8.新人冒険者向けの買い物をしよう
町と街を繋ぐ乗合馬車は順調に、バイエとカバネル、カバネルとボドワンを繋いでくれた。出発から五日目、僕はボドワンに帰ってきた。
ボドワンの町は大きくない。近所に二つのダンジョンと、僕の住むケロールの森があるにもかかわらず、大きな街ではない。普通ダンジョンが近くにあると、街は発展するんだって。
ボドワンの近くにあるのはそういう、冒険者が一杯来るようなダンジョンではないそうだ。初心者向けの五階層程度のダンジョンが一つと、中級から上級者向けの三十階層のダンジョンがあるという。
人が一杯来るのは、上級者向けの五十階くらいあるやつなんだって。難しそうなのに。後は初級の終わりから中級に向けての、十五階から二十階くらいのヤツ。そこが一番冒険者も多いから、人気らしい。
ボドワンの東側、北東から南東にかけて川が流れていて、その川沿いに二つのダンジョンがあるそうだ。行ったことはないから、伝聞なんだけど。
カバネルからの馬車は、北門に到着する。南門からの街道を真っすぐ行くと、いつか隣国ボードレールに着くって、師匠が言ってた。
錬金術師のギルドは中央広場に一つ。冒険者のギルドと同じ建物に入っている。冒険者のギルドはその他に、二つある。
北東にあるホワイトグローブ地区。昔、白い石ばっかり入手出来た頃に建てられた建物ばっかりの街並みがある場所と、南東にあるレッドフォールロード地区。道すら赤レンガが敷き詰められた真っ赤な地区の両方にある。
「いらっしゃい。……アルバンか。どうだ。錬金術師になれたか」
「無事なれたよ、ほら」
建物に入ると、錬金術師のギルドの人たちの視線が僕に集まる。こっちにはあんまり人、来ないからね。
朝カバネルを出た馬車は、僕ともう一人を乗せて順調に走った。順調に走った結果、僕がボドワンについた今は、昼前である。近いといえば近いんだよね。乗り継ぎがあれば、多分一日でボドワンを出発してバイエに到着が出来ると思うんだけど、どっちも昼頃に出発する便しかないから、どうしても二日がかりになっちゃう。
僕は鞄のふたをぺろりとめくって、錬金術師のギルドで貰ったブローチを見せる。よし、と、ギルドの職員の人たちが全員頷いた。
「とりあえず、こっちゃ来い」
「はーい」
カウンターの内側で僕を呼ぶのは白髪のおじさん、バルテレミーさんだ。
「それで、何買ったんだ」
「はさみとカッティングボード買った。これは支払い済」
「待て、何を何本納入した」
「初級傷薬の水薬を十本持って行ってそれと、現地で五十本作った。その後、中級傷薬の水薬を百本作って納入したよ」
「てことはお前、他にも買ってるな?」
「お鍋と魔法の鞄を買った」
「まあ順当か」
「だからその内お鍋が届くから、届いたら……どうすればいい?」
「ああ、こっちで配送の手配しておくわ。配送の値段はツケでいい」
「ありがとう」
森までお鍋を運ぶのは多分、新人冒険者君のお仕事になるだろう。背負って運ぶというよりは、台車を借りて運ぶことになるんじゃないかな。それとも荷馬車だろうか。まあ、めちゃくちゃ高くはならないだろうな、ならないといいな、と思ってる。
ええとあとは。
「あ、そうだ。服屋さん教えて下さい。あとこれお土産」
「服屋?」
「魔法の鞄が、ベルトポーチ型なんだけど、ベルト穴のあるズボン持って無くて」
「ああ、そういうことか」
僕のズボンは、というかこの町で買える服の主流は腰の所に紐が入るタイプである。紐でキュッと縛るタイプ。でもベルトポーチなるものが街で売られている以上、ベルト穴があるタイプのズボンもどこかでは取り扱いがあるはずなのである。
街だったらどうしよう。もう一回行って探すのだけは嫌だ。
ついでにお土産のお茶の箱も渡しておく。大箱の方。皆で飲んで。バルテレミーさんは、ちらりとそれを見て、ありがとよと小さく言ってくれた。
「そういうのは冒険者向けの店にあるからな。そこの、クララック通りを真っすぐ行くと、冒険者ギルドがあるんだが。そこの辺りにあるだろうから、ギルドで初心者向けの店を聞いた方がいいだろう」
「ありがとう。そうする」
僕が冒険者のギルドに行ってもいいものかちょっと悩むけれど、まあ行ってもいいだろう。もしかしたら将来的には何か依頼とか出す側になるかもしれないし。
「今から行くか?」
「そうしようかな」
「おーいブレソール、いるか?」
「おうどうした」
お礼を言って受付の椅子から立ち上がろうとしたら、少し待てと手を振られた。その間に、バルテレミーさんが誰かを呼ぶ。冒険者の方は、知っている人っていない気がする。バルテレミーさんが声を掛けたのは、冒険者ギルドの方だ。
同じ建物に入っているから、バルテレミーさんは知り合いもいるだろう。一応錬金術師のギルドと冒険者のギルドは連携していることになっているし。
「いやうちの若いのがベルトポーチ買って、それを使えるズボンが欲しいって言っててな」
「お、うちの若い連中も丁度行くから、案内と護衛させよう」
「護衛、必要なんですか?」
何それ怖い。
やっぱり錬金術師は保護されるべきなのか。
「あの辺りは、若いの狙いのぼったくりの店が多くてな。そういうの、慣れてないだろう?」
「慣れてないですね」
「だろう。おい、クロード」
「はいはい、聞いてましたよ」
昼前くらいのこの時間、冒険者ギルドの方も閑散としている。
錬金術師のギルドが閑散としてるのは、あんまり錬金術師がいないからで、冒険者のギルドの方が閑散としてるのは、皆出払っているからだ。
この時間帯にいるのは新人の冒険者が主だと、バルテレミーさんが教えてくれる。小声で。彼等は今、登録に来たくらいなんだって。先日バイエで錬金術師として登録した僕と大して変わらない。
「じゃ、よろしく頼むな」
「よろしくお願いします。アルバンです」
「錬金術師だよね? 俺はクロード。今後多分世話になるから、よろしく」
クロード君の後ろから来た、デジレ君にドナ君、エドメ君にカロルちゃん。彼等はこのボドワンの東にある村から冒険者になるためにやってきたのだという。要するに口減らしの一環であるそうな。自分でそれ言うのね。
クロード君の案内で、白い建物が立ち並ぶ区域に向かう。昔、白い石ばっかり買ってた頃に建てられた地区だという。そういうものなんだってクロード君が説明してくれる。。知ってるけれど、そうなんだって相槌を打っておいた。まあ僕も人から聞いて知ってるだけで、別に詳しい訳じゃない。
クララック通りにあるという冒険者のギルドの建物を通り過ぎて、その近くの小道に入る。そこはずらりと、冒険者向けのお店だった。服にポーチ類、バッグ類によく分からない小物類など、なんか色々種類ごとにお店があった。
「ダンジョンに行くなら、普通より丈夫な服がいいんだって」
「そうなんだ」
確かにそれはそうだろう。行ったことはないけれど、ダンジョンにはモンスターがいるって師匠に聞いた。森にもいるけれど、まああいつらは僕を襲ったりはしないので、装備品、というものはいらない。
「とはいえ俺たちはまだ新人で、そんな深いところまで行かないから、中古でいいって、ブレソールさんが。あ、ここだ」
服は基本、仕立てるしかない。大きい国の大きい街にある所じゃそうじゃないのかもしれないけれど、ボドワンでは基本的に仕立てるしかない。けれど僕たちみたいにお金がなくて仕立てられていない人間はどうするかっていうと、中古屋でリサイクル品を買うのだ。
背が伸びてしまったりしたら、今着てる服を下取りに出して、新しい中古品を買う。そういうことだ。
ちなみにこういう中古の服屋さんでは、おかみさんとかが仕立て直して売っていたりするそうだ。カロルちゃんが教えてくれた。
「あれ六人組かい、珍しいね」
「違います。おまけの錬金術師です」
店の奥から声がするから覗いたら、カロルちゃんの言うとおりおかみさんが仕立て直しをしているようだった。なんか布が一杯積み上がっている。
「なにをお求めかい」
おかみさんはそれらの布をテーブルの上に積み上げて、僕たちを接客してくれた。
とりあえずすぐ終わる僕から相談をして、茶色の革のズボンを一着購入した。ベルトを見せて、同じような色のヤツにした。分かんない時は誰かに聞くに限るんだよ。
クロード君以下、皆駆け出し冒険者セットみたいなものを選んでいく。サイズとお値段で。おばちゃんは流石に手慣れていて、最初からセットにして取り扱いをしている。頭がいい。とてもいいと思う。買う方も困らなくていいしね。
「そっちの錬金術師のお兄ちゃん以外は、ガンガン稼いで、がんがん買換えな!」
お金が無いってことは、好みの物が買えないってことでもある。裏を返せば、お金があれば好みのものが買えるということになる。
衣装に興味があるらしいカロルちゃんと、デジレ君が、おかみさんの言葉に強く頷いていた。頑張ってほしい。
クロード君たちに広場まで送って貰って、そこでお別れした。後は一路森へ帰るだけである。
西門へ向かって歩きながら、それなりに馴染になってきたパン屋さんによる。
「お帰り」
「帰ってきました。これお土産の茶葉」
「わるいねえ」
茶葉のお礼にカリカリに焼かれたパンの耳を二袋貰って、今日のお昼と夜用のサンドウィッチを師匠の分持って事で二つずつ買って、それから明日からのパンも一抱え買って鞄に入れる。こっそりと、魔法の鞄に。
まあこの町で大っぴらに魔法の鞄を使っても問題はないと思う。僕が錬金術師になったのはこれから言って回るし、そもそも魔法の鞄を持ってる冒険者はそこそこいるからだ。そこそこだけど。みんなそれくらいになると、他の町に行っちゃうみたいだ。
ちなみにパン屋のおかみさんに渡したのは、シャンブルーっていう、大きな黒い箱に入った茶葉だ。錬金術師のギルドでも渡した奴。一箱に五つの茶葉の箱が入ってるのを三つ買った。それを開けて、渡している。
パン屋さんの次は、八百屋さんだ。
「あらアルバンちゃんじゃない。おかえり」
「帰ってきましたー。お土産の茶葉です」
「楽しかったのね」
「です」
僕はあまり肉を食べない。ハムとかはちょっとなら食べるんだけど、固まり肉とかはあまり好まない。それよりも野菜とかの方が好きだ。果物も好き。
もっと欲を言うなら、お日様浴びて美味しい水を飲んで生きていきたい。エルフの体不便すぎる。
とりあえず八百屋さんではお野菜詰め合わせセットを買って、それも魔法の鞄に入れて帰る。便利だな。
本屋さんはまた今度にして、門に向かう。ずっと馬車で揺られていたから、結構疲れている。座ってただけなのに。
「お帰り、アルバン」
「戻ってきましたよ」
東西南北四つの門を護る守衛さんは、領主様に雇われているという。だからお土産を渡すことは出来ない。今度どこかであった時なら渡せると思うんだけどね。
「ありがたい事に、森は静かだよ」
「いつもご迷惑おかけしてます」
「基本的にはいつも静かだから助かってるけどね」
僕の住むケロールの森はダンジョンである。フィールドダンジョンって奴。だから監視がある程度は必要なのだ。特に今みたいに、二泊三日とはいえ、森の主である僕がいないときは。




