20-3.ボドワンのカフェでお昼ご飯を食べよう
ランチメニューのリストには、何か名前とお値段が書かれている。それは分かる。ちょっとの説明もあるけれど、僕にはさっぱり分からない。
「ここに書いてあるのがメニュー名で、こっちが値段だ。そこまでは分かるな?」
「なんとか」
そんな気はしていたので、そこまでは分かる。分かるだけだけど。値段もそんなに高くはない50ブラーと52ブラーと、54ブラー、56ブラーのメニューだ。
「でこっちの、四角く囲ってある方が、飲み物」
こっちには値段は書いてない。飲み物も含めての値段なんだろう。そこまでは分かるんだ。
「どうされましたか」
今度声を掛けてくれたのは、席に案内してくれたのとは別の店員さんだ。せっかく他のお客様と離れた席に案内したのに、他のお客様と話していたらそりゃ気になるだろう。なんか申し訳ないんですけれど助けて。
「メニューが、分からなくて」
「多分外食初めてだろうからな」
「普段は何を食べておられますか?」
「サンドウィッチを」
僕はエルフである。
このボドワンの町の隣にある、ケロールの森で産まれたエルフである。だからこの町の人たちは、僕や師匠の知り合いでなくても、僕を知っているだろう。
いいんだけど、それは、別に。
「大変申し訳ございません。ランチメニューにサンドウィッチはなくてですね」
失礼しますね、と僕に断って、店員さんはメニューをめくる。ぺらぺらぺらと、あまり厚くないメニューの後ろの方に、サンドウィッチのメニューがあった。聞いていたいとおり、10ブラーから50ブラーくらい。
「こちらの単品から選んでいただく形になります」
「ありがとうございます。どうしようかな」
むう。
いや、サンドイッチから選んでもいい。選んでもいいけれど、さっきのランチメニューから選んでみるべきだろうか。
僕は今日、冒険に来たのだ。ならば、冒険するべきだろう。
「これって、なんですか」
ランチメニューのページに戻って、上から順に聞いていく。
具入りのオムレツ、グラタン、パスタ、お肉。どれもこれも本日の、ってつくそうだ。
なる、ほど?
「朝、市場に行ってみないと、何が安いか分からないからな」
「お野菜とかだと旬もあるからある程度想定できますが、肉類は流通に寄りますね」
あとはやっぱり、日替わりの方が好まれるのだとか。そういう物なのか。
「じゃあこの、ギヴァルシュ? ください」
「承りました。お飲み物はなにになさいますか」
「カフェってついてる、甘いので」
「お、じゃあクレールがいいな。ミルク入りで甘いぞ」
「それでお願いします」
店員さんとおじいさんに相談して、何とか最初の注文をこなした。よしよし。また今度来たら、次はこの、イルマシェ、って書いてあるグラタンにするんだ。
ギヴァルシュにしろイルマシェにしろ、中に入っている具材とか調味料とかで、名称が変わるのだと自分の飲んでいたカップを持ってきてまで相談に乗ってくれたおじいさんが教えてくれた。
「それなのに、本日のってつくの?」
「具入りのオムレツ、で、ギヴァルシュという料理名だ」
「なるほど」
「具無しはオムレツ、もしくは、特別な卵を使っていたりしたら、その生き物の名前がついたりするな。ジュネのオムレツとか、ラシュレーのオムレツとかな。これが、ジュネのギヴァルシュになったら、ジュネの肉入りオムレツだ」
「帰ったら料理の本読もう」
「そういうこったな」
じゃあ楽しんで、とおじいさんは僕の背中を軽くぽんぽんと叩いて、自分の席に戻っていった。
「ありがとうございました」
産まれてからの時間は長いけれど、エルフに成ってからの時間が短い僕は、確かに知識が足りないのだな、と思った。まあ足りないなら、勉強すればいい訳だ。
師匠を見ているに、時間はあるのだし。
しばらく待っていると、ランチが届いた。
店内には、ちょっとずつお客さんが入ってきている。ちょっとずつだけれど。まだお昼の時間には早いんだろう。
まあその方が、僕としてはありがたいけれど。慣れていないので。
「お待たせいたしました」
うきうきとメニューの他のページを見たり、お水を口に含んでみたり。お水、アシャシュだろうか。オレンジっぽい味がする。今度家でも入れてみようかな。帰りに何か果物買っていって、スライスして入れればいいよね。
やってきたのは、大きなお皿に乘った大きなオムレツ。本日の具材は、チーズときのこだという。本日のランチメニューの詳細は黒板に大きく書いてある。
「いただきます」
フォークで食べるかスプーンで食べるかちょっと悩んだ。なんとなくスプーンですくって食べてみることにする。
僕は今日! 冒険をしているので!
スプーンをオムレツ、ギヴァルシュに差し込むと、なんかむちっとしている。なんだろう。いきなりキノコに当たったか、それともチーズか。
そのまま押し込むと割と簡単にお皿にスプーンが当たったから、多分チーズ。掬い取って見たら白っぽいものがちょっと伸びて切れたので、やっぱりチーズ。
まだまだ温かいというより熱そうだから、とろけているのだろう。チーズは割と好きだ。
ギヴァルシュには、僕の知っているチーズと僕の知っているキノコが入っていた。だから最後まで美味しく食べれた。うん、ギヴァルシュ、好きな料理かもしれない。チーズときのこの入ったギヴァルシュが好きだ。って言った方が多分他の人には通じやすいんだろうな。
半分くらいギヴァルシュを食べたところで、カフェ・クレールが届く。ミルクがたっぷり入ったカフェだ。コーヒーじゃなくてカフェって言うとなんかいきなりお洒落な気がする。ふふふ、楽しい。
家で飲むのはもっぱらお茶で、コーヒーはたまにしか飲まない。たまには飲むけど。
持ってきてくれた店員さんにお礼を言って、カフェ・クレールを飲む。僕は大分うきうきしている。だってギヴァルシュ、美味しかったんだもん。だからきっと、このカフェ・クレールだって美味しいはずだ。
家にあるマグカップと、同じくらいの大きさのカップに入ったそれは、茶色かった。うんまあ、コーヒー全般茶色いよね。僕はミルクを入れる派なので。
熱かったら嫌だなって思いながら口に含んだら、温かいけれど熱いほどじゃなく。甘くておいしかった。
このカフェ・クレールが、今日のデザート替わりで。うん。デザート注文するの忘れてた。
多分食べ終わってから注文してもいいのだろうけれど、僕のお腹はいっぱいである。いつもより沢山食べた気がする。
きのことチーズってお腹にたまるよね。あと、沢山じゃなかったけれど添えられていたサラダも美味しかった。ドレッシングも美味しかった。どんな味って言われても分からないけれど美味しかったのだけは分かる。




