16.錬金術師のギルドから手紙が届いた
師匠の所に手紙が届いた。
といっても、郵便屋さんが持ってくる奴じゃない。あれは、町に住んでいる人向けのサービスだ。
師匠の所に師匠の師匠から手紙が届いたことがあるけれど、その時は錬金術師のギルドに師匠宛に届いた。郵便屋さんが持ってきたという。それを、錬金術師のギルドに行った時に貰ってくるか、今日みたいに魔法の鳥が咥えて持ってきた。
僕はこの魔法は知らないし、師匠が言うには中級の魔法だという。大分先だ。
「鍋が届いたそうだよ」
わざわざ魔法の鳥を使ってまで教えてくれなくてもいいのではないかと思う。僕は数日に一回は錬金術師のギルドに行っているのだから、その時に。あ、だめだ。僕はしばらく錬金術師のギルドに行く予定がない。
だって新しいレシピブックを貰うのに必要な分の納品は終わらせてしまっていて、これから僕が作るのはバルテレミーさんから依頼された、初級と中級傷薬のポーション各百個である。
ポーションの瓶は現在百個ばかりこの家に持ってきてあって、残りの百個はまだ入荷していないはずだ。その他に、状態異常回復ポーション用の瓶もそれぞれ五十個ずつお願いした。
状態異常回復ポーションの瓶は、それぞれ異なる形の瓶になっていて、鞄の中で手にしただけで分かるようになっている、というからすごいなと思った。まあ、分からないと困るよね、とも思う。だってそれを使う時、冒険者さんは具合が悪いんだから。カバンに手を突っ込んだだけで見つけたいよね。何なら戦闘中だろうしね。
こっちの瓶も普段それほどの在庫はないってお店のおばあちゃんに言われてしまった。一応発注だけはお願いしてある。
ちなみに瓶のお値段、それぞれバラバラで困惑した。
状態異常回復ポーションの瓶、どこか遠くからくるとかなのかと思ったら、この辺りの錬金術師が使う瓶は全部、この町の、レッドフォールロード地区の、ガラス職人さんが請け負っているらしい。そうなんだ。
だから運搬料とかではない。いやいいんだけれど。びっくりしただけで。そんなに。凄い高い訳でもなかったし。
ちなみにまだお願いしただけで、お値段はお支払いしていない。次はこれを作るよっておばあちゃんに伝えただけになっている。だって全部まとめては、いやお支払いできるけれど、大分かつかつになってしまう。
とりあえず、傷薬のポーションを作ってからのお支払いでいい、ってことにしてもらえて助かった。だって使っちゃったし。ローンのお支払いに。
「いつお鍋届くんですか」
「二日後だって」
「明日、明後日?」
「そうだね」
「その日は師匠いてくださいね」
「そのつもりだよ」
師匠は鳥に了解の旨を書いた返事を持たせて送り返した。
鳥が手紙を運ぶ魔法は、送付した錬金術師のギルドの方が往復を予定していれば待っていてくれるし、片道だと手紙を受取った時に消えてしまう。今回は消えなかったから、往復だ。
魔法の、正確には魔法のお鍋じゃない。魔物素材で出来たお鍋であって、お鍋自体に魔法はかかっていない。大きくて、錬金術でポーションを使うのになんか色々向いている、ってだけだ。一緒に買った魔法の鞄に釣られて、こっちも魔法のってつけたくなる。
届くまでの間に、すでに本棚をたくさん作り終えた師匠から、僕は魔法を教わることにした。大した魔法ではないけれど。初級その二、みたいなやつだけど。
それでも、魔法を直に師匠から教われるのは、大分ラッキーな事なのだと冒険者のギルドのブレソールさんが言っていた。あんまり弟子を取る魔法使いはいないらしい。
魔法使いになりたい人は、自分で何とかするしかないらしい。例えばダンジョンで魔法所が落ちたらそれを手に入れるとか、そういうの。冒険者のギルドで教えることもあるって聞いたことがあるようなないような。
「さてじゃあ今回は状態変化の魔法を覚えよう」
「誰かを状態異常にさせる魔法ですか?」
「そっちじゃなくて、今回は自分にかける方だね」
「自分に、状態異常を?」
「そう。例えば力持ちになったり色んなものがよく見えたりちょっと素早くなったりするんだ」
「何の役に立つんですかそれ」
「私たちにとってはそれほど劇的な変化はないけれどね、冒険者にとっては劇的な変化があるわけだ」
ほんのちょっと力持ちになったら攻撃力が上がって強いモンスターにもダメージを与えることが出来たり、色んなものが見えやすくなったらどうやって逃げるかが分かるし、ちょっと素早くなったら逃げることが出来るようになるらしい。
なんでそんなぎりぎりの戦いを、と思ったけれどこれあれだ。この間ブレソールさんが言ってた楽しい、って奴だ。
「私たちにとっては、例えば今度来る鍋を一人で持てるようになるかもしれないとかその程度だけれど」
「持てますかね?」
「アルバンじゃ無理かな」
無理じゃないか。いやまあそもそも僕はまだエルフとしても子供なので、持てない、という話かもしれない。きっとそう。
「鍋の重さの話じゃなくて、そこまで劇的に変化はしない、という話だね。そこまで劇的に変化させることが出来るものもあるけれど」
「あるんですか」
「うん。けれどまあその後筋肉が壊れたりするから、お勧めできないかな」
「なにそれ怖い」
まあだから人間は荷車を使ったり複数人で運んだりと知恵を働かせるようになったんだよ、と、師匠に締めくくられた。そうなんだ。
「じゃあなんでアルバンにこの魔法を教えるか、というと、この魔法を原型にして作ったのが、この布の魔道具だ」
「なんですかそれ」
「荷物を軽くする魔道具」
すごい。
その布の上に明後日くる鍋を置くと、ちょっと軽く感じるらしい。一般販売はされていないそうだ。
「そこから転じていったのが、魔法の鞄になる訳だね」
「あ! そうか!!」
言われてみればその通りだ。
魔法の鞄にはあんなに沢山の、僕じゃ持ち上げようとすら思わなかった傷薬のポーションを五十本も入れて、問題なく持ち運ぶことが出来た。
そう考えると、魔法面白いかもしれない。
「この辺りの魔法は、杖も鍵もいらない。これといって呪文もない」
「無いんだ……?」
「出来るようになってからじゃないと、意味がないからね」
要するに体で覚えるしかないのだと、師匠は笑った。笑い事ではない。
力持ちになる魔法は苦手だ。よく見えるようになる魔法もあんまり得意じゃない。でもしゅっと動く魔法は簡単にできるようになったし、魔法を効率よく使う魔法? はイマイチよく分からないままだった。効率よく、とは……? みたいな気持ち。
後はこれを、これを?
「誰かにかける魔法が、その先にあるんだ。それを覚えたら、どうすればそれをポーションに落とし込めるか、魔道具に落とし込めるか、という方向に発展していくわけだよ」
「はい」
わかったこれあれだ。
師匠が海に行く間に読んでおく本の話だ。
という訳で僕には本棚二つ分の、読書が宿題として出されました。この量を読むの。そう。毎日頑張ります。




