57 ララは怒ってる
おはようございます。
突然ですが、私は死んだのでしょうか。
隣で眠る神々しすぎるイケメンの寝姿を見れば、そうとしか思えません。
イヤァァァァっ!!! お腹掻かないで! ふ、服、めくれてるってば! ふ、腹筋が……ふつくしい縦筋が……!
両手で目を覆いながらも、指の隙間からばっちり見てしまう。もう、しっかりと。脳裏に刻み込んでしまう。
白いシーツの上に広がる白銀の長い髪、そして同色の長いまつ毛に朝日が反射して、この世のものとは思えない幻想的な光景を創り出している。
神話の中で描かれる神様みたいにきれい。って、ハティは神様そのものなんだった。
ハッ
ていうか、人間の姿になっとるやないかーい!
ハティの嘘つき! 寝るときは狼の姿でって言ったのに!
あとで文句言ってやる!
と、とにかく今は、目の毒になるモノはしまいましょう。
そーっと手を伸ばして、服の端を引っ張る。だんだん隠れていく腹筋と縦筋。ハティは起きない。よしよし、いいかんじ。
しかし、ギリシャ神話風の服ってほとんど一枚の布を紐で縛ったみたいなやつだから、着崩れしやすいみたいだね。これはアカン。どうにかせねば。
「ふっ」
薄く開かれた灰色の双眼と目が合った。
「良いぞ。好きに触ってくれ」
………およ?
「………はぁ!? ちが、これは!」
どうやら重大な思い違いをしているようだ。それも、乙女の尊厳に関わるような。
どう誤解を解こうかおろおろしていると、ハティがお腹を抱えて笑いだした。
「………いつから起きてたのかな?」
「ララが俺の腕を離れた時から」
最初からやないかーい。
てことはあれか。美しすぎる腹筋を凝視してたこともバレてるってわけか。
………死にたい。
「男の体に興味を持つことは、男を恋愛対象として意識する第一歩だ。ララの成長を感じ、俺は嬉しく思うぞ」
やーめーてー。傷口を抉ってくるスタイルですか、そうですか。
「あさ、朝ごはんを──きゃっ」
「まだ早い。もう一眠りしよう」
朝ごはん作りに逃げることはお見通しだったみたい。ベッドに引き戻され、背後からがっちりホールドされる。足まで絡ませてきた。手がするすると上の方に………胸元に侵入してくる。
って、うぉぉぉぉぉぉぉい!
「ハティ! いい加減にしないと怒るよ!」
「んー?」
かすれ声で寝ぼけてますアピールしても無駄だから!
「はな、離して!!」
「姉さまおはよーう!……っ!」
なんてこった。タイミングよ。
押し問答の末、私もハティも着崩れしまくった状態で抱き合う姿を、朝の挨拶をしに来たウィルくんに目撃されてしまった。
「ちが、違うんだ……!」
ウィルくんよ、固まらないでくれ。
男女がベッドで抱き合っていると、勘違いされるであろう"事"の意味を君はまだ知らないだろうけども!これがその知識を得るきっかけになってしまったらたまらない。
「ウィルくーん……?」
大丈夫かな? めっちゃ震えてる。
「イヴ~!! ハティが姉さまをいじめてる~!」
数秒の沈黙後、ウィルはそう絶叫しながら、イヴを呼びに走って行った。
なるほど。この状況を、そう捉えるわけね。
ある意味正解だ。
「お馬鹿」
ほどなくやってきたイヴは、ハティの頭に手刀を落とした。
色々触られた感触がまだ全身に残る私はそれどころじゃなくて、ベッドの隅で頭から布団を被って隠れてるところ。
「すまなかった。少しだけ、やりすぎた」
少しだと!? あ、あんなことや、こ、こんなことをしといて、ハティの中ではあれが『少し』だと!?
「………ハティなんか、もう嫌い」
別に、本当に嫌いになったわけじゃないけど、この時の私はけっこう怒ってたんだ。やめてって言ってもやめてくれなかったハティはちょっと怖かったし、ウィルに見られたのもショックだった。
怒ってるんだよって態度で示すためにハティに冷たく当たること数時間。
……やめ時がわかりません。
簡単に許すのも癪だけど、ハティは真っ青な顔で今にも死にそうだ。
そろそろ許してやるかな……
「ララ……」
背後に来たハティを、ふんと無視する。
……あ、またやっちゃった。ハティは雷に打たれたようにその場に硬直する。この反応も、もう何度目かわからない。
イヴはこの状況を楽しそうに見てる。ウィルはひたすらおろおろしてる。
「ララ……あの、皿を洗っておいたぞ」
朝食で使用した食器類を全て洗ったと、ハティがにっこり笑顔で報告してくる。
「うん」
あー、だめだだめだ、どうしても素っ気なくしちゃうよう!
気持ちは許してるけど、恥ずかしかった記憶は消えないわけで。
あれ? いままでどんなふうにハティと接してたんだっけ。
あ────。
これ、泥沼化するやつ。





