17.お鍋が届きました
今日は、お鍋が届く日だ。どうやって届くのかは聞いていないけれど、おそらくは新人冒険者君たちが荷車で持ってくるのだと思う。確か前に、そんな依頼がどうのと話しているのを、聞いた気がするし。師匠とバルテレミーさんが話してる横で椅子に座ってぼんやりしてた時に、隣の冒険者のギルドの方でなんかそんな仕事の説明をしていたのが聞こえてきただけだから、詳しくはないんだけれど。
師匠と相談して、運んできてくれるだろう彼らに家に入って貰わないことにした。師匠がまだいるかどうかも特には伝えない。
家であるエルダートレントの大木の周りには、広い庭と花壇がある。薬草が植わっている庭だ。僕だったエルダートレントの大木をぐるりと囲むようにまあまあ広い広場があって、そこの広場を師匠が耕して花壇にしたのだ。
ボドワンの町の広場と同じか、もうちょっと広いくらいだろうか。でっかい大木が中央に居座っているので、ちょっと分かりづらいけれど。真ん中歩けないし。
森の入口から僕の家の周りの広場まで続く道と、そこから僕の家までの間の、なんかいい場所に、師匠がイスとテーブルを作って置いた。これもまた、僕の端材、すなわちエルダートレントの木材製である。
このイスとテーブルだけで、実は一財産であると師匠が笑っていた。エルダートレントの端材、基本的に出回らないからね。でもまあ多分、新人冒険者君たちは気が付かないと思うよ。というのが、師匠の言い分である。僕もそう思う。
朝の日課である薬草たちへの水やりを終えて、僕は師匠が新しく作ってくれた椅子に座る。いっそ魔導書でも持ってきて読もうかと思ったけれど、見られたら面倒くさいかなとか考えた。
いや、彼らが来るのは僕にはわかるし、魔法の鞄の中に入れてしまえばいいのか。そうしよう。
師匠から読むようにと言われた本を二冊ばかり持ってきて、本を読みだす。今日来る、っていうのは分かっているけれど、いつぐらいに到着するかは、分からないからね。
昼前に出発してくれたら、良いのだけれど。
本を一冊読み終わる頃、森の外に人の気配がした。
師匠が出かけるたびに森から自宅への道を閉じたり開いたりして練習した結果、森の外の気配も分かるようになった。今の所は気配が分かるだけで、干渉は出来ないからいいとしている。師匠が。
あそこからここまではもう少し時間がかかりそうなので、気にしつつもう一冊を読むことにした。こっちも魔法に関係した本だ。自分にバフをかける、って奴。どっちもどうやったらよくできるか、みたいな理論の本で、正直身になっているのかどうかは分からない。やってみるのがいいんだろうけれど、それはまた今度やる。
僕が一人でやったって、ちゃんとその魔法が自分にかかっているのか分からないもの。師匠に見て貰いながらやった方がまだ効率がいいと思う。
「ついたー!」
「お待たせしました!」
人の気配が割と近くなったところで、一旦家に入って本を僕の部屋の本棚に戻して、朝の内に準備しておいたお茶のポットを持って出る。夏になったらこれに満杯のお茶を作って、ちょっとずつ飲んでいる奴だ。
今日は沢山の人が来るだろうからと、これにお茶を作っておいた。良く晴れた日で、こういう時人間は喉が渇くと、師匠に教えて貰ったので。
僕? 僕は晴れてようが雨が降ってようが水大好きなので。雨の中外に出なくなっただけで褒められる僕である。
「ありがとう、荷物はここにおいてもらえる?」
やってきたクロード君たちにお礼を言って、それからテーブルの上に敷いた布の上に鍋を置いてもらうようにお願いする。
この布、師匠の作った魔道具だ。魔法の鞄の簡易版で、この布ごと物を持つとちょっと重さが軽減されるって奴。
まあ彼等には教えないんだけれど。
クロード君たちは荷馬車に箱を乗せてきた。その箱の中に、僕のお鍋が入っているのだろう。箱から出して貰えるとありがたいな。クロード君とデジレ君が、二人がかりで箱をテーブルに運んでくれる。二人は、布の側に箱を置いた。
「バルテレミーさんから、箱は持って帰ってきてほしいって言われてるんだけどさ」
「うん。じゃあ中身だけ、この布の上に」
「ありがと。助かる」
「いや、僕としても箱から出してほしいなって思ったから」
箱ごと布の上に置かれると、あとで箱からお鍋取り出すのが大変そうで。師匠と一緒ならできるのかな。どうだろ。
「何なら、中まで運ぶけど」
「おいドナ」
「いや、アルバンだけだと厳しくない?」
「ドナ」
ドナ君の優しい申し出に、クロード君が厳しい声を掛ける。ドナ君の名前だけを読んで、首を横に振った。
「家の外で待ってるんだ、家に入って欲しくないってことだろ。ごめんなアルバン、別にお前の家に入りたいってわけじゃないんだ」
「ありがとう。ドナ君の優しさは分かるし、仕事人気質のクロード君の気持ちも嬉しいよ」
そして家に入って欲しくないのは事実である。でも僕一人だと運べそうもない、というドナ君の考えも正しい。し、優しいと思う。本当に。
ただねえ。
「錬金術師の家、大体あれだから入りたいって言わない方がいいよ」
「え、どういうこと」
「馬鹿、器具とかもそうだけど、高い素材とかあるだろ」
「今回たまたま私たちは知り合いだっただけで、知らない人を家に入れたくない、って人も、それなりにいそうだけど」
首をひねるドナ君と、なんとなく察してくれるエドメ君にカロルちゃん。僕はまだ何も言ってない。
でもこう、いい関係だなと思う。
その三人の横で、クロード君とデジレ君は黙々と箱からお鍋を出してくれた。ちなみにエドメ君が箱を押さえてくれている。
僕は邪魔にならないようにちょっと離れた所にいる。だって完全にね。足手まといだからね。
「よし、アルバン。この布で包めばいいんだな」
「え、ありがとう」
敷いておいた布で、デジレ君が包んでくれる。なんでそこまでしてくれるのか。
デジレ君がお鍋を敷いておいた布で包んでくれている間に、クロード君とエドメ君が箱を荷車に戻す。よし、ようやく僕の番ですね。
「みんな疲れたでしょう。お茶をどうぞ」
「ありがとう」
「助かるわ」
「喉は渇いてたんだよな」
「水くれって言ったら貰えるかって話までしてた」
僕の家に、彼ら全員分にいきわたるほどのカップはない。僕と師匠の分だけあればいいからだ。
昨日、おそらく冒険者は五人か六人のパーティで来るだろうという師匠の言葉に従って、魔法の練習がてら作ったのだ。
その辺にある土で。それを師匠の魔法の火で焼いたら出来上がり、というわけだ。そんな簡単にいっていいのだろうか。売り物でもないしいいか。
とりあえず昨日の内に水漏れしないのは確認したので、それをそのまま使ってもらう。持ち手はないコップタイプだ。
「そうだアルバン、今度町で飯でもどうだ」
「いいけど」
師匠が旅に出てしまったら、僕は一人になる。今は師匠と一緒に夕飯を取っているから夜になる前に帰る必要があるけれど。
まあ、夜になったからって、危ない事はない。町中はともかく、この森では僕は安全だし。
「そうそう。あれから俺たちもダンジョンに潜ったりしてさ。そういう話したくて!」
「こっちに知り合いも出来たけど、アルバンどうしてるかなって、たまに話に出るの」
彼らが冒険者になってすぐ、まだ何かをする前に僕と知り合って、あれからしばらく。冒険者の先輩たちには、話してもつまらないだろう話が沢山あるのだという。
確かに僕は、ダンジョンを知らない。いやここもダンジョンだけどさ。よそのダンジョンは知らない。
「というか僕、ボドワンもよく知らないよ」
「あれ、そうなの?」
クロード君たちが驚いたように僕をみる。そんなに不思議な事だろうか。
「だって僕の家ここだからね。用事がないと町には行かないし」
「それもそうか」
「村から出てきたときの僕達みたいなもんか」
「じゃあなおのことたまには町で遊ぼうよ」
果たして彼らの言う町での遊びが僕にとって楽しいのかは分からないけれど。
「じゃあ今度、お勧めの安くて美味しいお店に連れてってよ」
「行こう行こう」
行くのは夜だ。
僕が町に行くのは昼だけれど、彼らはその時間ダンジョンに行っている。僕がちょっと遅く家を出て、ギルドで待っていればいいだけだ。
その時間まだ、ギルドは開いているのだから。
いつにするかとかそういう約束はまだしないで、また今度、と彼らは帰っていった。まあ僕これからお薬作ったりするしね。このお鍋のローンも返さないといけないしね。
ちなみに僕が言いたかった、錬金術師の家に入りたがらない方がいいの真意は、散らかってるから、だ。僕の家だってちゃんと整頓されてはいるけれど、薬草を干すために吊るされていたりするし。




