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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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20/20

15.中級傷薬の塗り薬を納品して次のレシピブックを貰おう

 さてお昼ご飯を食べ終えて、師匠が本棚造りに戻った。本屋さんに行かなくていいのかと言ったら、あとで行くとの事だった。なんかもうちょっとで終わるらしいので終わらせてしまいたいらしい。


 まあ本屋さんにも、明日師匠が来ます、とは言っていないので、今日行かなくてもいいのだけれども。


 師匠を二階にというか、多分三階に見送って、手鍋にさっき準備したボーセン草の根っことカディオ草の茎をポイポイと放り込む。



「火よ火よ。鍋を温めて」



 お茶を沸かしたのとは、別の布だ。魔法陣が書いてあるのは同じだけれど、調理用の布と錬金術用の布は違う、と師匠が決めた。理由は知らない。


 理由は知らないけれど、師匠がそういうのならそうなのだろうと、僕は別の布で作業をしている。何枚か作ってくれたので。


 多分、僕が錬金術で使っていても、調理用の布で師匠が料理をしていることがあったから、そういう時のためかな、と思っている。


 ボーセン草の根っことカディオ草の茎がひたひたになるまで油を入れて、あとは混ぜるだけだ。初級傷薬の塗り薬は最終的にうっすらピンクになったけれど、こっちは最終的にはうっすら緑色になる。


 最終的に、なので、お鍋で煮ている時はとても緑色だ。根っこの茶色はあまり出ない。あの茶色、土の色なんだろうなと思う。ちゃんと洗って土を落としてるから出ないんじゃないだろうか。


 師匠から口うるさくちゃんと洗えと言われているから、僕はとても綺麗に洗っている。



 そんな感じで中級傷薬の塗り薬を合計五十個作って納品した。まとめて納品じゃなくて、その間に塗り薬を入れる用の缶を貰いに行ったり、裁定納品数は五十個だけど、僕の使ってるこの手鍋だと六十個作った方が良さそうだったから缶をもう十個追加で買ったりもした。


 まだ、新しい大きなお鍋は届かない。届くまでの間に、ボーセン草の茎とカディオ草の根っこを粉にしておく。そうしたらほら、新しいお鍋ですぐに作れるし。



「その前に、これが新しいレシピブックだ」



 前回までの納品数が四十五個で、今日最後の十五個を納品しに行ったら、バルテレミーさんから新しいレシピブックを貰った。二冊。



「今回はちょっと特殊でな。まとめて説明させてもらう」



 二冊目のレシピブックと三冊目のレシピブックに載っているのはどちらもポーションだという。状態異常回復のポーション。


 二冊目のレシピブック、状態異常回復上巻に載っているのは初級のポーションだという。



「どういう区分なの?」

「必要な薬草の違いだな。ケロールの森には全部あるから、お前さんにとっては載ってる冊子が違う、ってだけだ」



 だから、まとめての説明なのだという。なるほど。


 町によっては入手難易度が高いものが下巻にまとまっていて、あまり入手難易度に地域ごとの差異がないものが上巻に載っているのだとバルテレミーさんが教えてくれた。つまりまあまあ入手難易度が難しくないものと、入手難易度が高い物の差だそうだ。


 まあ師匠の頑張りの結果、全部うちの庭にはあるそうで。



「無い場合ってどうするの?」

「他の町にありそうなやつ、錬金術師のギルドでレシピブックに載ってるような奴だと、店に依頼して発注かけておく必要があるな」

「そうか。頼めばいいのか」



 けれどその分、お金がかかる。


 だから下巻に載っていて、まずは上巻でお金を稼ぎなさい、ということらしい。なるほど。気遣いのレシピブック。


 とはいえ僕の場合はよほどのことがない限り、薬草にお金はかからない。あるから。庭に。


 庭になくても、森のどこかにはありそうではある。一応あの森、ダンジョンなので。



「念のために言っておくが、ごくごく軽い物なら、傷薬のポーションでも治る。例えば火傷とかな。ここに載っているのは、それでは治すのに時間がかかるもの、だ」

「うん?」

「家のおふくろさんがちょっとした火傷を負ったならまあ水で冷やすとか初級傷薬の塗り薬でもぬっときゃ数日で治るし、鍛冶場の連中の火傷だって同じだ。それでも治らないなら、教会で司祭様、って話はしたな」

「うん、聞いた」

「冒険者連中もそれと同じで、野営中の火傷くらいなら傷薬の塗り薬可ポーションを使う」



 ちなみに司祭様は大体ダンジョンには行かないし、神のきせき? をこうし? 出来るような人はまあまあ冒険者になんてならないそうだ。たまに冒険の最中に女神さまのお声を聞いて、何とかできるようになる人もいるらしいけれど、それはとても少ないという。少なそう。



「ちなみにここに載ってるのは全部初級扱いだ。中級以上は錬金術師のギルドのレシピブックでは取り扱っていない」

「どういう扱いになるの?」

「それが専門の錬金術師の弟子になるか、それが専門の錬金術師の書いたレシピブックを買うか、だな」

「買えるんだ?!」

「売ってない訳じゃないからなあ」



 帰りにちょっと、本屋さんに寄ってみようと思う。もしも取り扱いがあるなら、興味あるし。


 あ、師匠が持ってるかもしれないから、そっちを先に聞いてみる? うーんでも、本屋さんで聞いて帰るだけなら、そっちの方が近いし、覗いてだけみよう。



「納品の順番とかある?」

「特に希望はないな。下巻よりは上巻からやっていってほしい、くらいか」

「下巻の方が品薄だったりしないの?」

「そういう訳でもない。ボドワンにあるダンジョンは、そんなに状態異常者でないからな」



 ボドワンは近くに、二つのダンジョンがある。一つは初心者向けで、もう一つは中級から上級向けって聞いた。だから、状態異常にもなるのかとばかり。



「ならない訳でもないが、そこまでって程でもないみたいだなあ」

「お、説明いるか?」



 隣の冒険者のギルドの、ブレソールさんが話に入ってきてくれた。バルテレミーさんは錬金術師のギルドの人だから、売れてるとか在庫がある、とかの説明は出来るけれど、ダンジョンについての説明は慣れていない。僕みたいな、素人に対して。



「頼むよ」

「お願いします」

「よし頼まれた。ダンジョンの名前はベタンクール、中から上級者向けの三十階層からなるダンジョンだな」



 その辺りは僕でも知っている。多分、冒険者はなりたてでも知っているレベルの情報なんじゃないだろうか。公開情報、って奴。



「ベタンクールにはもちろん、それなりに強いモンスターが沢山いる。からめ手を使ってくる奴もそれなりにいるし、勿論状態異常にもなる」

「なるんじゃん」

「まあ売れない訳じゃないからなあ」



 まあまあと、手ぶりでブレソールさんが僕たちをなだめる。話はどうやら続くらしい。



「ただな、つまんないんだよ」

「つまんない」

「ああ。錬金術師のギルドの言うところの、初級の状態異常回復ポーションで治っちまうのよ。わざわざ毒にならないようにうまいこと立ち回る必要もない。毒になったら解毒ポーションをあおればいい。そういうのは俺たちにとってはつまらなくて、で、結果として人気のないダンジョンになって」

「あんまり状態異常回復ポーションも出回らない、というわけだ」

「なるほど?」



 分かるような、分からないような話ではある。なんといえばいいのか。



「在庫は欲しいけれど沢山はいらない、かんじ?」

「そういうことだわな」

「がんがん売れるってこともないな」



 僕みたいな駆け出しが作る程度で事足りるらしい。


 ちなみに人気のあるダンジョンだと、いかに状態異常回復ポーションを使わずに切り抜けるかを考えるのも楽しいらしい。よく分からないけれど、そのよく分からない人たちが買っていくようなポーションなんだ、っていうのは分かった。



「そういえばなんでポーションなのに水薬?」

「古い言い回しっていうのと、文字数だな」

「もじすう?」

「レシピブックに書くのに、短い方がいいって話だ」



 確かにレシピブックは誰かの手書きで、それが誰かって言うと錬金術師のギルドの職員さんなわけだ。それなら確かに、ポーションって書くより、水薬って書くよね。


 分かるような。分からないような。



 中級傷薬の塗り薬の納品数は最終的に六十個。一個50ブラーだから、合計で3000ブラー。今回結局油も蜜蝋も買い足ししていないので、この3000ブラーはそのまま魔法の鞄と鍋の代金に回した。


 お鍋が届いたらまずは初級と中級傷薬のポーションを作って納品して、それから状態異常回復ポーションを作って納品する、という流れになるみたい。頑張るね。


 帰りに本屋さんに顔を出したら、状態異常回復ポーションのレシピブックの取り扱いはあると教えて貰った。合計八冊。そんなにあるの。


 多分師匠も何冊か持っているだろうから、まずはそちらを見てみることにした。流石にちょっと、八冊は見せて下さいとは言いづらい。



「著者が違うだけの可能性もあるからね。弟子が師匠のレシピに手を入れて発行したりもするし」

「そうか、新しい配合とか見つけてるかもしれないですし」

「そうそう。だからまあ、まずはお師匠様に聞いてみなさい」

「そうします。ありがとうございました-」


体調不良のため明日からしばらく毎日更新が止まります。

またストック溜まったら再開します。

しばらくお待ちください。

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