60 『眷属』化の理由
あわわわわわ、ウィルが食べられちゃうよ……!!!
「大丈夫だ、ララ」
いつの間にか、すぐ側に来ていたハティに腰を支えられる。
「大丈夫って!? あれのどこが大丈夫なの!」
NHKのアフリカ大陸特集で、ヌーを食べる巨大蛇を見たことがある。大蛇はヌーの体を絡め取り、締め上げ、殺してから丸呑みするのだ。
ウィルの体を絡め取った巨大な白蛇が、その時の映像とリンクする。
イヤ─────っ!!!
ウィルを助けるため、走りだそうとしたその時。
「きゃはははは!」
ウィルの楽しそうな笑い声が聞こえた。
その笑い声を合図にするように、巨大な白蛇がウィルから離れた。チロチロと赤い舌を出しながらウィルにじゃれる様子は、「褒めて」と言っているようだった。
これ、は………
「びっくりしたぁ?」
無邪気に駆けてくるウィル。私は夢中で抱きしめた。
「びっくりなんてもんじゃないよ! もう、ウィルが食べられちゃうかと思ったじゃん! はぁ、まだ心臓がドキドキしてる……」
「姉さま?」
私の顔を覗き込んだウィルが息を呑んだ。
「ごめんなさい。姉さま、なかないで」
泣く? 本当だ、涙が出てる。たぶん、安心したんだと思う。
「ごめんなしゃ……」
う、う、とウィルが泣き出してしまう。
私が怒鳴ったから? 泣いたから?
いやぁぁぁぁ、泣かないでぇぇぇ!!
罪悪感で胸が押しつぶされるぅぅぅ!
「ごめんごめん、姉さまびっくりしただけだから。怒ってないよ? よしよし、大丈夫だからね」
「うっ、ひく、ごめんなしゃ、姉しゃま。ぼく、大っきくなったスーを見せようとおもっただけなの」
「うんうん、ちゃんと分かってるよ」
と、ハティがウィルの側にしゃがみ、大きな手で頭を撫でた。
「それ以上泣くな、ウィル。強い剣士は決して泣かぬものだぞ」
ふぎゅ、と何か飲み込む音がして、ウィルが口を引き結ぶ。頑張って泣かないように耐えてるみたいでぷるぷるしてる。ごめん、不謹慎だけど、その顔めちゃくちゃかわゆいですね。姉さまの心のアルバムにしまっておくね。
ウィルの頭をコツンとつつく白い塊。さっきの白蛇だ。
びっくりしたぁ、気配なかったんだけど!
さっきより小さくなってる。普段は30センチ、さっきは20メートルほどで今はウィルの背丈と同じくらいの120センチといった具合。
大きさは変幻自在なわけ?
「"れべるあっぷ"したから大っきくなれたって、スーが言ってる!」
蛇が大きくなった理由を、ウィルが教えてくれる。
しかし、"レベルアップ"ね。スキルがレベルアップしたら機能がグレードアップするように、魔物はレベルアップすると強くなるのかもしれない。
「概ね、その認識で合っている」
ハティに聞いたら、やっぱりそうみたい。
「でも、何で急に? 魔物がレベルアップする条件って何なの?」
「様々あるが、通常は自分より同等か、それ以上の強さを持つ魔物を殺し、食らうことだな」
「じゃあ、このトルネードスネイクも……」
ウィルの部屋にはたくさんの小さな魔物たちがいる。もしかして、その子達を……
「このりんごのおかげだって言ってたよ」
ウィルが教えてくれる。
あっ、物騒な想像してすみませんでした。
て、りんご? それ、私がお庭で『創造』した青森県産のふじりんごだね。これを食べたら、レベルアップしたと?
なるほど、とハティが頷く。
「自ら敵を倒せぬ弱い魔物は、魔物の死骸を食らい、その生命力を得てレベルアップする。ララが『創造』した植物はララの『生命力』により創られているからな。りんごを食った魔物がレベルアップするわけだ」
「ええっ。てことは私、今まで『創造』してきた植物に生命力を吸い取られてたってこと? まさか、そのせいで寿命縮んでたりとか……」
ぶるっと体が震えた。
やだよ、そんなの。私、100歳までは絶対に生きて、ウィルのひ孫までおがむつもりなのに。
「大丈夫だ。生命力は体力とも言い換えられる。スキル『体力∞』を持つララの生命力は常に補充され続ける。寿命が削られることはない」
なーんだ。ほっ。
「もう一つ、分かったことがある。やつらが勝手に眷属化した原因も、おそらくララが『創造』した植物にある」
うんうん、うん?
ポケーっとしていると、察したハティが詳しい説明を始めてくれた。うう、理解力足りなくてすみません……
「通常、魔物は自分より強い者の魔力を認め、眷属にくだるのだ。ララに魔力はないが、やつらはララが『創造』した植物を食らうことでララの力を認め、眷属にくだったのだろう」
「……あ!」
ハティの話を聞いて、ピコンっとひらめくことがあった。
「ねぇ、じゃあさ、私が作った果物を食べさせれば『中立の森』に住むこわーい魔物もみんな仲間にできちゃうんじゃないの!?」
すごい、私さえてる!
もしそれが可能なら、コーネットに差し向けるいち軍隊、できちゃうんじゃない!?
けど、興奮する私とは対照的に、なぜかハティは難しげな顔。
「ううむ、おそらくこの方法で眷属に引き入れることができるのは、ある程度弱い魔物に限られると思う」
「えー! なんで!!」
「強き魔物はプライドも高いゆえ、戦いで強さを測りたがるのだ。果物を食べたくらいじゃぁなびかんだろうな」
「そんなぁ。いい方法だと思ったんだけどなぁ」
がっかり。せっかく怖い魔物への対抗手段が見つかったと思ったのに。
「あ、でもそうなると、ウィルは?」
魔物たちが私の『創造』した植物を食べて"弱い魔物"が眷属化したことはわかった。でも、『植物創造』はあくまで私のスキルであって、ウィルのスキルじゃない。私の眷属となるのと同時に、ウィルの眷属にもなっているというのはどういうことだろう。
「さぁ、それは分からない。おそらく、意思の疎通ができる人間が珍しく、やつらが面白がって自主的に眷属になっているのだろう」
面白がってって。そんな理由で命預けていいんですか、魔物さんたち。
眷属にした魔物は、あらゆる命令に忠実に従う。たとえば、命を捨てろとの命令でも。眷属になる魔物は、きつい重責を自らに課すことになるのだとハティは言う。
けど、ウィルは優しいから。魔物たちに命を捨てろなんて命令は絶対にしない。魔物たちも、そのあたりをよくわかっているからこそ、ウィルの眷属になったんじゃないかな。
・ララ・コーネット
・14歳
・スキル:『鑑定レベル5』『収納レベル4』『安寧の地レベル6』『体力∞』『植物創造レベルMAX』
・眷属:ピッピ他(一角獣×7)、アオ(ブルーサファイア)、モカ他(火鼠×10)、スー(トルネードスネイク)、キキ他(居眠りアナグマ×2)
・称号:神々に愛されし者
・ウィル・コーネット
・6歳
・スキル:『剣聖』『体力∞』『真実の目レベルMAX』
・眷属:ピッピ他(一角獣×7)、アオ(ブルーサファイア)、モカ他(火鼠×10)、スー(トルネードスネイク)、キキ他(居眠りアナグマ×2)
・称号:天使





