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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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14.森の閉じ方

 お昼ご飯を食べ終わったら、師匠は本棚造りに戻ることになった。


 まずは僕の部屋用に小さい本棚を二つ作って、そこにこの居間にある本を移す。僕が読む用だ。師匠が出かけている間は、居間に本を置かないことにするそうだ。それから二階の空いた部屋に居間にある本棚三つを移す。


 という作業を、今行っていたらしい。小さい本棚二つはもうできて、僕の部屋に置いてあるという。本も、適当に詰めておいてくれるそうだ。



「魔導書は高価だからね。泥棒が入ることもあるだろう」

「そうか、師匠がいなくなるから」



 師匠がいる、年を経たエルフがいる、ということが分かっている場所に泥棒は入らない。どれだけ高価な魔導書が盗めたとしても、それに命は釣り合わないからだ。


 その師匠が旅に出るとして、残るのは僕だ。この間エルフに成ったばかりの僕なら、師匠の高価な魔導書を盗みに入ることが容易だと、思う奴もいるだろう。



「基本的に、家には人を入れないようにね。正直森に入れるのもやめた方がいいとは思うけど」



 師匠が言うには、どこから情報が洩れるか分からないから、だそうだ。今度僕の鍋が届くわけだけれど、それを運んできてくれる新人冒険者が盗みに入らなくても、彼等から言葉巧みに聞き出した泥棒が入る可能性があるという。


 何それ怖い。



「ええーじゃあ、えー」

「アルバンの鍋が届くまではいるけれど、その時も姿を見せるつもりはないし」

「そうなんですか」

「うん。アルバンは森を閉じれたね?」

「出来ますよ。でも森を閉じちゃうと近所の村の人が困りませんか」

「家に続く道だけを閉じることは出来る?」



 ちょっと待ってください、と師匠にいって、僕は目を閉じる。目を開けていても森のことはよく分かるけれど、目を閉じるともっとよく分かる。


 どこに何の薬草があるのか。これは師匠が僕に薬草を教え込んだから分かることだ。それまではよく分からなかった。草だなって。


 どこにどんな生き物がいるか。これも、師匠が詳しく教えてくれたからよく分かる。


 あっちにドンジェっていう蜂の群れがいるでしょ、そっちにはエストレっていう青い熊がいるでしょ、そんでもってあれはフォルクレっていうオオカミの群れだ。


 でも今はどうでもいいので、無視をする。まああっちもこっちに寄って来ないだろうし。


 今見るべきは魔力だ。この森の魔力。森の中心にあるこの家、そしてこの森の主である僕から森全体に広がる魔力の流れ。を。



「ええと、森の入口のあたりから、僕のいる家までの」

「道に魔力が通っているのなら、その魔力を拡散してごらん」

「かくさん」

「散らしてごらん」

「ちらす」



 どうやるのか分からないけれど、師匠もどう伝えたものかと唸りだした。まあ、なんとなくやってみよう。


 森を閉じる、っていうのは僕には分からないけれど、多分、外から人が入れないようにするって意味だと思う。うっかり入りこめてしまっても、道が分からなければいいのだろう。多分、そう。


 魔法は想像力だって、師匠に教わった。人間は、その創造するための方法として呪文を作って、魔法の方向性を示すために杖を作ったのだと。


 だから。


 つまり。


 こう。



「多分出来たと思います」

「見てこよう」



 僕が行ったら意味がない、と思う。多分僕には、どこに道があるか、あったか、分かるといいなと思うので。


 師匠が外に出ている間は、やることもないし椅子に座って待っている。人間は魔法を維持する、というのが大変らしいけれど、僕は人間ではないし、ここは僕の森だ。その気になれば、それはそうなる。



「大丈夫だと思うよ」



 戻ってきた師匠が褒めてくれる。


 今度は二人で外に出て、道のあった辺りを見つめた。森である。そこには踏み固められた道があるはずだったのに、そんなものはない。


 よしよし。僕はやり遂げたぞ。



「戻してごらん」

「はい」



 うまく言葉で説明できないけれど、僕が「そこに道がある」と思えば道が見えるし「そこに道などない」と思えば、他の誰もが道を認識出来ない、ということらしい。


 師匠が言うには、それが森の主が森を閉じる、ということだと。ただまあ完全に森を閉じちゃうと、森の生き物たちとか森のそばで暮らしている人たちに大迷惑なので、僕たちの家にたどり着ける道と、僕たちの家を閉じることになった、というわけだ。


 師匠が、森の外に出たら。


 師匠が旅に出るまでの間に、たまに森を閉じる練習をした。大変ではなかった。最初の内はええとこうして。とか、考えたけれど。今では、閉じようと思えば、すぐにそうなるようになった。


 僕には魔法の才能があるのでは。



「エルフである以上、魔法は使えるはずなんだよ」

「エルフは皆使えるんですか?」

「……そうだね。概ね」

「おおむね」



 師匠によると。


 僕たちエルフは前の人生で得た魔力がそのまま加算されていく形らしい。よく分からない。



「アルバンは元が木で、それからトレントに成って、エルダートレントに成ってからのエルフだろう」

「そうらしいですね」



 だってよく分からないもの。師匠も、貝だった頃の記憶はあまりないらしいから、そこは特に何も言われていない。



「樹木にも種類があるから何とも言えないが、あまり魔力は潤沢ではない」



 ちなみに僕の産まれが世界樹だったりすると、生まれた時点で魔力は潤沢である。ただし、死ぬのかどうかが分からないので、何とも言えない。



「その時点では潤沢でなくとも、その後のトレントはそれなりに、エルダートレントは潤沢に魔力があったはずなんだ」



 ちなみに師匠はエルダートレントであった僕を知っているから、僕に潤沢に魔力があったかどうかは分かるはずである。ちなみにトレント、歩き回る種族と歩き回らない種族がいて、僕は歩き回らない方。


 だから何が違うのか、っていうのは、よく分かっていないらしい。



「そもそもアルバンはこの森の主でもあるから、魔力量がよく分からなくてね」

「そうなんですね」



 僕は今も森の主だけれど、エルダートレントだったころから多分そうだ。もしかしたらトレントの頃からそうかもしれない。


 なぜならこの森に、トレントはいないから。今。エルダートレントもいない。僕だけだ。いや僕もうトレントじゃないんだけど。


 エルダートレントだった僕の魔力量と、森の主である僕の魔力量が分からないので、多分潤沢にあったはずだ、と言い回しになるんだとか。


 難しいね。言葉ってとても難しい。特に、誰かにちゃんと説明したいときには。



「それと同じことでね。魔力量が潤沢ではない生き物からエルフに成ったものは、やはり潤沢ではないようだよ」

「それは他のエルフと比べて、ですか」

「そうだね。人間とかと比べれば、潤沢ではあるようだ」



 なのにエルフレベルの魔法を求められていると聞くと、少しかわいそうになる。


 ちなみに師匠が見たというそのエルフは、元がオオカミ系の魔物の方で、自分にめちゃくちゃ魔法をかけて敵に突っ込んでいくタイプの魔法使いであったらしい。


 果たしてそれは魔法使いでいいのか。


 というかオオカミなら、エルフに成るのはボスではないのか。ボスだとすると、自分に魔法掛けないで部下に魔法掛けたりしない? そのひとは知らないエルフなので、なんとも言えないんだけれど。


 だからええと。話が逸れた。とてもとても逸れた。



「アルバンに向いている魔法を探そうね」

「そうですね」



 食事をとらなくても大丈夫なポーション作成、頑張ります。


 もしかしないでそれは、万能薬なのでは。


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