58 仲直りをしよう レベルアップ〜『鑑定』レベル5
念願の"白ご飯"生活、3食目。
昨日のお昼に真っ白なお米をつける稲穂を『創造』してから、夜ごはん、朝ごはん、と食べてきて、このお昼で3食目になる。
3食目にして、やっと記憶を飛ばさずに味わって食べることができた。
そう、前2食はあまりの感動で頭がバグってしまい、幸せとわずかな倦怠感を残して記憶が消えていた。
こわい。危ない薬でもやったみたいだ。
でも、この芳ばしい香り!
光を受けてかがやくツヤッツヤのフォルム!
舌に広がる甘み!
ちなみに、蓋付きの土鍋で炊いてるので、おこげもばっちり!
記憶がとんじゃっても仕方ないくらいの衝撃があると思うんだ。
「おいじぃよぉぉぉぉ」
むせび泣きながら白ご飯をほおばる私を、みんなドン引きで見てる……なんてことはない。なぜなら、みんなも同じような状態だからだ。カッと目を見開き、涙を流しながら、よくわかんないことを叫んで白ご飯をかきこんでる。
幸せも過ぎると苦しみになる。食卓は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
白ご飯を口に運ぶたび、胸がきゅうと締め付けられる。
私、気づいちゃった。これが恋する乙女心ってやつなのかもしれない。イヴが言ってた。恋すると胸がきゅうと締め付けられるって。
私、白ご飯に恋してる……!
と、食事が終わったあとも幸せの余韻にどっぷりひたる。
テリーヌ(お肉レバーをすりつぶしたものを型に入れてオーブンで焼く)用の土鍋があったのは幸いだった。
ただ、お茶碗とお箸がないのは残念。平たいお皿に盛ってフォークで食べるいまのかんじだと、「ごはん」じゃなくて「ライス」って呼ぶべき雰囲気だ。別に問題はないんだけど、日本人の心が、お茶碗とお箸を所望してる。あと、どんぶり用の器もほしい。
お米文化が根付いたアカツキの街になら、あるかもしれない。買い物リストに入れておこう。
そして、午後のおやつの時間。焼きリンゴと紅茶を用意してみんなを呼ぶ。この頃になると、白ご飯で昂ぶった心もだいぶ落ち着いている。
「あれ、ハティは?」
「ごはんのあと、おそとに行ってたよー!」
ウィルが席に着きながら答える。
「まだ帰ってきてないんだね」
白ご飯の感動は、ケンカ中の私とハティの間に平和をもたらす。だけどそれはつかの間で、食後の私はやっぱり冷たい態度に戻ってしまう。
傷ついた顔をしたハティがふらふらと外へ出ていったところまでは横目に見ていた。
このままじゃだめだって、わかってる。
家の中の雰囲気は悪くなる一方だし、私も、いつまでも怒ってるのはしんどい。
ふぅ、と深呼吸。
よし。ハティが帰っきてたらちゃんと仲直りしよう。気まずくても、逃げない。気合だ。
「ウィル、頬に泥ついてる。今日は何して遊んでたの?」
濡れ布巾で拭いてあげると、ウィルはまん丸お目々を嬉しそうに細めた。
「もぐらさんたちに穴ほりおそわったの」
「上手く掘れるようになった?」
「うんっ。ぼくね、もうこーんなに大っきい穴ほれるんだよ!」
手をいっぱいに広げて、穴の大きさを一生懸命に伝えてくる。
うんうん、すごいねぇ。ウィルは天才だよぉ。でへぇ。
私の弟が可愛すぎる件。笑顔が眩しい。天空の城の王家の末裔よろしく目がやられてしまいそうだよ。
「ていうか、イヴ! つまみ食いしちゃだめだよ!」
まったく、油断も隙もない。
偉大な女神様のはずなのに、イヴをいまいち敬えないのは、たぶん、こういう俗っぽい部分を多く見ているせいだ。そう、お行儀悪くつまみ食いしたりね。おかげで変な遠慮もなく仲良く暮らせているんだけど。
……もしかして、イヴの態度はそれがねらい?
「いいじゃなぁい。焼きりんごが冷めちゃうわ。先にいただきましょうよぉ」
机を叩いて駄々をこねるイヴ。
……うん、ないな、ないない。イヴは自然体のまま生きてるだけだわ。
と、その時。
一陣の風が窓から吹き込み、庭に白銀のきらめきが舞い降りた。狼の姿をしたハティだ。
「あっ、ハティかえってきたぁ!」
迎えに出たウィルが、人間の姿に変わったハティの腕を引き、玄関をくぐる。
二人が入ってきた途端、ふわっと花の香りがした。
「ララ……」
灰色の双眼が、懇願するように私を見る。
最上級の美貌がいつも以上に美しく見えるのは、たぶん胸に抱えた花束のせいだ。
色とりどりの小花たちで出来た花束を、私に差し出す。
「どうか、許してほしい」
悲壮感を漂わせるハティには悪いけど、私は今にも笑いだしてしまいそうだった。
だって、あまりにも、やることが可愛すぎるんだもん。
ずるいよ、こんなの。こんなことされたら誰だって許しちゃう。
「姉さま、ハティとなかよくして。ぼく、ふたりがきらいきらいなの、やだよ」
私とハティの手を握るウィルは、泣き出しそうだった。
「ウィル……ごめん」
心配させちゃってたんだ。
あんな、悪意にまみれた家からせっかく抜け出せたんだもん。みんなで仲良く暮らしていたい。嫌な雰囲気をずっと引きずってたらだめだよね。
「ハティ、もう怒ってないよ」
「! では……」
「許してあげる。でも、今度から、その、色々と気をつけてね。やめてって言ったら、ちゃんとやめて。ドキドキして、おかしくなっちゃうから……わかった?」
涙の膜が張っていたのか、大きく開かれた灰色の瞳が輝いた。
「ララっ! ああ、わかった。もうララの嫌がることはしない!」
ガバッと、勢いをつけて抱きしめられる。太陽の匂いに加えて、かすかに草の匂いがした。
「って、そういうとこだよ」
「あ、すまない……」
しゅんと垂れ下がる、幻覚の犬耳。
「なかよし、しよ?」
ウィルが、私とハティの手をかさね、あくしゅさせる。
"なかよし"は、仲直りのことかな?
「わかった。仲良し、仲良し! これで仲直りね」
「うんっ!」
満足げに頷くウィル、ぐぅかわです。
ハティを迎えて、改めておやつの時間にする。笑顔があふれる食卓。
やっぱり我が家はこうでないと。
やっといつもどおりの雰囲気が返ってきて、ほっとした。
ハティがくれた花束は、花瓶に生けて、リビングにかざることにした。コーネットで死蔵していた花瓶は花を得て、心なしか嬉しそうに見えた。
それにしても、ハティがくれたお花、すごく奇麗。
なんて花だろう。
『鑑定』をかけてみる。その途端、レベルアップのお知らせが響いた。
《レベルアップ!『鑑定』レベルが5になりました。説明文が一文追加されます。説明文が5行になりました》
『鑑定』結果を見て、頬がぼっと燃え上がる。だって、これ……
5行目は、花言葉の説明文だった。
赤ランカ。熱烈な愛。
黃ランカ。あなただけを見つめています。
青ランカ。決して変わらぬ愛。
桃ランカ。私の思いを受け止めて。
「気に入ったか?」
振り返ると、私の髪をもてあそぶハティがいる。笑みをたたえた口元。花言葉は意図的なものだと悟った。
なんだろう。私、順調に絡め取られていってる気がするよ。





