22-1.毒消しを作る準備をしよう
毒消しの瓶はまだ手元にない。手元にあるのは傷薬のポーションの瓶だ。五十本。作るべきは初級だろうか。中級だろうか。
多分初級なんだろうな。初級の方が良く売れるって言っていたし。
初級傷薬のポーションで使うカゾーラン草は、全部、である。葉っぱとか茎とか関係なく、根っこになる上の部分で切って使う。
ちなみにこの間切り取ったカゾーラン草は、あそこからにょきにょきと生えた。まだ葉っぱは生えていないけれど、茎はそこそこ伸びている。
生命力が強い種類なんだろうね。だから傷薬とかに使われているんだろう。
毒消しに使うカゾーラン草は、葉っぱだけを使う。茎は使わない。そして今僕の手元にある本によると、カゾーラン草の茎を使う調合はない。とても残念だ。
残念だけれど、初級や中級傷薬のポーションで使う用の瓶に混ぜてしまってもいいんじゃないかな。多分、ちょっとくらい茎が多くても、回復量に差は出ないと思う。多分。
話を戻して、なんで毒消しにカゾーラン草を使うのか、というと、毒を浴びた時に怪我を負っている可能性が高いから、だそうだ。だから毒消しは患部にかけることを推奨していた。
飲み薬じゃないんだ。
傷薬用のカゾーラン草を初級と中級傷薬のポーション分、計二束分摘んで、それから毒消し用のカゾーラン草も摘む。同じように、根っこの上の所で切り取る。井戸の水で洗って、居間に干したらしばらく休憩だ。
毒消し用の薬草を摘んでおこうと思うので、錬金術師のギルドで貰ったレシピブックを開く。このレシピブックには、使う薬草の名前しか書いていない。どんな姿なのかとか書いておいて欲しい。師匠から借りている状態異常回復ポーションの本には、その薬草の姿が書いてあるのもある。
まあ僕個人は師匠から聞いて大体の名前と姿かたちが分かるんだけれど。だから庭のどこにどれがあるのかはわかるんだけれど。
名前だけ知っていて、他は知らない薬草の多いこと多い事。
ちなみにカゾーラン草は茎が赤い。葉っぱも、茎寄りの内側はちょっと赤味がかっている。それから、葉っぱの先端に向かって緑が強い。
春の終わりごろに花が咲いて、花が咲くと薬草として使えなくなる、と図鑑には書いてあった。不思議なことに、このケロールの森の、僕の家の庭にあるカゾーラン草は通年で使える。というより花が咲かない。
もしかしたら茎から切って使うのも、この庭だけなのではないかとすら思う。師匠なにしたの。それともこの森がおかしいの。
この森がおかしい気がする。ほら一応、ダンジョンなので。
「カゾーラン草の粉、売れないかな」
別にお金に困っているわけではないので、実際に売るつもりはない。実際に売るつもりはないけれど、春以降は需要がありそうだなと思う。
粉にするのちょっと面倒くさいから、あんまりやりたくないんだけれど。
ああでももしかしたら、そういうことをしている錬金術師の卵たちもいるかもしれない。一年分のカゾーラン草を粉にする仕事を乗り越えれば、他の草を粉にする仕事も手慣れはしそうだ。
僕はしたくないけど。
そんなカゾーラン草の粉は、ちょっと赤い。気がする。気がするだけで、そんなに赤味がかってはいないのかもしれない。いかんせん茎の部分だけなので、赤いの。葉っぱは緑だから、そっちの方がどうしても多くなるしね。
なんてことを考えながら、毒消しで使う他の材料も取りに行く。
まずはオーバンの茎根。根っこの太い部分。師匠によると、植物の中でも茎が地上に伸びるのと、地下に伸びるのがあるんだって。で、茎根っていうのは茎が地下に伸びた部分。どういうことなの。多分僕に茎根はなかったんだろう。分からないってことはきっとそう。
さてオーバンは草じゃない。樹木だ。だからカゾーラン草とは別の場所にある。家の裏の方だ。図鑑によると丸い葉っぱがついて、春に黄緑色の花が咲く。あれ花だったんだ。僕はなんかの葉っぱだと思っていた。実は秋から冬にかけて出来るという。
葉っぱも根っこも茎も花も実も全部何かの薬になるらしい。すごい木だ。多分、錬金術師の家には植わってるんじゃないだろうか。
「ええと」
ヒゲみたいになっている根っこを掘り出す。図鑑によれば秋に掘り起こしておいて、よく乾燥させて取っておくらしい。今は秋じゃない。実がなってないから。
ということは掘っちゃダメなのかな、とか考えるけれど。カゾーラン草の例もあるし、あんまり気にしないことにして、スコップでオーバンの木の根っこを掘る。どれくらい必要なのか分からないので、ちょっと多めに。余ったら瓶に入れて取っておけばいいのだし。そうだ、それ用の瓶も買って来よう。
家にない訳ではないのだけれど、あれは師匠が以前に買ったもので、師匠が使うものが入っている。今の僕は使わないものだ。上級傷薬とか、上級のなんとかを作る際に使うような奴。
普通の、という表現があってるのかは分からないけれど、錬金術師の家にあるようなものは多分、師匠が買っていると思うのだけれど。いかんせん師匠は錬金術師よりは魔法使いだ。本人の気分的に。
師匠は僕も魔法使いにしようとしたのだけれど僕は魔法があまり得意じゃない。
「エルダートレントだったのにね」
と師匠は言ってたけれど多分、僕は動かないタイプのエルダートレントだったからでは、と思っている。自発的に魔法を使う機会に恵まれなかった。
だから、魔法の効率とかがよく分からないまま今に至っているのではないかと。その代わり、樹木のことはなんとなくわかるので、なんとなく錬金術師が出来ている。
なんとなくでやる事ではないらしいけれどまあ、出来ているのだからして。
さて。
そうはいっても前の秋の間にオーバンの根っこを掘ってはいなかったので、今掘るのである。掘ってなかったのだから仕方がない。今度その辺りを調べて季節ごとにやってみた方がいいのかどうか、師匠に聞いてみよう。師匠が旅に出る前に。
オーバンの根っこはバケツに一杯までは取らない。
毒消しの作り方はこれまでとは違う。傷薬はまとめて煮詰めたり煎じたりしたけれど、毒消しは一つずつ作業する必要があるのだ。だからまあ今日はそれぞれの採取が精々だよね。そもそも毒消しの瓶、まだ貰ってないし。
それから、作業したものを仕舞っておくための瓶を買いに行く必要が出来た気もするし。
掘り起こしたオーバンの根っこも、井戸水できれいに洗う。根っこだからね、どうしても土がついてる。茎の部分はそれほどでもないけれど、まとめて洗っておく。一つずつ洗う方が大変じゃん、というそういう。
「ええと、これはそのまま干さないのか」
という訳でカッティングボードさんの出番である。しかしこの切り方、レシピブックには載っていなかった。師匠から借りた本に載っていたので、多分これは流派に寄るんじゃないかと思う。
こっちの、カユザクさんという著者の本の方では細かく切って、だし、こっちのシャブランさんと言う著者の本の方では薄切りにして、である。
多分どっちが正しいとか無いんだろうな。どっちでもちゃんと効能が出るんだろう。多分。




