳じゃないけれど、もっと緩やかでね。カゾーラン草なんかは、ここでは多年草だし」

「やっぱり不思議ですよね」

「まあそれだけで、狙われる可能性もあるんだよ」

「言ってくれれば普通にお譲りするのに」

「奪い取るのが楽しいって人達もいるからね」



 そういう人たちと仲良くなれる気はしないけれど、そういう人たちがいることは覚えておこうと思った。まあ、一応フィールドダンジョンなので、冒険者はケロールの森に入っちゃいけない訳じゃない。僕たちが勝手にここで暮らしているだけだ。


 でもやっぱり、誰かの手が入っていそうな薬草を持って行くのは、駄目だと思うんだよね。


 さて毒消しを作るのに必要なのは、あとはアキャール草とドロールである。


 アキャール草は、水辺に生える草だそうである。つまりこの広場にある花壇にはない。


 以前広場の近くに、師匠は池を作った。


 ここは森である。森であるってことは地下に水がある。ちなみに森の中に他の池もある。湖というよりは小さい。のが、三つくらいある。雨の後だと、たまに増えたりする。水たまりより大きい奴が。


 師匠が作った池と、元から森にあった池を師匠が川でつないだ。土魔法と水魔法で作ったのである。魔法で湧水作れるの凄いよね。ちなみに師匠がすごいから作れた、という訳らしい。


 アキャール草も必要なのは茎根なので、スコップとバケツを持ってその池の側へと行く。池の周りにはたまに、他の動物だったりモンスターだったりがいるけれど、僕の気配を察するとみんな逃げていく。まあ怖いよね。森の主が近づいてくるんだもんね。


 お水飲んでるときにね。


 申し訳ないな、と思わなくはないけれど、まあ向こうが逃げるのであれば僕はわざわざ追わないことにしている。いや用事ないし。多分、あのモンスターの何かが必要ってことにはならないと思うし。


 なったらその時考える所存である。師匠を見ている限り、この森のモンスターは錬金術で必要な素材にはならなさそうではある。


 なるなら楽なんだけどね。


 アキャール草は池の周りじゃなくて、池と別の池を繋ぐ川べりの方にあった。どう違うのか僕には分からないけれど、まあそこがいいならそれでいい。どっちも湿地寄りだと思うんだけどな。


 アキャール草の茎根は、先っぽにひげが生えている。このひげはいらないのでぶちぶちとスコップで千切る。アキャール草は地下茎でつながっていて、どこまで掘るかを少し考えてしまった。まあバケツに半分くらい掘るんだけど。


 アキャール草の葉っぱと茎は少し甘くて、錬金術で砂糖が作れるらしい。図鑑に書いてあった。ちょっと後で師匠に聞いてみよう。多分、沢山は作れないんだろうなと思うし。作れるんなら作ってみたい。しばらく毒消し用の薬作るし。


 アキャール草もバケツに半分くらいとったところで、井戸で洗う。すぐそこに池があるからそこで洗ってもよかったんだけれど、僕がいつまでもそこにいるのは、森に住んでいて、いつも池を使っている動物たちとモンスターたちに悪い気がするから、必要分取ったら撤退である。ちゃんと土は戻しておいた。


 ざぶざぶとバケツの中で洗って、水が茶色くならなくなったら洗い終わりだ。そうしたら丁寧にひげ根と茎から上を取る。


 新しいカッティングボード、買って正解だったと思う。やっぱり次はナイフ買おうかな。まあ、魔法の鞄とお鍋のローン祓い終わってからだけど。



「ええと、雨露のかからないところで陰干し」

「ドアを開けて、そこに吊るしておけばいいよ」



 この家は僕の外側を使って作っている都合上、庇、というものがない。後付けしてもいいんだろうけれど、作りづらかったんだと思う。



「はーい」



 けれど陰干し自体は師匠もしていただろうから、どうすればいいのかと教えて貰える。だからそれに従って、僕はアキャール草の入った干し籠をドアに引っ掛ける。


 なんか上のいい位置にフックがあるな、とは思っていたんだ。何のためにあるんだろう、と、ちょっと考えてもいたんだ。これか。



「あ、そうだ師匠」

「なんだい」

「アキャール草の、お砂糖なんですけど」

「あーうん」



 反応が悪い。


 まあ、お砂糖について聞いた時、アキャール草については話に出なかった。そして師匠はアキャール草を知っている。ということはまあ、そういうことなのだろう。


 でももったいないじゃん。やってみたいじゃない。



「美味しくない? 沢山出来ない?」

「沢山出来ない」

「あ、じゃあ、毒消し作るついでに余った部分で作って自分で消費するだけなら、まあ問題ないんですね」

「問題ないというか、手間の割に本当に少量だからね。いやアルバンが一回やってみたい、というのは止めないけれど」



 なるほど、二回やる気にはならない程度、ということか。



「あと毒消しに必要な素材はなに?」

「ドロールですね」

「分かった、その間に本を取ってきておくよ」

「ありがとうございます」



 しかし本には記載があるらしい。


 あ、もしかして錬金術の本の方じゃなくて料理の本の方かな。まあ、いいか。


 アキャール草自体は、川べりに生えている、って記載だけだし、錬金術師向けじゃなくて料理の本に載っている可能性もあるわけで。それならそれでやってみるのは悪い事ではないはずだ。


 やってみないとね、二回目はいいかな、ともならないだろうしね。もったいないしね、根っこ以外の部分。


 という訳で気を取り直してドロールである。


 ドロールは井戸の近くにいっぱい生えている。ちょっと独特のつんとした匂いがあるけれど、そういう匂いのある草は他にもいっぱいあるので気にはならない。


 状態異常回復ポーションでは、ドロールは全部に使う。毒消しと気付け薬が葉っぱを使って、眠気覚ましと目薬が根っこ、麻痺直しが茎を使う。だからドロールは、根っこからまとめてバケツに入れる。


 そのまますぐそこの井戸で洗えばいいから移動時間は少なくて済む。


 全部まとめて干し籠に入れて、これもドアの所に引っ掛ける。乾いたら、今度はお日様の下に干して、それからドアに戻して陰干し。まあ手間はかかるけれど、それほどでもない。


 よしそれじゃあ、初級傷薬のポーションを作って、ボドワンの町に行こう。



「その前に食事にしなさい」



 料理の本を片手に上の階から降りてきた師匠にそう言われてしまった。確かに今から初級傷薬のポーションを作ってボドワンに行ったら、ご飯を食べるのを忘れそうである。


GW中に一文字も書けてないからここまでだよ。

更新の再開をお待ちください。

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