59 新しい服のお披露目と、過保護なハティ
トタトタと、ウィルが庭と二階の部屋を行ったり来たりする音が響いてる。
どうやら、ツリーハウスにいるお友達を自分の部屋に連れて行ってるみたい。
部屋をのぞくと、動物園二号地が完成しつつあった。開け放たれた窓から、色とりどりの小鳥たちがどんどん入ってきてる。
部屋の中でも靴で行動しているとはいえ、野生動物をたくさん招き入れるのは衛生的にどうなんだろうって、ちょっと心配になる。
「あんまりお部屋を汚さないようにね」
「だいじょうぶ! みんないい子にできるよね?」
小動物たちが一斉に頷く。……おぉ、手懐けておる。そういえば、ここにいる子達のうち、魔物はみんな『眷属』なんだっけ?
足首にふさりとしたものが当たった。見ると、スカンクみたいな魔物がしっぽを使って床を掃き掃除してるところだった。頭を下げられたので、思わず頭を下げ返す。また掃除を始めた。………うん、色々とツッコミどころ満載だけど、部屋が荒れることは無さそうで何より! よ、よし、退散!
今日もウィルは、動物たちと会話できる素敵可愛いイケメンな剣士(?)への道を順調に歩んでいます。
外はからっと晴れていて、窓から時折吹き込んでくる風は生温い。春は終わり、夏が近づこうとしている。
コーネット産の教養本によれば、この世界にも四季がある。そして、中立の森付近の土地も、春夏秋冬と季節が移り変わるようだ。夏が来る前、少しの梅雨もあるとのこと。
ちょっと早い気もするけど、ウィルの服も含め衣替えを済ませてしまうことにする。
分厚い生地の洋服を『収納』し、かわりにアカツキの街で用意した薄い生地の服を取り出す。
どさっと『収納』から出てきた洋服たち。アロンから買ってもらった服を前に、私は少しの間途方に暮れた。
やっぱり抵抗があって、なんやかんやと言い訳しては後回しになっていた色付きワンピース姿のお披露目。季節が変わる。もう逃げられない。
ワンピースのひとつに、おそるおそる手を伸ばす。
まったくもう。なんでパステルカラーばっかしかないわけ? こんなことなら暗い色の服も、ちょっとは自分で買っとくんだった。
「わぁ、姉さまかわいい!」
「とってもステキよ」
「きれいだ……」
みんなの視線にさらされ、私は恥ずかしくて縮こまる。
選んだのは、七歩袖の白いワンピース。襟と袖の部分がレースになっていて、とても可愛い。胸元も編み込みで調節できるから、苦しくなくていいかんじ。
だけど、自分に似合っているのかどうか……
鏡を確認しても自信が持てなかった。黒以外を着る自分を見るのは初めてだから、違和感があるというか……
「白はいいわねぇ。お顔がぱっと明るくなるわ」
毎日魔法で衣装を変えているおしゃれさんのイヴは、「ララちゃんもやっとおしゃれに目覚めてくれたのね」と満足げだ。
他の色のワンピースもたくさんあると言うと、瞳があやしく光る。あとでわかることだけど、この瞬間、私はイヴの着せ替え人形になることが確定していたのだった。
ウィルもイヴもいっぱい褒めてくれたけど、一番はハティだ。いつも以上に背中にべったり張り付いて、私をしきりに褒め続けた。
似合ってるとか、ララのために作られた服のようだとか、センスがいいとか。
この服が私に似合ってるのだとしたら、それはアロンの見立てがよかったからだ。
褒められるたびに、アロンの手柄を自分のものにしてるみたいで居心地悪く、私は白状した。
「これぜんぶ、アロンが見立てて買ってくれたの」
すると、ハティは途端に渋い顔。
何か、アロンへの文句を考えてるみたいだけど、服は私に似合ってるし(少なくともみんなの中では)、お金はアロンが出してくれたしで、文句のつけようがない。
で、結局、苦しい捨て台詞しか出てこないわけで。
「あいつの贈ったものがララの肌をおおっていると思うと……いますぐその服、破り捨ててやりたい」
「あーあーあー、ハティ、そういうことは?」
「言わない約束だった」
ケンカして仲直りしてから、ハティはずいぶん聞き分けがよくなった。アロンとも仲良くすると約束してくれて……まぁ、これは少し嫌そうではあったけど。でも、我が家のモットーは『みんなで仲良く幸せに』だから、わかってね?
さて、エプロンつけて(これもアロンが買ってくれたやつ。ちょっとふりふりしすぎてる気がするピンクのレース)、今日もやりますか!
朝ごはんの後は、植物たちへの水やりと決まっている。
キッチンの水道水を桶に溜めて、庭を行ったり来たり。スキル『収納』があれば水やりも楽ちんなのだけど、筋トレのために、あえて手で持ち運ぶように変えた。
なぜ筋トレが必要かって? それはね、さいきんお腹と二の腕のお肉が目立ってきたからだよ……
これはきっと、美味しいご飯の食べ過ぎと、行動範囲の狭さによる圧倒的な運動不足のせい。
ちょっと前まで胸以外ガリガリっていうアンバランスな体型に悩んでいたのに、まさか、ダイエットに悩む日が来るなんて思わなかった。
最初は持つのもままならなかった桶も、いまではだいぶ楽に持ち運べるようになってきた。まだ何日やっただけだけど、筋力アップを実感する。
この調子で鍛えて、引き締まったボディを手に入れるのだ。美少女具合にさらに磨きがかかって、困っちゃうね。ぐふふ。
惜しむらくは、コーネット産の高級シャンプーと石鹸が尽きかけてきたことだ。
せっかくのつや髪となめらか肌を維持してるのに、このままじゃマズイ。
きゃっきゃと楽しそうな声。幸せBGMに目を細めて原っぱを見ると、ウィルが動物たちと駆け回っている。
ウィルの金髪には、光沢のある天使のつやリング。あの美しい御髪を護らなければ。ぶっちゃけ、私の美貌維持より100倍大事なことだ。
シャンプーと石鹸、アカツキの街に売ってるかなぁ。あるよね、きっと。
お金に糸目はつけない。最高級のシャンプーと石鹸を購入しよう。なんたって、薬草取引のおかげでうちはめちゃくちゃお金持ちだからな! わーっはっは! むしろ、コーネット産より良いものを買って、ウィルの美貌にもっと磨きをかけよう。うむ。
次のお水を汲んで、っと。
「ララ……」
うるんだ瞳で見つめてきても、無駄なんだからね!
あ、またしゅんと垂れた犬耳の幻覚が……
ハティは玄関口で"ステイ"させてる。隙あらば水やりを手伝おうとしてくるんだもん。強い口調で"ステイ"を命じないと、筋トレなんてできたもんじゃない。ハティは私を甘やかしすぎるんだ。
イヴ? もちろん、ソファでごろ寝してるよ。食っちゃ寝生活は怠惰すぎるけど、これがイヴなので仕方ない。諭すことはもうとっくに諦めてる。
「姉さま~! 見てて~!」
ウィルが手を振ってくる。うんうん、見てるよ。姉さまは愛しい天使のお姿ならば永遠に見てられるよ。
ウィルはツリーハウスの前にいる。一匹の小動物を地面に置いて……あれは蛇だね。最近『眷属』に加わった白蛇の魔物。『トルネードスネイク』って言ったっけ? ウィルが首に巻いてるのを見たことがある。
何か指示を出してるみたい。あ、もしかして何か芸でも見せてくれるのかな?
小さな魔物使いさん、かわゆい。
ほんわかと観察してた私は、だけど次の瞬間絶叫した。
白蛇が超巨大化し、ウィルの体を絡め取ったのだ!





