20-2.ボドワンのカフェでお昼ご飯を食べよう
「カフェでご飯って、どれくらいかかるもんなんですか」
お値段の話である。
師匠と一緒にボドワンの町に来ていた頃、僕はお金というものは見知っていたけれど、何がどれくらいの値段なのか、というのはよく分かっていなかった。隣で見て聞いて知ってはいたけれど、あの、師匠と一緒にね、本屋さんによく行っていたので。
お値段というものがよく分からなくなったのは、仕方がないと思うんだ。
魔術書は一冊数十万がざらである。それを師匠はポンポン買うのである。他のお店でも基本値切ったりはしない。だから相場、というものが僕はよく分からない。
「そうですねえ。アルバン君がいつも食べてるようなのがいいですよね。サンドウィッチだと10ブラーから50ブラーくらいで」
「なんでそんなに差があるの」
「モノによるんだよ。安い奴だとペラペラなハムが一枚入ってるだけだったりな」
ブレソールさんが教えてくれる。
なるほど、具材のお値段。
バイエの街の錬金術師のギルドの購買で買って食べたサンドイッチは、10ブラーくらいだった。勿論それが安いのは分かっている。中身がしっかりしていたのが、あのギルドの人達のためだっていうのも分かってはいる。
ていうかあの購買凄い安かったんだなって。
「飲み物も付けないといけません。これも、15ブラーから50ブラーしますね。メニューを見ても分からなかったら店員さんに、こういうのが飲みたいです、って伝えるといいですよ」
「カフェってんだから、カフェって書いてある奴、って程度に思っていてもな。結構味違うからちゃんと確認しろよ」
バルテレミーさんの言葉に思わず目を見開く。
カフェっていうのは、あのパラソルの下でカフェを飲むものじゃないのか。たまに見かけた人々のあれだ。あれ種類あるの?!
「ちなみにカフェ以外のメニューもあるが、まあ最初なんだし、カフェの中から選ぶといいだろう」
「そうだな。それから色々冒険すりゃいい」
バルテレミーさんとブレソールさんの話を聞くに、なんか色々ありそうだ。まあ詳しくはメニューを見るとして。
「最後にデザートですね。こっちは本当にお店に寄りますが、25ブラーから100ブラーを想定しておくといいですよ」
「高くない。いきなり高くない?」
「デザートはどうしても甘いものになりますからね」
果物の甘さ以外の甘さ、というものは、まあ錬金術の範疇になるそうだ。植物の茎や根から、甘さを抽出する必要があるそうで。
それら特定の植物が取れるダンジョンがある近くの錬金術師の中には、その抽出だけをやる一族なんかもいるんだって。今バルテレミーさんに聞いた。
とりあえず1000ブラーをお鍋と魔法の鞄の返金に当てることにした。これで残りは51000ブラーだ。
バルテレミーさんとブレソールさん、それからセリアさんにお礼を言って、僕は錬金術師のギルドを出る。向かうのは、雑貨屋さんじゃなくて、雑貨屋さんの隣のカフェだ。
「ああそうだアルバン」
「なんですか」
錬金術師のギルドを出る前に、ブレソールさんに呼び止められる。
「分かっちゃいるだろうけど、念のためな。お前がこれから行くカフェは、お前や俺たちにとっては高いカフェじゃないんだけどな。駆け出し冒険者にとっちゃ、十分に高級だってことを、覚えといてほしいんだ」
町で働いて暮らしている人たちにとっても、それほど高いカフェじゃないらしい。普通、くらい。もちろんボドワンの町の広場にあるから、安いカフェじゃない。安いカフェは、路地裏とかにあるらしい。
僕がまだ行っちゃいけない辺りだ。
「うん、分かった」
「悪いな。あいつらに誘われていくだろう店も、だからまあ、あんまり期待しないでやってくれ」
「むしろめっちゃ期待してる」
僕はそういう店に一人でいける気がしない。
そもそも僕はお店でご飯を食べるのが今日が初めてなので。バイエの街でも、結局錬金術師のギルドを出なかったし。
あそこの購買はとても安かったし。
多分、僕とクロード君たちとの関係が長続きしたら、ちょっとずつ違うお店にも連れて行って貰えるようになるんだろうな、と期待している。
錬金術師のギルドを出て、いつもの雑貨屋さんの隣にある、白いパラソルのカフェに入る。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
店内には丸いテーブルと椅子が並べられている。外にあるテーブルと椅子とは違うようなそうでもないような。
お店の人は可愛いストライプのシャツに、黒いエプロンを付けている。なんか格好いいな。
「おひとりですか」
「はい」
「こちらへどうぞ」
テーブルと椅子は三人掛けと四人掛けと二人掛けがあるようだった。それから、一人用のカウンター。カウンターはまだ僕には早い気がする。なんとなくだけど。
店内にはちらほらと人がいる。お客さんの方。もちろん店員さんもちらほらいるけれど。
僕が案内されたのは、奥の方の二人掛け。近くには、他にお客さんはいない。
お客さんは皆そうだ。お客さんのいるテーブル同士が、近くない、といえばいいのか。
テーブルに案内されたら、今度はメニューを渡される。黒い表紙の、細長いメニュー表だ。格好いいなこれ。
「お決まりになりましたら、お声がけください」
「あの」
「お決まりですか?」
店員さんが立ち去りそうになったので、慌てて引き留める。待って待って。置いて行かないで。
「おすすめって、何がありますか」
「それでしたら」
失礼しますね、と僕に断ってから、メニュー表を開いてくれる。とても丁寧だ。
「ちょっと早いですけれど、このランチメニューから選ばれるとよろしいかと」
「ありがとうございます」
店員さんが開いてくれたページには、なんか色々と載っていた。なにこれさっぱり分かんない。
「おう坊ちゃんどうした」
近くの席に座っていたおじいさんが、ちょっと笑いをこらえながら僕に話しかけてくる。ちょっと笑いをこらえているってことは、錬金術師か冒険者か。もしくは師匠の知り合いか。
どなたでも構わないので助けて下さい。
「なにを頼めばいいのか分からなくて」
「なにが分からんのだ」
「何もかもが」
おじいさんは自分のマグカップを片手に、僕の隣の椅子に移動してくる。よろしくお願いします。




