19-2.状態異常回復ポーションの準備をしよう
もう夜なのに、師匠が帰って来ない。大分おかしい。いやいいんだけどさ。前にもたまにあったし。多分今回もお酒を飲んでいるんだろう。それ自体は責められる事ではないし。
探しに行くのもよろしくないから、僕は二冊目の状態異常回復ポーションの本を手に取る。もう外は暗いから、薬草を採取するのは明日だ。
師匠の安全については心配していない。だってすごく強いし。冒険者でもある大人のエルフが負けることなんてほとんどないだろう。負けるとしたらお酒くらいで。飲み比べて負けても僕は知らない。師匠はちゃんと自分のことは自分で出来る大人なので。
バルテレミーさんやブレソールさんとお酒を飲みに行ってるのかもしれない。だったら帰ってくるのはもっと遅いだろう。朝にはならないと思うけど。
「言ってくれたら、夕飯買ってきたのにな」
今日は師匠と夕飯を一緒に食べるつもりだったし、特に何か買ってきてと言われていないから買ってきていない。最近、空腹、というものが分かるようになってきている。
やっぱりお日様だけ浴びていたい、という思いはあんまりなくならないけれども。でも美味しいご飯は好きだよ。好きになってきた。
おやつはもっと好きだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
今読んでいるこの一冊を読み終わったら台所を漁ろうと思って読んでいる途中、師匠が帰ってきた。泥酔はしていない。してたらね。森の入口まで迎えに行く必要があったけれどね。
足元もしっかりしているほろ酔いぐらいの師匠は、僕にお土産をくれた。
「ごめんごめん。グレミヨンについて聞いていたらね」
「ぐれみよん?」
「私が行く予定の海沿いの町だね」
ボドワンの西門を出て、ケロールの森。そこからさらに西に行った先にあるのが、グレミヨンという町らしい。今回の、師匠の目的地だという。
師匠が僕の夕飯にと買ってきてくれたのは、ピタパン、っていうサンドイッチ。どこで売ってるのか結局知らないんだよね。僕は、あの町で行っていい場所というのが限られている。
師匠以外の人から見ても僕はぎりぎり成人したてくらいで、師匠から見ると僕は心配になる程度の子供である。まあ今度、クロード君たちとご飯食べる時に聞けばいいかなと思っている。冒険者がいっぱいいる辺りには、まだちょっと行きたくないんだけれど。
でもどうなんだろう。その方がむしろ安全なのかな?
師匠がボドワンの町にいない間は駄目かな?
ピタパンの中に入っているのは、トマトソースで煮られたおっきなミートボール。ミートボールが落ちないように、沢山の葉っぱも入っている。
「あ、これ好きです」
「それはよかった」
師匠がたまに買ってきてくれるあんまり食べたことのない食べ物たちの中でも、これはかなり好きだ。野菜一杯だし。お肉もトマト味だし。
僕が口いっぱいに頬張ったのを見て、師匠がテーブルに地図を広げた。
「グレミヨンは、ボドワンの西にある町でね。歩いて片道五日ほどかかる」
遠いのか近いのか僕には分からないけれど、まあ歩いて、って言い方をするってことは、師匠は歩いて行きたいのだろう。ええとだから、往復するだけで十日。
「馬車はないんですか」
「あるけど、バイエに行くのと同じで、結局馬車でも五日くらいかかるからね」
必要がないので直通はない。それはそうだ。僕なんかは、初めて聞く名前だし。
勿論、ボドワンの町に住んでる人たちは、知ってる人もそれなりにいるだろうけれど。冒険者の人とか。商人の人とか。
グレミヨンという海辺の町までの間にある町は四つ。ボドワンと同じくらいの町が三つに、バイエみたいに大きな街が一つあるという。グレミヨンの、一個手前が大きな街だそうだ。
「そこ、ビュシェルベルジュールに」
「なんて?」
なんかすごい長い名前だった。なんでそんな長い名前の街なんだ。僕絶対に覚えられない自信があるんだけれど。
「ビュシェルとベルジュールという二つのダンジョンのそばの町がくっついて大きくなったから、ビュシェルベルジュールという街の名前なんだ」
「それならなんとなくわかります」
なんとなくだけれど。それ以上はちょっと無理だ。でも名前を覚えるのも多分無理。あの長い名前の海の近くの大きな街、で通じそうじゃない?
「ビュシェルベルジュールを拠点に、いくつかの町や村を訪れてみようと思っているんだ」
「ええとじゃあええと、二十日くらい?」
「十五日から二十日くらいで帰ってくるよ」
結構長い気がするけれど、僕は分かりました、とだけ答える。他に答えようもないことだし。
「一応向こうを出る時に、鳥を飛ばそう」
「そうして貰えると助かります」
僕宛じゃなくて、バルテレミーさんとかでもいいと思うけれど。まあ師匠にしてみれば、両方に鳥を飛ばしても、大した魔力消費量じゃないだろう。
エルフは魔力量が多い、のだし。




