82 それぞれの"覚醒"
前回のお話▷強くなるためにみんなでハティの血を飲んだ!うげぇ。
「ウィル〜! ごはんだよー!」
お昼、庭で『眷属』の魔物や動物たちと遊ぶウィルを呼ぶ。
「はーい!」
返事が聞こえた。と思ったら、ウィルはもう目の前にいた。
……ん?
……んんん?
「あれ、ウィルいま原っぱの端っこのほうにいたよね?」
ログハウスから原っぱの端っこまでは40メートルくらい離れてる。ここまで走ったとしても15秒はかかるはず。それを1秒で?
「なんかぼく、走るのはやくなったみたい」
ウィルはこてんと首を傾げて可愛く言うけど、速くなったどころの話じゃないと思います!
これは明らかに"ハティの血による覚醒"。
久々に『鑑定』をかけてみると、ウィルのスキルの欄に『駿足レベルMAX』が増えていた。
ハティの血は、人間の潜在能力を引き出すもの。だから"覚醒"。ってハティが言ってたけど……
てことは、ウィルは元々足が速いから、その能力が引き上げられてスキルに昇華したってわけかな?
じゃあ、私は? 私の潜在能力はなんだろう。妖艶美少女だから、やっぱり『誘惑』とか『魅了』とか色っぽ系のスキルが生えたりして。ふへへ。
わくわくと自分に『鑑定』をかけてみる。
あー、なるほどなるほど。こうきましたか。
私は黙って庭に出た。それから森に近づき、崖崩れの残骸を思わせる直径3メートルの巨大岩に手をかける。で、持ち上げる。で、投げる。
ブンッ
岩は空の果に消えていきました。
キラーン☆って。
某アニメの悪役が捨て台詞を吐きながら星屑になって消えてくかんじで。
私は黙ってログハウスに帰った。迎えたアロンが不思議そうに私を見る。
「どうしたんだい、ララ。顔が般若のようだよ」
「あれ、ほんと? は、ははは……」
私に芽生えた新しいスキル。それは、
『怪力レベルMAX』
「……なんでだよっ!!」
待って、ホントに待って?
ハティの血は、人間の潜在能力を引き出すもの。てことはなに? 私が元々力持ちだって言いたいの? 嘘だよ、そんなの。だって私、剣もまともに持ち上げられないひ弱女だよ?
それが一気にキングコング並みの怪力女に……
「うわーん、ハティ。私がキングコングになっても嫌わない? ゴリラでも愛してくれる?」
泣きつく私を、ハティは優しく胸の中に受け止める。くくっと低い笑い声がお腹に響いてきた。見上げると、楽しそうな笑顔がある。
「もちろん愛するが。しかしララ、筋肉ムキムキの女戦士になりたいのではなかったのか?」
これはちょっぴりバツが悪い。
「うん、まぁ、そんなこと言ったけどさぁ」
まさかキングコング並みの怪力女になるとは思わなかったんだもん。
「だって大っきい岩持って、空の果てにぶん投げられるんだよ? 目の前で私がそんなことしたらハティ、幻滅するでしょ? こんなんじゃ可愛くないよね、私……」
うつむく私のあごを、ハティの長い指が撫でた。上目遣いに見やると、ハティはどこか悲しげな表情。う、やっぱりゴリラじゃだめなんだ……
「俺はララにあまり強くなって欲しくなかった。最低限身を守れるくらいの力があればいい。あとはか弱く、ただか弱く、俺を頼って俺に縋って生きて欲しかった」
──ええっと、ハティさん……?
その薄笑いやめてください。なんか不穏だよぉ……!
しかし、と指先が私の唇をなぞる。
「ララが強くなりたいと願ったから。だから俺はまた新たに力を渡したのだ。ウィルと肩を並べて戦いたいのだろう?」
私は目をぱちくりさせた。驚き。
──ほんと、ハティにはぜんぶお見通しだね。
ウィルに置いて行かれたくない。
私が強くなれば、いつか冒険に出るウィルが私を戦力として連れて行ってくれるかも。なんて、強くなりたいって気持ちにはそういう下心もあった。それでもハティは……
私はぎゅっとハティの背中に手を回した。
「ありがとう、力をくれて」
「うむ」
ゆっくり、やんわり、頭をなでてくれる。
気持ちいい。なんだかたまらない。ハァ、好き。大好き。
「礼は……」
「うん?」
トントン、とハティが自分の唇を叩く。つまり、キスを所望と。
素早く周囲を確認。みんな食事の準備をしてて、たぶん気を利かせてくれてるんだと思うけどこっちを見ていない。
チュッ。
私はハティの唇……を少し逸れた頬に短いキスを贈った。
「あの、いまはこれが精一杯、です……」
ひぃぃ、脳みそが茹だりそう!
顔がカッカする。
「………まずいな」
低く呟いたハティが私を抱えるように抱きしめた。
「我慢がきかない」
へ? と心臓を騒がせた直後、「熱っ」とハティが声を上げた。アロンがスープの器をハティの頬に押し付けたらしい。おかげで私は脱出できたけど、ああ……心臓が痛い。
ハティってば、私を抱き上げてどこに連行するつもりだったの? よ、予想はつくけどっ!
だってハティ、あの瞬間、犬耳と尻尾がぽんって生えた。
ハティは性的興奮?がMAXになると人間の姿のままでも犬耳と尻尾が出現する。このサインは危険。逃げなきゃ美味しく食べられちゃう。
「何をするっ!」
「食事が冷めてしまいました」
「十分熱かったぞ!」
「おや、ほんとだ。湯気が出ている」
あーあ、また始まっちゃった。ハティとアロンのやり取りに思わず苦笑していると、
「だけど恐ろしいくらいの成長を遂げたものねぇ」
お皿を並べ終えたイヴがしみじみって感じで言った。
「『鑑定』で相手の能力を把握し、攻撃を見切る。毒持ちの植物を生やし、ヤバイ効果を付与したムチ振るい、かと思えば『亜空間』に消え、現れたところで巨大な岩を投げつける。しかもぜんぜん体力が衰えない。最初は普通以上に力のないか弱い少女だったのに、いまでは勇者級の戦士よぉ? 神だって殺せそうだわ」
並べて言われると、改めて自分の怪物具合がわかる。魔力もない、スキルもない、髪と瞳は黒いわで、私、昔はずいぶん虐げられたものだけど、いまはどんなやつでも膝まづかせる自信がある。願わくば、私を散々いじめた兄のギドにぽいっと岩を投げつけて地面に沈めたいです。むん!
ウィルと私に次ぎ、まもなくビビが"覚醒"した。
食後、元気に魔物狩りに出かけて行ったビビだけど、すぐに大興奮して帰ってきて、
「ララ! 見てくれ、ララ! これが私の必殺技だ!!」
私はビビに手を引かれてドーム近くの森へ入った。ビビは私から十分離れたところで剣を構え、そして素早い動きで円を描くように振り抜いた。
「ウィンド・ファング!」
勇ましい掛け声と共に、竜巻にも似た突風が発生する。びっくりした。狼の頭の形に具現化した竜巻は、切れ味の良さそうな牙で周囲の木々を根こそぎ砕いていく。一瞬にして直径5メートルの更地ができた。
「うっそー……」
ビビに『鑑定』をかける。するといままであった『剣術レベル7(+1になってた!)』に加えて新たなスキルができていた。
スキル『疾風レベルMAX』
ビビは元々風魔法の所持者だったから、その力がスキルに昇華したのかな?
風を起こせると言っても、いままでは葉っぱをそよがせるくらいしかできなかったのにー! とビビは大喜びだ。
「どうかな、ララ! カッコイイだろうっ?」
「うん、カッコ良すぎるよビビ! 可愛くて綺麗で強いとか何? もうもう、惚れそう!」
きゃーっと抱き合ったところで「あ、できた」とアロンの抜けた声が聞こえた。アロンもビビの必殺技を見についてきてたの? と横を見るとアロンが巨大な水の塊を宙に浮かせていた。ひえっ。
「ビビみたいに恥ずかしい技名はないけど、一応、水の魔法の進化系になるのかな? 敵を閉じ込めて窒息させたり洪水を起こして押し流したりくらいはできそう」
「恥ずかしいとはなんだっ! でもすごいなぁ! ちょっと羨ましいぞ。もう一度放って見せてくれ! うぉー! カッケー!!」
なんだろうなぁ、このビビの男子小学生感は。面白いし、大好きだけど、それでいいのかって時々心配になる。そんなビビをセオはいつも幸せそうに見てるし。甘い従者の腕の中ですくすく育ってきたのね、ビビたん。
アロンに『鑑定』をかける。するといままでにはなかったスキルが。
スキル『水牢レベルMAX』
水の……牢獄……? つょい。ていうか、ドSのアロンっぽい。囚人をいじめるドS看守! うん、似合う。とか考えてたら睨まれた。
「前から怪しいと思ってたんだけどさ、アロンって人の心を読めるスキルまで持ってるの? 『鑑定』にも暴けないなんて、こわい!」
「君の表情がわかりやすいだけだよ」
「あ、さようで……」
冗談はさておき。アロンも元々水魔法の使い手。ビビと同じく魔法がスキルに昇華したようだ。
「私もこれまで薬を作るのに桶いっぱいくらいの水しか出せなかったのに、すさまじい変化だよ。ちょっと戸惑うな」
うん、ハティの血の力ってすごい。悪い人に知られたら、大変なことになりそう。ま、ハティはすっごく強いから悪いこと考える人間ごときに捕まらないけどね。
ウィルと私、ビビとアロンも"覚醒"した。この状況に焦ったのは遅れを取ったセオだ。
あれから何日経っても変化が訪れない。自分には神の力を受け入れる土壌がないんだ。きっと前世は極悪非道の大罪人だ! と日に日に肩が落ちていく。いつもしゃんと背筋を伸ばした軍人さんらしいセオだけに、打ちひしがれる様は見ていられない……。ビビも心配したり励ましたりしてるけど、なぜか空回ってセオをますます落ち込ませるし。
「そろそろ変化に気づいても良い頃だが」
ハティの独り言を私は耳聡くキャッチした。その言い方、なんか引っかかる。ハッ、もしや……!
セオに『鑑定』をかけてみた。すると……
スキル『絶対把握レベルMAX』
やっぱり、スキルはとっくに芽生えてる!
絶対把握? なんか強そうだけど、どう使うんだろう? まぁそれはともかく、
「セオ! ちゃんと"覚醒"してるよ! 新しく『スキル』……じゃなくて『称号』ができてるよ! 元々持ってた『盾術レベル5』に加えて『絶対把握』っていう称号ができててね! つまりセオは称号2つ持ちになったんだよ!」
一刻も早く、と興奮してまくしたてたのがいけなかったのか。セオは強面の顔をぽかーんと緩ませて私を見つめた。大声にびっくりしちゃったかな?
と思ったけど違った。
「待ってくれ……」
セオは震える声で言った。
「俺が元々『称号』持ち? それも盾術だって? まさか」
まさか、ってこっちが言いたいよ。
いままでたくさん戦ってきてそんなことある? ってかんじだけど、セオは自分が『盾術』のスキルを持ってることを知らなかった。





