12.お買い物をして帰ろう
初級傷薬の塗り薬を納品した420ブラーを握りしめて、お買い物に行く。正確にはお財布に入れて、それから魔法の鞄の中だけど。お財布はちゃんと持ってきている普通の鞄の中でもいいような気がするけれど、慣れるまではこうしたい。
だって使いたいじゃない。新しい、僕だけの鞄なんだから。
錬金術師のギルドは、ボドワンの町の中央広場にある。そこから東西南北の門に向かって大通りがあって、それぞれ大通りは商店街になっている。僕が帰る西門と、それから北門の間は住宅街になっているけれど、広場の近くだと、その辺りにもお店はある。後は門の近くにも、ちょっとはお店があるらしい。あっちはほとんど行かないから、師匠から聞いたことがある程度だ。
西門へ向かう大通りから二本くらい南寄りの、通りの入口。広場に面したところに、その店はある。
錬金術師向けの雑貨屋さんだ。バイエの街の錬金術師のギルドにあった、購買みたいなところ。
「こんにちわー」
「おうアルバン、お使いかい」
「なんと! 一人前になったのです!」
「へえ、おめでとう。じゃあ今日はちょっとサービスしようかね」
鞄につけた錬金術師のギルドのバッジをお店のおばあちゃんに見せる。そのついでに鞄からお土産の茶葉の箱を取り出して渡した。
「やった。ええとね、塗り薬の缶が五十でしょ」
「そんなに在庫ないわ。今日は三十で我慢おし」
「うん。それから、毎月水薬の瓶を二百お願いしたくて」
「まあ、あんたに頼むが妥当だろうね。持って帰れるのかい?」
「一回は五十くらいかな」
おばあちゃんが、僕の魔法の鞄をみる。師匠みたいに大きいのだったら、もっと入るんだろうけれど。僕のは、錬金術師のギルドで買える、一番小さい奴だから。もうちょっと大きい奴の取り扱いがあるって、話だけは聞いた。バイエの錬金術師のギルドでも、お値段表には載ってない。
僕以外の錬金術師もこの店を利用しているだろうし、一回で持って帰ろうとは思わない。でも今言っておくと、お店として在庫しておいてくれるようになるだろうし、っていう算段。
「缶が一個3ブラー、瓶が一本2ブラーだね。缶が五十個なら150ブラー、瓶が二百本なら400ブラー、しめて550ブラー、今あるかい?」
「実はあるんだ」
さっき納品してきたことにより得た収入は420ブラーだけれど、この間バイエの街で稼いだ分がまだ残っている。だからそれくらいは支払える。
「あれお金持ちになっちゃってまあ」
「バイエで一杯水薬作ったからね」
「エルフだからねえ、そりゃ頼られるか。今回はお祝いで、まとめて400ブラーでいいよ。あんたの名前で取り置きしておくからね」
「ありがとう」
400ブラーならさっきの納品分で支払いが出来る。おばあちゃんに400ブラー渡して、今日の分の缶を三十貰う。それから、メモを貰った。缶二十、瓶二百。支払い済みって書いてある紙だ。財布の中に折りたたんでしまっておく。
「油と蜜蝋は足りてるのかい」
「あ、どうしようかな。次でいい気もするし、買っていた方がいい気もする」
初級よりも中級の方が買取額はいいから、油と蜜蝋は次回に回してもいいかもしれない。鞄の余裕も考えると、次回の方がいい気がする。
蜜蝋はともかく、油が高いし。一回買うと、大分持つんだけれど、食用油として使えないからね。
おばあちゃんにさようならをして、次は本屋だ。油と蜜蝋は次回かその次に買うことにした。だってどうせまたすぐ来るし。何なら必要になってから買いに来たっていい訳だし。
雑貨屋さんがあるキュヴィエ通りを真っすぐ行くと、本屋さんがある。間に何件かお店があるけれど、食器屋さんとか文房具屋さんとか、そういうお店が多い。お洋服屋さんとか。確かもう一本奥の通りか、その辺りを曲がると、住宅街だったはずだ。用事もないので行ったことはないけれど。
だからこの辺りのお店は、そこの、住宅街の人たち向けなのだと思う。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃい」
本屋さんのお爺ちゃんに無事に錬金術師になったことを、お土産を渡しながら伝える。頑張ったねと褒めて貰った。
正直薬を作るのはそれほど大変でもない。楽しいとすら思う。でもバイエの街まで行くのは大変だった。頑張った。森からあんな離れたのは初めだし、かなり心細かった。
多分本屋のおじいちゃんが褒めてくれたのはそこではないのだろうけれど、嬉しかったのでえへへと笑っておいた。
それはそれとして、師匠からのメモを本屋のおじいちゃんに渡す。読み上げるより、その方が伝わりやすいから。
お支払いは師匠のツケだ。僕はおじいちゃんに師匠の欲しい本のメモを届けるだけのお仕事。たまに、たまたますぐそこにあった時は持って帰るけれど。
師匠が依頼するような本は基本的にとっても高くて、僕のお小遣いじゃ手が出ない。だからお支払いは師匠だ。師匠はこの町では有名なエルフだから、特に問題なくツケが効く。他の人は知らない。
「それじゃあこれはアルバンに、合格のお祝いだ」
「ありがとうございます」
本屋のおじいちゃんが僕にくれたのは、紙の束。
「頑張って立派な魔法使いになるんだよ」
「がんばります」
魔法使いの魔導書は、すでに本になっていてそこに書き込むタイプと、紙に書いた魔法を挟んでいくタイプがある。そのどちらであってもまずは紙に魔法を書き写すところから始まる。
師匠の行きつけの本屋さん、ということは、基本は魔導書の取り扱いで、ここの店主さん自身も魔法使いだ。そりゃ僕への贈り物は紙になるよね。頑張ります。
本屋さんを出たら後はパン屋さんとお肉屋さんと八百屋さんでお買い物をして帰るだけだ。魔法の鞄と普通の鞄両方持っているから、それなりに沢山買える。買い出しできるのとても楽しい。
勿論、師匠の魔法の鞄ほどはいらないんだけどさ。あれは冒険者規格なので、羨ましがるものでもない。




