7.ボドワンに帰ろう
やるべきことを終えた僕は、錬金術師のギルドを出て、乗合馬車の発着所へと向かう。
街中を走っている辻馬車なんかだと、その辺で馬車を見かけたら手を上げて呼び止めて、どこへ行くのか聞けばいい、って師匠が言っていた。生憎バイエで辻馬車に乗るタイミングはなかった。到着した時、錬金術師のギルドはまっすぐ行ったところだよって言われてしまったし、その後はギルドを出なかったし、これからだって乗る必要は多分ないんじゃないかな。だって来た道を真っすぐ門に向かって歩く訳なんだし。
町と街を移動する乗合馬車の発着場っていうのは、大体街の門の近くにある、と師匠に教わった。バイエもカバネルもボドワンも例外はなかった。狭い範囲の話で申し訳ないけれど。
錬金術師のギルドを出ると、そこは広場になっている。そういえば昨日来たときに買いそびれた屋台ご飯、買っていこう。朝ご飯は買ったけれど、昼ご飯はまだだし。
「お、昨日の。無事錬金術師になれたかい?」
「おかげさまで」
昨日半べそをかいた辺りに行ったら、昨日の屋台は今日も出ていた。昨日出ていても、今日出ていない可能性はあった訳で、運がいいのだろう。
僕は鞄のふたの裏側に止めたブローチを見せる。錬金術師のギルドの証は、あんまり見せない方がいいと言われたのでここだ。
「よし、ちゃんと隠せてるな」
「なんで隠す必要が?」
確かに今僕は、来たときよりお金を持っている。けれどそれだって、わざわざ錬金術師の証を隠すほどじゃないと思うんだ。
「そうか、まだ子供だもんな。知らねえよな」
「昔な、錬金術師の連れ去り事件ってのがあったんだよ」
「へ?」
隣の屋台のおっちゃんも話に参加してくる。何それ怖い。あ、だから保護なんだ。
「つってもこの辺じゃなくてな、もっと向こうの、もっとデカい国のでかい街の話でな」
「この辺りにはそういうことがあった、って噂しか流れてこなくてなあ」
「そうそう。だもんだから、なおのこと皆怯えてな。錬金術師のギルドの証は隠せ、ってなったんだわ」
「そういうことがあったんですね」
なるほど。変に噂だけが回ってきたのなら、理由も全く分からなくてそれはさぞ怖い話であったあろう。その結果、錬金術師を保護だの錬金術師は証のバッジを見えないようにしまうだのになったのだろう。
まあ、特に困ることもないだろうから、いいかな。別に見せびらかすようなものでもないのだろうし。見せびらかしたいけど、僕としては。
「それよりここの屋台の取り扱いは何ですか」
「お、買ってくれんのか。うちはクレープだ。朝飯に食いな」
もう朝ご飯は買ってしまっているけれど、まあ別にもう一つ買っても問題はない気もする。クレープを朝ご飯にして、ジャムサンドをお昼ごはんにしてもよいはずだ。
ちなみに夜ご飯はカバネルの町で食べる。一昨日は乗合馬車の待合所で紹介して貰った宿の一階で食べた。宿の一階がお食事処になっているのが一般的で、食事だけが出来たりできなかったりと色々とあるらしい。馬車で一緒になった人たちから聞いた。
屋台のおじさんに5ブラー支払って、熱々のクレープを貰う。ちなみに具はない。バターのみだ。それをこう、くるっと畳んで巻いて、紙で包んだら出来上がりだ。おいしそう。
話に割って入ってきた隣のおじさんは飲み物屋さんだった。水筒に入れてコーヒーを売っている。使い捨てじゃない陶器のマグカップに入っているのもは4ブラー。ちょっと高い。けれどこれはマグカップを返すと2ブラー返却される仕組みだそうだ。
マグカップが欲しいなら、そのまま持って帰っていいらしい。なるほどなるほどと言いながら、ぼくは水筒入りの方を買う。こっちも4ブラー。水筒は使い回せる奴。
この水筒、ダンジョンの入口付近でめちゃくちゃ手に入る木材を使っているという。下が丸い形のひょうたんで、帰り際に冒険者たちが一人木の枝一本ずつ持って帰ってきてくれるという。それで一本10ブラー。お金にはならないんだけれど、街の人たちのために取ってきてくれるんだって。
そんな知らなかったことを聞きつつ、甘いコーヒーも買って、準備は大分できた。
おじちゃんたちにお暇を告げて、目指すは町間の乗合馬車の発着所だ。門に向けて一本道をちゃんと歩けば到着するだろうから、問題はない。と、思う。まあ駄目だったら最悪もう一泊して傷薬でも作るからいいよ。
朝の早い時間はもうとうに過ぎていて、それぞれの店が開店の準備か開店をしている。冒険者の姿はほとんどない。あるのは街中での仕事をこなす人か、今日がお休みの人だろう。冒険者の見分け方、あんまりよくわかんないけど。
とことこと大通りを歩いて、乗合馬車の発着所に到着する。
町と街を繋ぐ乗合馬車の発着所といっても、長椅子が何本かと、それから庇があるだけだ。一応お姉さんが一人座っていて、その前に受付カウンターみたいなものはある。何故か一緒に果物を売ってるけれど。
「すみません」
「はいはい。どこまで?」
「カバネル経由で、ボドワンまで」
「それなら、昼前の便になるわね。こっちがカバネルまでの切符で、こっちがカバネルからボドワンまでの切符。あわせて200ブラーよ」
「お願いします」
割符になっている、という木の板を貰う。この発着所の待合には、時計はない。だから時間は分からない。
奥の方の長椅子に座って、朝ご飯を食べることにする。さっき買ったクレープだ。それでも絶対に時間は余るけれど、まあ仕方がない。誰か来たらお喋りでもできるのだけれど、その後、カバネル行の馬車に乗る人は誰も来なった。




