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大樹の影には  作者: 稲葉 鈴


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6.清算をしよう

「おはようございます」

「ああ、おはようございます。よく眠れましたか」

「おかげさまで」



 錬金術師ギルドの受付カウンターにいたのは、昨日の昼の人でも宿の鍵を渡してくれた人でも、夜の人でもなかった。大きい街の大きいギルドだから、人もいっぱいいるのだろう。そう言えば誰の名前も知らないけれど、まあ別にいいのかもしれない。僕はこの街の錬金術師ではないのだから。


 ボドワンの町の錬金術師のギルドは、昼間と夕方くらいしか交代がないくらいの人数で回している。だからもう全員と顔見知りだ。顔馴染ではない。名前もちゃんと知ってる。多分。



「魔法の鞄の一時貸出ですね」

「あれ一時なんですか」

「そういう扱いになります。その後工房から傷薬を持ってきていただいて、鑑定をしてから清算になりますので」

「なるほど」

「元々購入前に一時貸し出しは行っていたんですよ」

「持ち逃げとか無かったんですか」

「アランさんにこの辺りで待機して貰っておけば防げますね」

「防げますね」



 そもそも戦闘能力がないゆえに保護が必要とか言われる錬金術師である。獣人の倉庫番の人がいる前でそんなことはそうそうする気は起きないだろう。きらきらしながらおいくらですか! ってなるのが目に見える。僕もそうだし。



「あと買える値段ではありますし」

「ローン頑張ればなんとかなりそうですもんね」

「というかなんとかなるお値段設定ですね」



 だなんてちょっとお喋りをしてる間に、魔法の鞄が準備される。


 大きながま口の、焦げ茶色の、ベルトポーチである。サイズは手のひらより大きいくらい。親指から小指まで、ぐっと、ぐっと広げたくらいの大きさ。もちろん手の大きい人ならそんなことはしなくてもいいけれど。



「一緒に行って使い方説明しますね」

「助かります」



 ポーチには二本の短いベルトがついていて、そこにズボンのベルトを通して使うタイプ。らしい。ベルトも別途購入しないといけないのかと思わず口走ったら、購買に寄ってくれることになった。ついでに朝ご飯も買う。



「ジャムサンドおすすめですよ」

「じゃあそれください」



 受付の人のおすすめにあっさりと乘ってしまう。だって別に、困らないし。


 それから革のベルト。魔法の鞄に取り付けられる太さになっていて、色も大体同じ。20ブラーとまあ高くはない。サンドウィッチ二つ分だけど。


 ズボンのベルト穴に通して装着する方が落ちなくていいと聞いたけれど、そもそも僕の履いているズボンにベルト穴はなかった。納品の時用に、ボドワンの町に帰ったら購入しよう。


 バイエで買って帰るのは、馬車の時間の都合もあってちょっと怖いし。



「鍵よ鍵。開いて」



 工房に入って、傷薬の淹れてある箱の隣に魔法の鞄を置く。口をがばっと開いて、開いて?



「瓶を一本か二本ずつ、入れてみてください。台の箱は入れないでも大丈夫です」

「はい」



 鞄の中で横になったりしないのかなとちょっと思ったけれど、大丈夫というなら大丈夫なのだろう。ちょっとずつ詰めて入れていく。



「全部、入った……」

「お土産も多分入りますよ」



 昨日の夜購買で買ったお土産たちだ。そうだ。後で焼き菓子を買いに行かないと。


 昨日買ったお土産たちは、工房に置いておいた。宿の部屋より工房の方が広かったし、どうせ帰る前に顔を出すしと思って。



「上に乗せる感じで?」

「手を入れても?」

「どうぞ」



 受付の人に言われたので、そっと鞄の前から退く。慣れない僕より、慣れている人の技を見てみたい。



「鞄に詰めた後にこうやって、ちょっと手を入れて奥に詰めてあげると、隙間が出来るんですよ。なのでそこに」

「入った!」



 魔法の鞄は、実際の鞄よりも沢山入る。魔法の鞄なので。基本的には水薬が五十本と、それからあとちょっと、らしい。水薬の瓶は錬金術師のギルドの規格品で、全部同じ大きさになるように、発注しているらしい。どこの国のどこの街のどこの錬金術師のギルドで購入しても、同じ大きさになるようにって。



「詰め方にコツが少しあるんですが、これは本当に慣れていただくしか」

「ぐ。頑張ります」



 教わりたかったけれど、どうやらそういう物でもないらしい。まあもう購入したら僕のものになるのだし、練習は出来る。というか、使うたびに練習することになるわけで。



「冒険者の方だったりすると、どんどん買換えて行って、詰め方を覚えなかったりしますね」

「それはそれで少し羨ましいような」

「そういう羨ましい方々を縁の下で支えるのが、我々です」



 そうして支えられた人たちが、格安で色々くれるので、格安で魔物素材の何やらが入手できるのだと言われれば、頑張るしかない所存である。


 ベルトポーチをベルトに通して装着。重さを感じないのはそうなんだけれど、それでもやっぱりずり落ちる。ベルト穴のついたズボンを買わねば。ちなみに、それは流石に購買でもお取り扱いがなかった。



「帰りは、持って来られた鞄に入れておくのをお勧めします。盗難も怖いですし」

「怖いですね」



 確かにその通りだ。魔法の鞄なんて見る人が見たら分かりそうだし、分からなくてもこんなずり落ちてるベルトポーチ、狙わないはずがない。鞄の中に魔法の鞄を入れておけばいい。


 出す予定の無いものを魔法の鞄に入れておけば、そして普通の鞄から大容量を取り出すとかしなければ、まあバレないだろうし。


 受付に戻って、お土産が入ったままの状態でベルトポーチから薬瓶を取り出す。五十本。


 階段を下りたし、当然腰に不格好に吊るしていたから中でぶつかって壊れそうなものなのに、そんなこともなかった。魔法の鞄凄い。



「それでは清算をしますので、購買でのお買い物はこのタイミングでお願いします。現金でのお支払いであれば、あとからでも可能ですが」

「あ、全額ローンに回る訳じゃないんですね」

「そうすると生活できなくなりますから」



 言われてみればその通りだ。沢山の錬金術師とやり取りがあるからだろう、手慣れている。


 僕は魔法の鞄から五十本の中級の傷薬を出して並べる。受付の人が一本ずつ光に透かして鑑定している間に、購買に焼き菓子を買いに行くことにした。


 持ってきた鞄に、腰から外した魔法のベルトポーチを仕舞う。ベルト抜かないとうまく鞄に入らないので、ベルトを抜いて、ベルトはくるっと丸めて魔法の鞄の中に仕舞う。よし。



「焼き菓子買ってきます」

「行ってらっしゃい」



 一声かけて、購買へ向かう。


 冒険者のギルドの方は盛況で、笑い声とかが聞こえる。ちょっと怖い。でもまあ多分、敵対はしていないので、いきなり取って食べられることもないだろう。


 冗談が通じるくらいの知り合いになったら、食べられちゃうかもしれないけれど。その時は多分、きゃーとか言えばいいんだろう。


 冒険者のギルドの購買と、錬金術師のギルドの購買は違う。もちろんお取り扱いの内容も違うだろうと思う。あっち見てないから詳しくは分からないんだけれど、こっちには薬草とか売ってるし。


 興味はあるのでちょっと薬草の棚も見てみる。今の所、必要なものはなさそうだ。ダンジョン産の薬草とか、興味はあるけれどまだ使い方分からないし。



「焼き菓子をください」

「はいはい」



 さっきに引き続き、購買のカウンターにいるのはオレリアさんだ。さっき受付の人がそう呼んでいたから間違いない。



「ご自宅用ならこっちの大袋、お土産用なら箱に入れるけど」

「自宅用でお願いします。帰りの馬車で食べます」

「どこだっけ」

「ボドワンのそばの森です」

「ちょっと遠いわね」



 ガラス瓶に詰められた貝殻型の一口大の焼き菓子を、オレリアさんは大きな白い紙袋にどさりと入れてくれる。量り売りじゃないんだ。



「二つお願いします」



 一つは魔法の鞄に入れておいて、明日の朝宿を出る前に普通の鞄に入れ直せばいい。勿論明日カバネルで買えればいいけれど、あの町よく知らないし。


 一袋25ブラーだから、二つで50ブラー。大したお値段でもないので、現金で支払いをしておく。財布自体は、薄くしておいた方が絶対に良い。取られたり無くしたりはない方がいい。


 受付に戻ると、清算が終わっていたようだ。



「初級傷薬の水薬が合計五十本で1200ブラー、中級傷薬の水薬が合計百本で4800ブラーになります。合計で6000ブラーですね。お支払いはどのようにしますか」

「ええと」



 貰ったリストを確認する。昨日買ったお土産も含めて、購買で買ったものは現金で購入してある。宿代が浮いたので、まだ何とか帰りの馬車題は残っている。


 カッティングボードが2500ブラー、はさみが2400ブラーだから、合計4900ブラー。後1100ブラー残っているわけだ。鍋と魔法の鞄のお値段としては、大分心もとない。



「カッティングボードとはさみだけ支払いでお願いします。鍋と鞄は後日支払いで」

「持って帰られますか?」

「魔法の鞄に入るのなら、そうしようかな。鍋は入らないですよね?」

「入らないと思いますので、そちらは後日ボドワンの錬金術師のギルドまでお届けしますね」

「お願いします」



 馬車の時間まではまだあるけれど、お支払いを終えたら錬金術師のギルドを出る。隣の冒険者のギルドはもう静かだ。皆仕事に出たのだろう。

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