56 部屋割り
『2階部分』にある2部屋を、イヴとハティ用に整えることにする。
ちょうどよかった。人間姿のハティとは、いっしょに眠れないもん。
イヴも、いつまでもソファじゃなんだしね。
10畳ほどの部屋が左右に2つ。
それぞれの部屋に絨毯とベッドを準備する。
ベッドは私とウィルが屋敷で使っていたシングルベッドだ。
屋敷から持ってきたのはお母様のと私のとウィルのだったから、これで全部。
「ぼくこっちのへやね!」
ウィルが右側の部屋に駆け入り、ベッドにダイブした。
…………ん?
「ウィルは一階の部屋で私と寝るんだよ?」
お母様のキングサイズベッドで、これまで通りくっつき合ってラブラブ眠るんだよ?
………だめだった。ウィルがぐずりだした。自分の部屋が欲しいと譲らない。困った。そして悲しい。
「ぼくもう7さいになったからひとりでねれるもん」
ああああっ、ウィルがどんどん独り立ち志向にぃ……! やだよぉ、ずっとずっと甘えん坊さんでいてよぉ……!
そしてウィルくんよ、君はまだ6歳だ。
しれっと2ヶ月くらいサバ読んだね?
どうしよう。ウィルは一度言い出したら折れないんだよなぁ。
でも、イヴとハティ用の部屋が……
「わたしはこのソファが気に入ってるの。ここにいたいわ」
だから、部屋はいらないというイヴ。これまでどおり、一階のソファを自分の陣地にするらしい。
イヴは常にそこにいる。もう、ヌシってかんじ。
イヴがそれでいいいうなら、私はいいけど。
イヴが使ってるソファは、たぶん、コーネットの屋敷にあった中で最も高級なソファ。ベッドで眠るより、むしろ心地よいかもしれない。
小さい頃に連想してた、ふわっふわの雲の感触。一度座ったらなかなか起き上がれない……って、イヴが怠惰になる原因はあのソファか!
なんなら、ソファを二階に移してあげようか?って言ったのに、イヴはそれも断った。
昼間はリビングにいるみんなを眺めながらソファでごろごろ、そのまま寝落ちして、リビング横のキッチンで私が朝食を作りだす音で起きるっていうのが幸せらしい。
結局、右側の部屋はウィル用に、左側の部屋はハティ用に整えることになった。
ウィルの部屋にはコーネットで『収納』してきた本棚を設置した。何十冊もの本も全て並べる。
それから、窓際に勉強机を設置。
ウィルはさっそく机に着いて、今日の日記に取り掛かってる。
あまりお勉強が好きじゃないウィルも、これなら自主的にお勉強してくれるかも。少なくとも、しばらくの間はね。
さて、ハティを新しい部屋に案内したはいいものの……
「俺はララと相部屋で良い。寝具も共にすれば良いではないか」
何か問題が? そう言わんばかりに"人間の姿"のハティは言った。
いやいや、問題しかないよ!?
「これまでも共に眠っていたが」
「そうだけどさぁ! それは、"狼"の姿のハティなわけで……!」
「どちらも俺であることには変わらん」
「ううう……そうかもしれないけど……」
ハティはどうしても、私と相部屋がいいらしい。自分は護衛だから、すぐ側にいたいと譲らない。二階と一階も『すぐ』の距離だと思うんだけど。
最後はほとんど泣き落としで──
「では、眠る時は『狼』の姿をとる。それなら構わないだろう?」
たしかに、『狼』の姿のハティと眠るなら、これまでと変わらない。
「まぁ、そういうことなら……」
───いい、のかな?
二階の左側の部屋は、そのまま空き部屋に。ゲストルームということにする。
うちに来るお客さんなんて、アロンくらいだから、結局、使わないままになる可能性が高いとは思うけど。
その夜。
キングサイズのベッドに、ハティと二人。
大きな胸板に、ぎゅっと抱き寄せられる。
何かが危険だ。前世で培った少ない知識が警告を出す。
「あ、あのっ、寝るときは狼の姿になるんでしょ?」
「ああ……そうだったな。これはうっかりしていた」
絶対覚えてたよね?
ぽん、とハティの姿が巨大な白銀の狼に変わる。もふもふとした毛足の長い毛皮に包まれる。
ハティの姿が見慣れたものへと変わっても、私は落ち着かなかった。





