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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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20-1.ボドワンのカフェでお昼ご飯を食べよう

 朝の内に、中級傷薬のポーションをボドワンに持って行くことにした。これで初級と中級傷薬のポーション各五十本納品したことになる。今月中に後五十本ずつ納品すればいい訳だ。


 問題は今月中、が、僕にはよく分からないってことだ。あと何日だろう。まあいいか。バルテレミーさんは僕がそういうのが苦手なのを知っているから、多分来月になったらまた「今月も百本」って言ってくれるだろうし。


 もしくは雑貨屋のおばあちゃんが持って帰れって言ってくれるだろう。支払いが先かもしれないけど。


 今日は帰りにおばあちゃんのお店によって、もう五十本瓶を受取ってこよう。それから、気付け薬と目薬の分の瓶のお値段をお支払いして。



「ボドワンでお昼ご飯を食べてきてみます」

「ああそうだね。やってみるといい」



 夕飯を一人で食べに行くのは難色を示されそうである。というか、示された。クロード君たちと食べに行ってからにするか、錬金術師のギルドでクロード君たちを待ってから行くように、と、師匠からもバルテレミーさんからも何ならブレソールさんからも言われた。ちなみにその時冒険者のギルドにいたおっちゃんたちも一人で夜は駄目だと言われた。


 信頼がない。


 まあ僕の外見が子供だから、なんだけれど。


 けれど師匠はもう少ししたら旅に出るのである。僕は二十日程度この家で一人になるのだし、そのことを町の人は知っているのである。


 全員とかじゃなくて。師匠や僕と親しい人の話。



「おすすめのお店はありますか?」



 一応、錬金術師のギルドでも聞く予定だけれど、師匠にも聞いておく。師匠のおすすめのお店を聞けば、きっと僕が食べたことのあるものにも出会えるだろうと思って。


 これどこで買ったんですか、は、なんとなく聞きたくない。僕だって冒険がしたいんだ! 安全な場所で!


 ケロールの森の冒険は安全といえば安全なんだけれど、僕にとっては庭で探検ごっこをするようなものだから対象外だ。



「そうだなあ。広場のカフェとかいいんじゃないか」

「あああの、パラソルとか立ってる」

「そうそう」



 確かにそういう、安全そうなところから僕はデビューした方がいいだろう。お金ならあるけれど、むしろお金だけがあるのが問題なわけで。


 ボドワンでの買い物は基本的に、師匠と一緒に行ったところにしかまだ行けていない。いつになるかは分からないけれど、いつかは師匠だってこの家を出るわけだから、その時までにはなじみの店とか作りたいよね。


 代替わりとかしてそうだけど。人間寿命短いって聞くし。



「行ってきます」

「行ってらっしゃい」



 腰に付けた魔法の鞄の中には中級傷薬のポーションが五十本。それから一応、普通の鞄も持って行く。何か買うかもしれないし。


 ケロールの森を出たところで、森の入口とそれから家までの道を閉じる。広場自体も閉じてもいいんだけれど、そうすると師匠が庭で迷子になるからそれはしない。


 なるんだよ。庭で。迷子に。


 僕は森の主だから、完全に全部を閉めてしまっても歩けるんだけど。



「広場でおすすめのカフェはありますか」

「おすすめなあ」



 錬金術師のギルドのカウンターで、バルテレミーさんに聞く。五十本の中級傷薬のポーションは2400ブラーになった。雑貨屋のおばあちゃんに状態異常回復ポーションの瓶代400ブラーを支払う必要があるから、ええと。



「お店のカフェって、いくらくらいかかりますか」

「そうか、そこからか」



 そこからである。


 僕はお店で食べたことがない。珍しい子供のエルフだから、師匠があまり連れ歩かなかったのだ。師匠と一緒にボドワンの町に来ていた頃は、錬金術師のギルドに来て、師匠がバルテレミーさんと話してるのを隣に座って待ってて、それからお買い物に付き合って帰って、家に帰ってから食事だった。


 まあ帰ってから食事、は、今でもそうなんだけれど。



「折角師匠が出かけるんだから、僕もいろいろしてみようかなって」

「まあ、広場のカフェからなら、安全か」



 バルテレミーさんの視線は、僕じゃなくて冒険者のギルドの方に向いた。クロード君たちを探したみたいだ。


 まあ気持ちは分からなくもないけれど、ちょっと傷つくからやめてほしい。



「クロード君たちとご飯を食べるのは夜ですよ、夜」

「クロードたちなら、お前さんと行く店を今頑張って探してるから、もうちょっと待ってやれ」



 暇そうなブレソールさんが、そう言って話に入ってくる。


 だからそっちは夜なんですってば。



「夜に子供のエルフと一緒に行ける治安が良くて旨くて安い店を今必死に探してるところだからよ」

「僕が」



 僕が一緒に行かないのであれば、安くて旨い店はそこそこあるのだろう。ただ僕の考える安いと、彼らの考える安い、に差があるだろうなということは分かる。だって僕駆け出しとはいえ錬金術師だもの。エルフなんだもの。


 ちょっとお鍋かき混ぜたら2400ブラーだよ? 駆け出し冒険者がどうやったらそれだけ稼げるかを僕は知らない。


 まあ僕の場合、師匠が整えてくれた庭というアドバンテージがめちゃくちゃあるからなんだけれど。


 まず薬草を探すところからだからね、他の錬金術師はね。



「まあそれまでに、アルバンも店で飯を食う、ってのに慣れておいた方がいいだろうな」

「何かあるんですか?」

「周りに人がいると食えないって奴もそこそこいるんだよ」

「へえ」



 何かよく分からないけれど、外で食べたことのない僕にしてみれば分からない話である。だからまあ、一人でご飯を食べられるようになった方がいい、というのには、違う観点からだけど、二人とも賛成みたいだ。納得はしづらいけれどまあ、お店を教えて貰えるなら。



「ギルドの向かいの、雑貨屋さんの隣の、白いパラソルのカフェ、お勧めですよ」

「なんだセリア、よく行くのか」

「よくではないですけど。アルバン君が知りたいのは、最初のとっかかりでしょう?」



 セリアさんは、錬金術師のギルドのお姉さんだ。僕みたいな錬金術師の対応じゃなく、冒険者のおっちゃんたちの対応をしている。のを、見たことがある。


 僕はセリアさんを見て、何度か頷いた。


 そう。どこに入ればいいのかさっぱり分からないので。

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