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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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11-1.納品しに錬金術師のギルドに行こう

 初級傷薬の塗り薬を作ったので、折角だしボドワンの町に行ってみることにした。折角買った革のズボンと、魔法の鞄を使ってみたくて。


 まずはズボンのベルト穴にベルトを通して、それからズボンをはく。師匠はズボンをはいた状態でベルトを通せるけれど、僕はまだそれは出来ない。練習が必要だと思う。それからベルトポーチを通して、ベルトを最後のベルト穴に通して、ベルトを締めたら完成だ。



「行ってきます」

「気を付けて」



 朝の内に僕の端材で作った魔法の杖を使って、庭全体に水をまいた。雨が降った翌日と、雨が降っている時以外は僕の仕事だ。


 ちなみに外で魔法を使う時は魔法使いのふりをするために魔法の鍵を使うけれど、この庭に水を撒くときは鍵よりも杖の方が水を撒く場所の指定がしやすいのでこっちを使っている。魔法の鍵は、魔法使いが魔法を書き込んでいる魔導書の鍵なんだ。


 ちなみに僕が使っている魔法の鍵も、僕の端材で出来ている。師匠が作ってくれた。


 僕にとってこれは僕の端材、なのだけれど、見る人が見たらエルダートレントの素材だと分かるそう。ちなみに見る人が見たら卒倒するそうな。だから絶対に盗もうとはしないはずだって師匠が言っていて、怖すぎてどういうことなのか聞けていない。本当にどういうことなの。


 とはいってもエルフだからね。魔法が使えないはずがない、というのが、他の種族の人達の偏見なんだそう。別に困らないのでのってやれと、師匠たち大人のエルフは思っているらしい。


 ちなみに魔法の鍵が発明されるまでは、魔法の杖を使って、呪文も全部覚えて使っていたというから、古いエルフなんかは最悪魔法の鍵どころか杖がなくても魔法が使えるという。それはそれでちょっと怖い話だと思う。


 それはそれとして、森のほぼ中央にある僕の家から森の端までが、僕の足で三十分くらい。そこからボドワンの町の門までが三十分くらい。門から錬金術師のギルドまでが十分くらい。


 町の中で完結している人たちからすると遠いけれど、僕にしてみるとそれほどでもない。慣れた、というのが正しいのか、バイエの方が遠かったからなのか。



「こんにちはー」

「おういらっしゃい」



 カウンターには、バルテレミーさんがいる。同じ建物内隣の冒険者のギルドには人はあんまりいない。もうみんなお仕事に出発したみたいだ。



「今日はどうした」

「初級傷薬の塗り薬の納品と、お鍋いつ来るかなって思って」

「じゃあまず納品からだな」



 僕はうんと頷いて、魔法の鞄から初級傷薬の塗り薬を取り出して、カウンターに積み上げる。詰める時は鞄をテーブルの上において詰めた。出す時はベルトから魔法の鞄を外さないで、そのままだ。何事も練習あるのみ、だ、って師匠が言っていた。主に魔法について。



「はい、十五個」

「はい確かに」



 十五個くらいなら簡単に入る。魔法の鍋が届いたら、きっともっと簡単に塗り薬も作れるようになるんじゃないかと思って来たわけだ。いや魔法の鍋じゃないんだけど。魔物素材の鍋ってだけで。でもつい魔法の鍋って呼んじゃう。



「全部で420ブラーになるがどうする」

「全額下さい」

「そうなるよな」



 大した金額でもないので、これは持って帰る。持って帰るというより、お買い物の軍資金だ。魔法の鞄と鍋の支払いに回すには心もとなすぎる。



「そんで鍋の到着日だったな」

「そうそう」

「バイエからうちには月に二、三度便がきてる」



 錬金術師のギルドでお金を出して、バイエからカバネル経由でボドワンに来るという。ボドワンのもう一個先、コラールって町まで行って、そこで一泊。翌日はどこにも寄らずにバイエに戻るんだそうだ。確かに行けそうではある。



「そいつが(せん)に来たのが、アルバンがバイエに行くちょっと前だったから、あと五日から十日くらいで来るんじゃないか」

「ありがとうございます。師匠が出る前に来てほしくて」

「待て待て。お師匠さんどっか行くのか」

「はい。僕が一人前になったことだし、海が見たいって」



 一人前になった、といっても、独り立ちは微妙にまだだ。


 今僕が錬金術師のギルドに収めているのは、錬金術師になったら誰もが作れるようになる必要があるやつ。それが後、レシピブック一冊か二冊あって、そこから先はそれぞれの派閥ごとのレシピブックを覚えていくことになる。僕だと、家で使っている魔法陣の描かれた布になるんだろうか。魔道具、って奴だ。まあそのためにはやっぱり、もうちょっと魔法を覚えないとダメかな。



「海かあ」

「その後は、南の賢者様の所に報告も行かないといけないらしいですし」



 僕はケロールの森を出ることが出来ない。今日みたいにボドワンの町に来ること自体は問題ないけれど、この間みたいにバイエまで行くのもちょっとしんどい。体調とかじゃなくて、僕はケロールの森の主だから、ケロールの森を離れて森のことが分からないのが、気分的にしんどい。



「まあ、帰ってきてくれるなら。まあ」



 バルテレミーさんの気持ちも分からなくはない。長くケロールの森に魔法を一杯使える錬金術師のエルフが居座っていた訳だから、いなくなったら心もとないよね。



「まあそれはこっちで止められる事でもねえからな。帰ってきてくれる、ってんならそれはそれだ」

「拠点作っちゃったから、多分帰ってくると思うよ」



 今師匠は、僕たちの家の二階に書庫を増設している。それはつまり、ここを彼の拠点の一つと定める、ということだと僕は思う。というか、確か師匠の生涯の中で、あの家が一番長く住んだ家だったと思う。そんな話を聞いた気がする。


 それに魔法使いが書庫を手放すことはないと思う。


 ただ問題がもう一つあって、師匠はエルフである、という点だ。もしかするとバルテレミーさんはもう二度と師匠に会えない可能性がある。


 僕たちエルフには、寿命がないから。



「じゃあまあそれに期待するとしてだ。それはそれとして、アルバンに依頼がある」

「僕?」


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