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69 美少女は何着ても可愛いってはなし


「ビビ様!」


「わーっ、ストップ!」


 トイレに駆け込もうとするセオを急いで止める。


「む、虫が出たんだよきっと! うん! たぶん、(ゴキブリ)! この前からいるんだよね、一匹。ぜんぜん捕まんなくてさぁ……」


「それならなおさら助けに行かないと! ビビ様は虫が大の苦手なんだ!」


「いや、それでよく森で一週間も過ごせたね……じゃなくて! どんな理由があっても女の子のトイレをのぞくなんて最低だよ、セオ! 許せない!」


「なっ……」


「私、虫得意だから! ここは任せて! ね!」


 私の目配せで、ウィルは事態を正しく理解。

 

「おそとであそぼ~!」


 全世界が涙する、完璧な対応力!

 セオ、アロン、ハティがツリーハウスへ連行されていく。


「ララちゃん……」


「言わないで、イヴ。わかってる」


 トイレの扉をおそるおそる開ける。

 手が震えた。これ、私だったら自殺案件だ。もう一生太陽の下へ出ていけない……


 キィ───


 ビビは床にへたりこんでいた。

 全身びしょ濡れで。

 絶望に沈んだビビの表情が、私の心を深くえぐった。


「ふぇ、ララぁ……」


「あああああ、ごめんよビビぃいいいい」


 とまぁ、さんざん騒いだけど、結論として、ビビはおもらし………じゃなくて、粗相?失禁? いや、これ、どんだけ丁寧に言おうとしても失敗な気がする。とにかく、乙女の尊厳を失ったわけじゃなかった。

 じゃあ、なんでびしょ濡れかと言うと……


「ぎゃー!! ララ、水が、水が襲ってくるぞ! ハッ。水魔法の使い手が我らを攻撃しているのか!? 誰だ、出てこい! 私が相手をしてやる!」


 勝手がわからず色々やってるうちに、便器横のレバーと、手洗い用のシャワーヘッドを引っ張って破壊。ビビはそこから溢れ出した水を頭からかぶってたってわけ。


 引っ張って……普通、壊れるかな?

 皇女様の細腕で?

  

 トイレの中はひどいありさまだった。

 金属レバーの残骸が床に散らばってる。これ、修理できるのか? ちょっとあやしいかんじ。


 いずれにせよ、この事態を招いたのは私。

 ぽっとん便所しか知らないこの世界の人たちにとって、日本のトイレは宇宙人の産物だ。一見して使い方を把握するのは無理。なのに、私ってば、ビビを未知の宇宙に放り出してしまった。

 だけど、偉いよ、ビビ! ちゃんと便器でおしっこできただけ、すっごく偉い!


「だいじょうぶ。誰も攻撃してきてないよ。このトイレはね、これこれこういう仕組みで───」


 なんとかビビを落ち着かせて、立ち上がらせる。


 ジャケットの下は、薄手のシャツ一枚だけ。

 水はビビの茶色い下着を浮き上がらせた。

 わお、ハプニングラッキースケベ。

 正統派美少女の濡れ姿、おいしい。


「あ、そうだ」

 

 そのとき、私は素晴らしい考えを思いついた。

 むふふ、と笑ってビビの肩に手をかける。


「濡れちゃったし、着替えよっか、ビビ」


「これくらい放っておけば乾く──ちょ、ララ? え?」


 はい、聞こえませーん。

 ビビは私の部屋に強制連行です。


 クローゼットオープン!

 ずらーっと並ぶ、パステルカラーのワンピースたち。どれを着せよっかなぁ。

 選ぶの楽しい。私を着せ替え人形にして楽しんでたイヴの気持ちが、ちょっとだけわかっちゃった。


「あの、ララ? まさかとは思うが、これを私が着るの?」

 

「そうだよ」


 ビビが青くなって震えだした。


「む、むりだ、私にはこんなふりふり」


「皇女様時代はふりふりドレスばっかり着てたんじゃないの?」


「着てない! 私はずっと騎士服で過ごしていたんだ」


「え、でも、パーティーのときとかは……」


「……私には誰も女を期待していない。ボロをまといさえしなければ、男装だって許される」


 うーむ。ビビの国も、なかなか闇が深そうだね。


「ビビ」


 私はビビの手を取って、悲しげな水色の瞳をのぞきこんだ。


「私もね、つい最近まで黒いワンピースしか着たことなかったんだよ。14年間も。そのせいですっかり黒に慣れちゃって、だから、色付きのこういう可愛い服を着るの、すっごく勇気がいった」


「それは、その、黒髪のせいで……?」


「そう、黒髪のせいで。『不吉なお前には葬式服が似合いだ』って言われて」


「なんだそれ……! 最低だな!」


 自分が言われたわけじゃないのに、顔を真っ赤にして、本気で怒ってくれるビビ。


 好き。


 おなかの中がポカポカする。


「でもね、私、この黒い髪も、黒い目も、好きなんだ。誰がなんと言おうと、きれいだって思えるし、こういう可愛い服だって、きっと似合うんだよ」


「私も黒は嫌いじゃない。セオがきれいだと言ってくれたから……」


 ぽっと頬を染めて恥じらう美少女。なんだこれ、破壊力がはんぱないぞ!

 男っぽい服着てこれだから、可愛いワンピース着たらどうなってしまうんだ!

 あまりの可愛さに、セオは気絶してしまうかもしれないね!


 ……と、ここまですべて心の中で言ったはずなのに、ぜんぶ言葉に出てしまっていたようだ。ビビはますます頬を赤くして、もじもじする。


「セオはこういうの、好きだろうか」


「好き好き、ぜったい好き!」


 男心なんてこれっぽっちもわかんないけど、女の子っぽく変身したビビを、セオが可愛いって思うことくらいはわかる。


「じゃあ、着てみる……」


 っしゃ!


 そこから私は、ビビを超特急で"お姫様"に変身させた。デコルテがしっかり出るタイプの水色のワンピースを着せて、ポニーテールの髪はほどいてハーフアップに。お母様からちょうだいしてきた真珠のイヤリングをつけて、これまたお母様からちょうだいした赤い口紅でぷるるん唇をほんのり色付け。


「ふぉぉぉぉ………」


 ビビのあまりの神々しさに、私は思わず両手を合わせて拝んでいた。


 これは罪深い……


「あの、ちょっとは見られるかんじか……?」


「うん、めっちゃ見られる。永遠に見てられる。おし、行こう! すぐに行こう! その可愛いさを見せつけて、セオを失神させてやるんだ!」


 半分冗談だったこの計画は見事に成功。

 ビビを見たセオはたっぷり1分かたまって、たらーっと鼻血を垂らしたかと思うと、真後ろにぶっ倒れてしまった。


 うそやん。そこまで?


「あのさ、わかってると思うけど、彼は病み上がりなんだよ。あまり刺激の強いものを与えないでくれない?」


 アロンに怒られた。

 

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